第81話 真なる進化
タラテクトはバランスを崩しながらも、他の足を使って耐えた。
こちらの攻撃は当たる瞬間に、踏ん張られて浅くしか入らない。
「ピッ!」
「今のはよかったよ。うん。上級生の人を相手にしても戦えているよ」
アシェがいてくれる。
彼女を守るために俺は力を振るう。
「うん、そうだね。ピリカ、まだ力を隠しているんだよね?」
「ピヨ!」
ああ、俺は進化するヒヨコだからな。
今よりも進化して巨大なヒヨコになれるんだぞ。
「ねぇ、ピリカの力を私に見せてくれない?」
「ピヨ!」
任せろ。その言葉を待っていたんだ。
アシェが俺の進化を楽しみにしている。
《進化の条件が揃いました。魔黒鳥に進化を開始します》
えっ? いきなり《神の声》さんが発言して、アシェの思いが俺の体に流れ込んでくる。
《力を解放します。真の魔黒鳥へ進化します》
真の魔黒鳥? どういうことだ? 前に魔黒鳥に進化しようとした時は、魔に染まろうとする者と問いかけられた記憶がある。
しかもその時には《神の声》さんとは違う声だったように思える。
今回は正真正銘の《神の声》さんだ。
「ピヨ!」
「ピリカ?」
「あん? なんだ? スキだらけじゃねぇか! タラテクト! やっちまえ」
アシェを踏み潰せるほど巨大な蜘蛛が地面を振動させてやってくる。
「ピリカ!」
ああ、わかってるよ。
アシェの優しい心が俺の中に流れてくる。
アシェを守ってやりたいと俺の心が強くなる。
見ていてくれ。
「ピーーーーーーーー!!!!!(王者の咆哮)」
今までよりも大きな声が全身から発せられる。
黒く鋭い嘴、漆黒の羽は硬度を増して、鉤爪は何物掴めるほど大きく。
自分でもわかる。
いつもの巨大化するだけの進化ではない。
「ピリカ? 凄いよ!!! 漆黒の大鷲みたいだよ!」
自分の姿を鏡で見たわけではないから、断言はできないが、それでも自分の体が本当に進化したんだと実感できる。
「なっ! なんだその姿は! 本当に進化したっていうのか?」
大きさだけならタラテクトにも負けないだろう。
だが、タラテクトよりも遥に強い。
「くっ! タラテクト! 手加減は不要だ。ポイズンネット!」
蜘蛛なのに糸を使わないと思っていたが、どうやら下級生ということで手加減をしてくれていたようだ。
糸が吐き出されて、辺りに巣を作り始める。
その速度は素晴らしく、洗練されていた。
きっと何度も何度も練習したんだろうな。
それが伝わってくるが故に、柄の悪さが対比してしまう。
それだけ練習してひたむきに強くなろうと思えるなら、どうして正々堂々と戦いを挑まなかったんだ? もっと言い方ややり方があっただろう。
「ピーーーーーーーー!!!!(王者の咆哮)」
大気を震わせるほどの咆哮は、アシェ以外の全てを威圧する。
「なっ!」
「ピーーーーヨ!」
タラテクトが放ったポイズンネットを翼を羽ばたかせて発生させた風で吹き飛ばす。サモナーの上に降り注ぐ。
「GSYAAAA!!!」
タラテクトがサモナーを守るようにその身で庇う。
耐性を持っているから魔物は問題ないが、サモナーはそういうわけにはいかない。
公式の試合でない場合は、こういう攻撃も有効になってしまう。
俺は風を起こしただけで相手を無効化できてしまうのだ。
彼らの上で羽ばたきながら飛翔する。
あれだけ、何度練習しても一メートルぐらいしか吹き上がれなかった体は、優雅に空を羽ばたくことができる。
俺はアシェを背中に乗せて、彼らの上空で羽ばたきながら睨みつける。
「先輩、上をとったよ」
「チッ、ああ、俺の負けだ」
「よし!」
アシェが勝利を喜んでくれる。
俺はそのままアシェを連れて空の散歩を楽しんだ。
自分でも、まさか真なる進化が存在していたなど知らなかった。
きっと最初に進化をしようとした時は、師匠を倒したいという邪な心が俺を魔に落とすように働いたんだろう。
だが、今はアシャを守りたいという気持ちが強かった。
「ピリカ! 凄いね。こんなにも大きく成長したんだね」
「ピーーーー!!!」
空の上でもアシェが寒くないように、首筋はモフモフボディーを発動する。
今までは、全身を膨れ上がらせるようなモフモフボディーしかできなかったが、自分でイメージしてアシェの周りだけ羽毛をフカフカにして包み込んであげることができる。
「ふふ、暖かい。それに凄いね。空を飛ぶって」
俺の位置からではアシェの姿は見えないが、風がアシェの髪を凪でいるだろう。
「ピリカはどんどん大きくなって強くなっていくんだね。進化までできるなんて凄いよ」
アシェが首筋を撫でてくれる。
「ピーーー!!!」
しばし、空の散歩を楽しんだ俺たちは、アシェの寮に戻って進化も元の姿に戻る。
「あら? ヒヨコにも戻れるんだね。ふふ、あのままじゃ一緒に寝れないからどうしようかと思っていたからよかった」
ギュッとアシェが俺を抱きしめてくれる。
ヒヨコになったモフモフボディーにアシェを咥えて背中へ乗せて中へと入った。
「ありがとう、ピリカ。私も絶対に強くなるからね」
「ピヨ!」
ああ、一緒に頑張ろう。
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