第96話 再会

 目覚めた俺たちの前にシルとオリヴィアちゃんがいた。


 タオ師匠の領に来て久しぶりに見る顔に、なんだかホッと安心感を覚えてしまう。


『どうしたにゃ? だらしなく寝ているにゃ』

『たくさんの亀と戦ったピ』

『聞いたにゃ。いっぱいサモナーが集まる時期だったようにゃ』

『そうらしいピ』


 シルと久しぶりに念話で話したような気がする。


 アシェとオリヴィアちゃんも再会を喜んでいる。

 オリヴィアちゃんが入れてくれた紅茶を飲んで楽しそうに話を始めた。


『随分と強くなったようにゃ』

『ああ、森で会った時よりは遥に強くなれたピ。だけど、親亀には全く歯が立たなかったピ』

『上には上がいるのにゃ』


 シルはオリヴィアちゃんの側にいるようになって、穏やかな顔をすることが増えた。森にいた時のように必死に生きる姿は見られないし、戦いでも補助に回ってばかりで、自分が先頭に立つことはない。


 それは常にオリヴィアちゃんを気遣ってのことだと推測できる。


『ああ、世界は広いピ。だから楽しいピ』

『私たちは共に旅をしているようで、目的が全然違うにゃ。きっとあなたはどこまでも強さを求めていくにゃ』


 どこか寂しそうな声で話をするシルを不思議に思ってしまう。


 かつては相棒だと思っていた相手の言葉は遠くを見つめるように自分は強さを求めていないように聞こえる。


『シルはどうするピ?』

『私は、オリヴィアの側にいるにゃ』

『側にいるだけピ?』

『そうにゃ。あの子は体が強くないにゃ。アシェのように戦えば、寿命を縮めることになるにゃ。それなら、穏やかに長い時間を一緒に過ごしてあげたいにゃ』

『そうか、それも一つの道なんだろうピ』


 俺たちは野生で生きる獣だ。


 歳を重ねていくだけでも成長を遂げていくだろう。

 だが、強くなることで進化を行って、いつか番を見つける日が来るだろう。


 シルはそんな穏やかな時間を選んで進んでいく。

 それはオリヴィアちゃんというサモナーと出会ったからこそ選べた未来だ。


「ピリカ! 一緒にご飯食べよう」

「シル。師匠が食事にさせてくださいました」


 俺たちは顔を見合わせて二人サモナーの元へ足を踏み出した。



《side KFC団》


 我々は魔黒鳥捕獲のために店を任せて、全てを投げ打って鍛え直した。

 しかし、魔黒鳥は思ったよりも強くて力及ばず、敗北してしまった。


「くっ、あそこまで追い詰めて捕獲できないとは不甲斐ない!」

「しかしだな。あれだけ強くなっていたのだ。伝説の一角と言われるだけはあるぞ」

「だからこそ、価値があるレア食材なのだろう?」


 今後の方針を決めなければいけない我々は自らの店へと戻ることにした。

 最近はチェーン展開していることで、ほとんど自分たちがすることは無くなっている。


 昔のように料理を純粋に楽しむということが少なくなり、現在では金儲けを成功させてしまった身分だ。


「ふぅ、ここに戻ってくるのも久しぶりだね」


 一号店の上に部屋を借りて三人が集まれるようにオフィスとしている。


「うん? 誰だ?」


 オフィスのソファーに真っ黒なスーツに身を包んだ白髪の老人が座っていた。


「やぁ、よくぞ戻ったね。秘密コックKFCの諸君」

「なっ! 貴様は誰だ!」

「私かね? 私はシルバー。これでもかつてはサモナーマスターに

席を置いていたのに知らないとは悲しいね」


 そう言ってつけていたサングラスを外した老人は、確かにテレビなどで見たことがあるシルバー氏その人だった。


 色黒な日焼けした肌に、白髪の髪。

 筋骨隆々な体格に真っ黒なスーツがよく似合っている。


「あなたがシルバー氏ですって!」

「本物だ! スゲー!」

「マジかよ! 大物過ぎないか?!」

「ふふ、どうやら知ってくれているようだ。さて、そんな私から君たちに提案を持ってきた」

「シルバー様が私たちに?」

「そうだ。君たちの召喚獣にはまだまだ進化する兆しがあり、熱心に魔黒鳥を捕獲に勤しんでいるようじゃないか? 私も魔黒鳥を食したい。その恩恵に預かりと思ってね。君たちを鍛える師になろうと思う。どうかね?」


 シルバー様が師になってくださる? だが、私は嫌な予感がしていた。


「マジで! 俺は賛成だ」

「うん。俺もいい」


 二人が即決する中で、私はシルバー様について過去を思い出そうとしていた。


「ふふふ、そうかそうか、それはよかった。それでは早速行こうか?」

「いくってどこに?」

「決まっているだろう? 死の森にだよ。さぁ行こうか?」

「あっ! 思い出した!」


 ハード・シルバー!! 


 この人に関わって壊されたサモナーは数知れず! 表舞台から姿を消したのも、あまりにも弟子の教育がハードすぎて誰もついていけないから、表舞台の指導者としての地位を奪われて、現在に至っているはずだ。


「あっあの」

「出よ! 大鯨オオクジラ!」


 空に金色に光り輝く鯨が空を飛んでいた。


 あっ、これ断ったらあかんやつだ。


「さぁ、乗りたまえ。連れて行ってあげよう」

「うわ〜スゲーよろしくお願いします」

「お願いします」


 秘密コックFとCが乗り込んでいく。


 私は躊躇ってしまって足が止まる。

 そんな私の世界をシルバー様が押した。


「もう逃さないよ」

「いや〜!!!」


 私の叫びなど虚しく我々を乗せたオオクジラが飛び立った。

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