第79話 ヒヨコ、ボスになる

 学園長の召喚獣であるブルードラゴンに挑むイベントはなかなかに面白かった。


 あれだけの強者に戦いを挑めることはほとんどない。

 師匠クラスの強者に、これから挑んで経験を積むことが今の俺には大切だ。

 レベルを上げながら、強い相手に稽古をつけてもらう。


「ピヨ!」

「どうしたピリカ? 何か決意したような顔をしているけど」

「ピヨピヨ」


 俺はもっともっと強くなるぞアシェ。


「よくわからないけど、楽しそうだからいいか」

「おい! あんたが、アシェさんか?」

「うん? 君は誰?」


 寮を出たところで、いきなり小さい男に話しかけられた。


「俺の名前はテリー。短パン小僧と今は呼ばれているぜ」


 確かに短パンにベースボールキャップを被った少年だな。


「え〜と、短パン小僧テリーくんがどうしたの?」

「俺と勝負してもらいたい!」

「勝負?」

「ああ、学校に行く前の出会い頭勝負ってやつだ。それとも俺が怖いか?」

「勝負っていいのかな?」

「ピヨ?」


 さぁ知らないが、まぁやりたいなら俺は構わないぞ。


「いけ! ロックロック!」


 こちらが同意もしていないのに、いきなり彼が何かをこちらに向かって指示を出した。


 すると、大きな岩がゴロゴロとこちらに向かってくる。


 咄嗟に、アシェを背中に乗せて距離を取れば、岩の魔物だったようだ。


「へへ、俺のロックロックは岩なんだ。ドラゴンの一種だが、ヒヨコが倒せると思うなよ!!」


 闇魔法を使えば、簡単に倒せてしまえそうだが殺したくはない。


 召喚獣として、これからサモナーと一緒に協力していくので、痛い目にあって教えてあげたいぐらいだ。


「ピヨ」

「戦うんだね。手加減できる?」


 どうやらアシェも同じことを考えていたようだ。

 俺はアシェに大丈夫だと言って前に出る。


「ふふん。ヒヨコに何ができるっていうんだ! いけ、ロックロック。転がる!」


 ゴロゴロと地面を転がってくるロックロックに、俺は勢いよく飛び蹴りを放ってみた。これで効果がないなら考えなければならない。


「BOOOOOOOO!!!!」


 あれ? 蹴った瞬間に凄い飛んでいった。


「ロックロック!!! くそ! よくもロックロックを!!」


 泣きべそを浮かべて、短パン小僧が走り去っていった。


「次は私よ! ミニスカ美少女サリー」


 なぜか一年生たちが、列を成して挑みかかってくる事態になって、俺は次から次へと召喚獣の相手をすることになった。


 ちなみに10戦まで数えたが、それ以降はどうでもよくなった。

 進化前の魔物から、少しランクの強い者がいても、せいぜいが危険度☆で、最高でも☆2だったので、相手にすることも意味がない。


「ピリカ、そろそろ学校に行かないと遅刻だよ。みんなも授業に遅れるから、解散! 続きは明日だよ!」

「はい! ボス!」

「ヒヨコボス! ツエー!」

「これが二年生のラスボスかよ」


 なんだか、変な噂が流れている様子で、ボスボス、ヒヨコボスと一年生から呼ばれていた。


「っていうことがあったんだよ」

「ふふふ、それはご苦労様でした」

「笑い事じゃないよ。大変だったんだよ。ピリカが相手にするから私は見ているだけだったけど、あれが一年生以外だったら、嫌だったな」

「うーん、もしかしたら、一年生だけでは終わらないかもしれないのです」

「えっ? どういうこと?」


 オリヴィアちゃんが何やら悪い顔をしている。

 シルを見ると、ヤレヤレとため息を吐いてこちらに申し訳ないように頭を下げた。


 なるほどな。


「実は、ヒヨコボス、ピリカちゃん! を宣伝したのは私なんです!」

「えっ!? どうしてそんなことを?」

「私は常々思うのでルーキー大会で審判をしてくださった先生の判断が正しかったのかと、サモナーと召喚獣は一心同体です。ルーキーだからサモナーに危険がないようにいうルールでしたが、召喚獣と共に危険に身を投じるサモナーに危険が及ぶのは当たり前なのです」


 オリヴィアちゃんに何やらスイッチが入った。


「その中で、アシェちゃんは、ピリカちゃんと必死に勝利を掴み取ろうとしました。ですが、あのジャッジでは納得できない結果になってしまいました。ですから、私は考えた末にアシェちゃんとピリカちゃんの知名度を上げることで、審判をされる方。観覧をしている方々に、二人は強いことを理解してもらいたいのです」


 今後を見据えて、どんな者にも負けないヒヨコであることをこちらから宣伝をするわけか、それで一年生がボスだって挑戦をしてきたわけだな。


「えええ〜!!! それって色々と注目を集めて大変なんじゃないの?」

「その試練に乗り越えるのも二年生首席のつとめですよ」


 オリヴィアちゃんなりにアシェと俺を育てようと考えてくれているんだな。


「ピヨピヨ!」


 なら、俺に任せてくれ。

 修行にもなるから一石二鳥でいいな。


「ほら、ピリカちゃんはやる気ですよ」

「ハァー私は大変だよ。でも、ピリカがやる気なら付き合うしかないね。頑張る」

「アシェちゃんファイトです!」


 これで対戦相手に困ることはなさそうだな。

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