第90話 ブタウサギ師匠

 俺は退屈していた。


 アシェと過ごす毎日は楽しい。

 

 それは間違いない。


 ただ、森で生きていることを実感した戦いの日々から離れ、野外学習でKFC団と戦った日々からも1ヶ月が過ぎようとしていた。


 アシェと共に授業に出ることは仕方がないと思っている。

 それでも戦いが無く、怠惰に日々を過ごすことに飽きつつあった。


「二年次も半年が過ぎて、もうすぐ夏休みに入ります。それが終われば二年次のエキスパート戦が開始されて上級生との戦いを行うことも増えるでしょう。その前に戦いについてを指導してくださる先生を本日はお呼びしております」


 戦闘訓練を教官する先生に呼び出されてやってきたのは、チャイナ服をきたお婆さんと、隣にはパンダカラーをしたブタのような、ウサギのような小さな召喚獣が従っている。

 

「可愛い!」

「あれは国宝級ですわね」


 アシェたち、女子はブタウサギの可愛さにメロメロになっているが、俺はカンガルー師匠のような王気を感じて身震いしていた。


 あれは学園長が連れているブルードラゴンと同じ強さを持つ化け物だ。


「ニーハオ。私はタオ・ヤオだよ。ここの学園長は昔ながらの付き合いでね。臨時講師として、たまに手伝いにきているんだ。こいつは私の召喚獣プーアだよ」


 お婆さんは怪しい雰囲気を保っているようにしか俺には感じられない。

 なんだあのサモナーと召喚獣! 化け物なのか?


「ふむ。どうやら私たちのことをちゃんと見えていて、正確に判断をできているのはそこの黒いヒヨコだけだね」

「ピヨ!」


 目をつけられた!


「ふん、あんたは最後だね。他の子達から指導を開始しようかね。まずは、私の話を聞きな」


 お婆さんの前に召喚獣のブタウサギが出る。

 

「いいかい、召喚獣はあくまで魔物だよ。仲の良い友達じゃない。従わせるべきことができない奴は召喚獣に舐められる。そんな奴には将来はないと思いな」


 ブタウサギが次第に威圧を増していく。


 最初は可愛いと言っていた女生徒たちが倒れていく。

 次第に威圧がハッキリとわかるようになり、恐怖で泣く子まで現れた。


 気持ちが強く保たなければ立つこともできない。


「ふふ、残り三人だね」


 いつの間にか、アシェ、ヒューイ君、オリヴィアちゃん以外の全員が座り込んで、恐怖に震えている。


 オリヴィアちゃんの意外な胆力に驚いてしまう。


 だが、ここまでだな。


「ピーーーーーーー!!!!(王者の咆哮)」


 俺は子供たちを守るように威圧を咆哮で打ち消した。


「ほう、やるじゃないか。やっぱりあんたが最後に残ったね」


 お婆さんに言われて振り返れば、三人が尻餅をついていた。

 オリヴィアちゃんを守っていたシルも限界だったようだ。


「ピヨ」

「ふん、そんな可愛く鳴いてもダメだよ。あんたは今から特別授業だ」


 お婆さんが特別授業だといった瞬間に、召喚獣のブタウサギの姿が掻き消える。

 チワワほどしかない小さな体は一度見失うと厄介だ。


 目で追うのではなく、スキルの気配察知を使って探ったところで、ブタウサギが俺の後頭部に付近に現れたことに察知する。


 咄嗟に、モフモフガードを発動して、大量の羽毛が攻撃を緩和してくれる。


「ピッ!」


 だが、それでもバウンドしながら吹き飛ばされる体は思っていた以上に攻撃の威力が大きかったことに驚いてしまう。


「ほう、今のを耐えたじゃないか。凄い凄い」


 あのババア!!! 容赦ねぇ!


 カンガルー師匠でも、ある程度は手加減してくれていた。 

 それなのに王気を纏ったまま攻撃してきやがった。


 俺がカンガルー師匠の王気を見ていなかったら耐えられないレベルだぞ。


「やるじゃないか。あんたがこの中で一番だよ」


 いつの間にか懐に入られた俺は顎に、ブタウサギがアッパーカットをお見舞いしてくる。モフモフガードをしていたはずなのに、上空に打ち上げられて身動きが取れない。


 進化を行えば反撃をできるだろうが、あの小さな体を捉えられるとは思えない。


 デカくなればデカくなるほど強くなれるとどこかで思っていた。


 それなのにカンガルー師匠よりもさらに小さい召喚獣に圧倒されている。


 負けたくない。


 アシェを守りたい。


 黒い魔力が噴き出してくる。


「これ以上は、いいね」


 だが、俺が力を解放する前に、ブタウサギが俺の体を地面へ撃ち落とした。


「ピリカ!」


 アシェの声が聞こえる。

 ごめんな。


 お前を守ってやりたいと思っていたのに。


「ピヨ!」

「その力は間違った物だよ。制御できないなら使うことやめな」


 地面に撃ち落とされた俺の前でババアが見下ろしながら言葉を告げてきた。


 なんなんだ? どうしてそこまで俺のことがわかる?


「ピー」

「ふふ、良い眼をしているね。あんたは強くなる。だから焦らないことだよ」


 そういってお婆さんは倒れた俺の頭を撫でてくれる。


 その手は先ほどの強烈な一撃を俺に喰らわせた召喚獣のサモナーとは思えないほど優しくて、撫でられているうちに俺の意識は失われた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 あとがき


 どうも作者のイコです。


 番外編も加えてですが、100話達成20万字達成です^ ^


 皆さんの応援のおかげで⭐︎も1000を超えて本当に感謝ばかりです。

 今後もどうぞ応援をよろしくお願いします(๑>◡<๑)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る