サモナー学年二年生

第78話 ヒヨコ帝国

 久しぶりに学園に戻ってくると、なぜかどこに行っても注目を集めてしまう。


 この漆黒のモフモフボディーがいけないのか? 人々を魅力してしまうのか?


「アシェちゃん。おはようございます! それにピリカちゃん。お久しぶりですの」


 学校に入ったところでオリヴィアちゃんに出迎えられる。

 久しぶりに見るシルは少し縮んだように見える。


「ピヨ!」


 俺は二人に向かって頭を下げた。


「まぁ、ピリカちゃんは相変わらず礼儀正しい紳士ですわね」

「ピリカは、オリヴィアちゃんのこと好きだね」

「ピヨ!」


 ああ、好きだぞ。

 なんだろうな、そこはかとなく通ってくる上品なお嬢様感がとても良いと思っているんだ。


 それにシルの高貴な雰囲気と相まって、お似合いのコンビだと思っているぞ。


「ふふふ、それならば嬉しいですわ。それに、ピリカちゃんは大注目ですわね」

「そうなんだよね。連れて歩いていると凄く見られちゃうんだ」

「ピヨ?」


 どうして注目を集めているんだ? 俺は召喚されたばかりで何もしてないぞ。


「何を首を傾げているの? あなたがヒューイ君・ロー君ペアを瞬殺したからだよ」

「ピヨ!」


 ああ、そんなこともあったな。


 あの後から、アシェに向けられる視線が畏怖に変わったそうだ。

 決勝大会に残るような相手を瞬殺できるヒヨコ。


 つまり、それまての戦いがいかにハードなものだったのか話題になり、アシェの対戦相手たちの評価も上がっているそうだ。


 つまり、ヒヨコが恐れられ、ヒヨコ帝国が出来上がっているということだ!


「ピリカ、調子に乗ったらダメだからね。だから、言わなかったのに」


 む〜、アシェがお姉さんになって厳しくなっている。

 昔なら一緒に喜んでくれていたのに。


「ごめんね。周りの目があるから、今は褒めてあげられなくて」


 本当にアシェはお姉さんになったんだ。

 周りに気づかいが出来るようになったんだな。


「ピヨピヨ!」


 アシェの言うことが正しい!

 みんなに気を遣えてアシェは偉いな!


 それはモフモフボディーでアシェを包み込む。


「うわっ! いきなりどうしたの?」

「ふふふ、二人は本当に仲良しですわね」


 オリヴィアちゃんに笑われてしまったが、森で過ごす生活とは違って和やかで、穏やかな時に幸福を感じてしまうな。


「ほら、ピリカ! 教室に行くよ」

「ピヨ!」


 二年になって教室では、サモナーとして優秀な者たちが顔を揃えている教室へと入っていく。


 ルーキー大会で顔を合わせた者や、初めて顔を見る者もいて、学園の広さを思い知らされる。


 だが、今の学園でサモナーの新二年生ではアシェが主席であることは間違いない。


 誇らしくてついつい胸を張ってしまうな。


「皆さん、新年度を迎えられたこと心からお喜び致します。一年生で、召喚獣とお別れしなければいけなかった人。サモナーの道を断念した者がいるなかで、あなたたちは優秀であることを証明しました」


 お別れと言われてズキっと胸に痛みが走る。

 アシェと別れる未来など考えたくもない。


「今年も一年、己の力を磨いて寄り高みに近づけるように勉強に励んでください」


 先生の挨拶が終わって、俺たちは校庭に移動した。


 新二年生には恒例行事が行われると言われて来てみれば、学園長がブルードラゴンと共に待ち構えていた。


「諸君、新二年生おめでとう。だが、一年生の時とは違ってこれからは進級出来た者として誇りを持ってもらいたい。そのために強者との戦闘こそが経験になる。今日は我が召喚獣に戯れではあるが挑む権利授けよう。どこからでもかかって来るがいい!」


 ブルードラゴンが咆哮を上げて立ち上がり、両翼と両腕を広げる。


 その威圧は、師匠が見せてくれた王気に近い力だと理解できた。

 

 この王気を纏う魔物たちを倒す事が出来なければ俺は次のステージに上がることは出来ない。


「ピッ! ピリカ!」

「ピヨ?」


 名前を呼ばれて振り返れば、アシェが震えて俺にしがみついていた。


 周りにいる生徒たちもアシェと同じように震えて動けていない。シルですら足が竦んでいるようだ。


「ピーーーー!!!(王者の咆哮)」


 ブルードラゴンが放つ威圧を跳ね返すように、俺は叫び声をあげる。


 恐るな猛者たちよ。


 我々は、ヒヨコに過ぎない。


 強大な敵に挑もうではないか!


「ピーー!!!」


 いざ行かん!


 俺はアシェを背中に乗せて走り出した。


 後ろに誰かが続こうが、続くまいと関係はない。


 あのブルードラゴンと戦える事が喜ばしい。


「ピリカ、戦うんだね。なら、私も覚悟を決める!」


 羽毛越しに震えているアシェの気持ちが伝わってくる。


 だから、あえて言う。


「ピヨ!」


 アシェは絶対に俺が守ってみせる。

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