第84話 野外学習 1

 アシェとどこかにいくのはダンジョン以外では実家に帰ったぐらいだ。

 俺が森に行っている間に、アシェはオリヴィアちゃんと街に行ったそうだ。


 色々と友人付き合いをしていることは喜ばしいことだな。


 人は一人では生きていけないからな。


「ピリカ、いくよ〜」

「ピヨ!」


 学園から王都の外へ出られる門を通って、俺たちは王都の外に出た。


 入るときは、正門がある大きな門から入ったので、不思議な感覚ではあるが、確かにいくつかが門があるんだから出れないわけじゃない。


 アシェの実家があるのは、北に位置する正門で、東西南北に門が作られており、西側の門は学園と隣接しており、そこから外に出ると草原が広がっている。


「凄い広いね」

「ふふ、アシェちゃんは、こちらに来るのは初めてですか?」

「うん。王都から出るのも実家に帰るだけだから、やっぱり行ったところに行くのは楽しいようね」


 草原の向こうに広がる赤い土と岩山。


 荒野が広がっていると言う場所に向かっていく。


「今から行く赤い荒野は、岩系の魔物や、砂系、それに生態系を水分が少なくても生きていけるように変化させた魔物たちが多く出現します」


 草原を歩きながら、先生が説明をしてくれる。


 確かに、森とは違う魔物が出るのだと思うと面白さを覚える。


「注意すべきは、百メートルは体長があると言われるサンドワームや、岩山に隠れる大蟹などは覚えていますね?」


 先生の問いかけに生徒たちが返事をする。


 いやいや、初めて聞いた魔物なんですけど。


「ピリカ、大丈夫だよ。百メートルもあるサンドワームは伝説の存在だって、先生も言っていたから。まぁそれでも凄く大きくて長いらしいけど。会いたくはないよね」


 ちょっと見てみたい。


 子供の足では、少し遠く感じる遠足の距離は5キロほどの道のりを二時間ほどかけてやってきた。


 疲れた子の中には召喚獣に運んでもらう子もいたが、概ね二年次の生徒は全員がたどり着くことができたようだ。

 一年間で勉強だけでなく、体育やトレーニングで全員が体力を鍛えているだけはあるな。


「ふぇ〜疲れたわね」

「ツユちゃんは途中から、フロッピーの背中に乗っていたじゃない」

「コロンちゃんもソリーに運ばれていたでしょ」

「みんなしんどいよね」

「そうですわね。私もシルがいなければ無理だったと思います」


 一番体力がないのが、オリヴィアちゃんで、一番体力があるのはアシェだった。

 オリヴィアちゃんは、歩き出して20分ほどでダウンしてシルにおんぶしてもらっていた。


 シルのフワフワな毛並みに包まれて、オリヴィアちゃんも満足そうだからよかった。次に、ツユちゃんがツルツルとしたフロッピーの背中に乗って、コロンちゃんが、ソリーの少しゴワゴワとした毛並みに体を預けた。


 最後に一時間半を超えたところでアシェが俺を見たので、フワフワな毛並みの上に着席する。


「皆さん、よくぞここまで辿り着きました。体力が少ない者は魔力に頼り、召喚獣を使い。どんな形でもたどり着くことが我々の目的でした。そして、最後まで帰り着くことが今回の目標です。その前に荒野を眺められる草原でランチをとりますので、食堂で預かったお弁当を出してください」


 先生の話では、行軍が訓練であり、荒野を眺めてランチを取ってしばらくの休息の自由時間を過ごして暗くなる前に帰宅するという工程だ。


 難しいことではないが、まだまだ体が発展途上の十歳ぐらいの少年少女には、これでもなかなかに辛いようだ。


「ピリカ。今日はサンドイッチにしてもらったんだよ」

「ピヨ!」

「アシェちゃんのお弁当は凄く大きいですわね!」

「ふふ、ピリカが食いしん坊だからね。これぐらいじゃないと足りないんだよ」


 運んできたお弁当箱は、普通の子たちの十倍はあるだろうな。

 お重になっていて、それが3段重ねだ。


「ほら、ピリカ。あーん」

「ピヨ!」


 アシェが俺の口にサンドイッチを投げ込んでくれる。

 フィッシュフライのサンドイッチはマジで美味い。


 魚と虫で悩むところだが、虫はアシェが苦手ということで魚が多いが、フィッシュの竜田揚げに、フライ、べちょっとならない工夫がされていて、頭が下がる思いだ。


「ソリー、お肉だよ」

「シルちゃんもお肉ですよ」

「フロッピーもお肉よ」


 どうやら三人の召喚獣たちはお肉がメインの食事内容のようだ。

 俺だけが魚なので、アシェに迷惑をかけてしまうな。


「ピリカ、私もお肉を食べるから気にしなくていいからね」

「ピヨ」


 どうやら俺の考えていることが伝わってしまったようだ。

 顔に出てしまうのはいただけないな。


「ご飯を食べたら、この辺りを見てまわりたいから、その時は頑張ってね」

「ピヨピヨ!」


 任せろ。アシェたちが疲れないようにしっかりと観光の足になってやるぞ。


「あまり遠くに行くわけにはいかないけど、ちょっとは見たいもんね。この位置だと砂漠は見えないし」


 人工ダンジョンのゴーレムダンジョンで砂漠は見ているが、実際に存在する砂漠は広くて巨大なサンドワームがいるから見たい。


「ふふ、ピリカは好奇心旺盛だね」

「ピヨ!」

「私だろって、まぁね」


 四人で楽しく食べる少女たちと楽しい食事が出来て、よい野外学習になりそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る