第94話 師の教え
《sideアシェ》
倒れたピリカを見て、私は呆然としている。
師匠が、親亀の怒りを鎮めてくれたから、大丈夫だったけど。
ピリカに無茶をさせてしまった。
「無理をさせたね」
師匠が私の頭に手を置いて、ゆっくりと撫でてくれた。
それがどんな気持ちだったのかわからないけど、私の瞳からは涙が溢れ出した。
「いいかい、アシェ。あんたの判断は、召喚獣を生かしもできるが、殺すこともある。それはとても怖いことなんだ」
「はい」
「この子は、あの親亀を見て、どんな顔をしていたんだい?」
「とても怯えていました。怖がっているのって聞きました」
「そうかい。召喚獣たちは、本能的に相手の強さを理解できる。相手が強くても戦える相手なのか判断ししているんだ。もしも勝てない相手ならば逃げなければならないからね」
あの時、ピリカは逃げようとしていた。
それなのに私はピリカを煽って、無理戦わせたんだ。
ピリカの咆哮も、魔法も全く効いてなくて、私とピリカが力を合わせた攻撃がやった効いたけど、それは親亀を怒らせるだけだった。
もしも、ピリカが身を呈して守ってくれなければ、私もピリカも死んでいたんだ。
「あんたはまだ幼い。判断を間違うこともある。この世界は弱肉強食の獣が支配する世界だよ。あんた自身も強くならなければいけない」
「はい!」
ああ、そうか。私は悔しいから泣いているんだ。
自分が、ピリカを傷つけた。
一緒に頑張ろうと思ってしていたけど、ピリカの判断を無視して、自分の気持ちだけで動いてしまっていた。
「ごめんね。ピリカ」
私はモフモフのピリカの毛並みを撫でてあげる。
逃げるために力を使い果たして、黒いヒヨコに戻って眠り続けるピリカ。
こんなにも弱っている姿は進化を行った時以来だ。
「この子達と気持ちが通わせることができるようになって、一つ成長したと思う。だが、それは新たな階段を登っただけなんだよ。あんたはサモナーとして、まだまだ進んでいる途中だ。この失敗を悲観することはないよ」
「はい」
その日は、ピリカと一緒に眠ることにした。
朝になって、ピリカが元気に目を覚ましてくれることを願って。
♢
《sideピリカ》
うん? ここは?
朝日が差し込む光によって目を開く。
記憶が曖昧になっていて、ハッキリと思い出せない。
体を動かそうとして、背中に感じる痛みとお腹に重みを感じる。
お腹の方へ視線を向ければ、アシェがもたれて眠っている。
そうか、無事に逃げることができたのか、よかった。
幸せそうに眠っているアシェを見て安心する。
「ピリカ」
「ふふ、気持ちよさそうにしているね」
「ピヨ」
タオ様がいることに気づかなかった。
「あんたもご苦労だったね。アシェをよく守った」
「ピー」
「落ち込むことないよ。あんたは自分のできることをしたんだ。それにマスターの意志を尊重した。本当によくできた子だ」
タオ様の手は暖かくて撫でられているととても心地よい。
「ピ〜」
「だけどね。まだアシェは幼い。判断を間違うこともある。だから、あんたが相手を危険だと思った時は主人の言うことを破っても命を守るようにしてやっておくれ」
タオ様は俺に対して、頭を下げた。
きっと偉い人なんだろうな。
そんな人が召喚獣に頭を下げる。
きっとこういう人だからこそ、ブタウサギ先輩は心を開いて、一緒に強くなっていたけたんだと思う。
「ピヨ!」
「ふふ、あんたは賢いね」
「ピヨ」
俺はアシェを守りたい。
だけど、俺も今日の亀は判断を間違った。
今度はアシェが隣にいる時は、戦わなくても良い相手とは戦わない。
「だけど、一つだけアドバイスをしておくよ。絶対に勝てないと思う相手でも野生に帰ったなら戦いな」
その表情は不適な笑みを浮かべていた。
「あんたらはあくまで獣だ。聖なる獣様たちのような強さを求めて生きている。だから、野生に帰った時には自分が王だと思って振る舞いな。負けんじゃないよ。強く生きる。そして、その強さを持ってアシェを守るナイトになりな」
タオ様は凄い人だ。
こちらが言葉がわかるのかどうかなんて関係ない。
心に語りかけるように気概を伝えてくれているんだ。
「ピヨピヨ」
「ふふ、あんたは返事をしているようだね。面白いね。ウチの子も賢くて可愛いが、あんたもどれだけ成長して進化するのか楽しみだよ。いつか、ウチの子と本気で戦う時が来るかもしれない。その時は、頑張りな」
そう言ってタオ様はもう一度俺の頭を撫でて去っていった。
俺もアシェを起こしたくないから、もう一眠りすることにして、目を閉じる。
攻撃を受けたからか背中が、ヒリヒリしたがモフモフガードで羽毛を再生させて傷口も見えないようにしておく。
アシェに心配はかけたくないからな。
おやすみ、アシェ。
君は必ず俺が守るから。
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