第77話 久しぶりの召喚 2
師匠にぶっ飛ばされた日から、進化を繰り返し行って体を慣らしていく訓練をしている。初めて進化を試みた時のような不快感や、魔に落ちる感覚はない。
体が大きくなって技の威力が上がっているだけで違和感が半端ない。
それに飛翔をできればもう少し高く飛べるようになりたい。
一度崖から飛び降りて直角飛行にチャレンジしたが、一応地面に激突する寸前で止めることができた。
「ピヨ〜」
あの時のことを思い出すとヒヤヒヤして仕方ないが、まぁこれはこれで十分にいいチャレンジだった。
もう一度やれと言わればやりたくない。
紐をつけないでバンジージャンプをして、己の力で飛べと言われて誰がやりたい思うのだ?
とにかく俺は恐怖を乗り越えて、進化した状態での訓練もすることにした。
『少しは形になってきているようじゃな』
師匠にはまだまだだと言われたままだ。
俺はどこかで勘違いしていた。
すぐに強くなろうと焦っていたと言ってもいい。
だが、師匠のように何年もかけて熟練させた人に、いきなり勝利することが無謀だった。まだまだ越えなければいけない壁が多いことを思い知らされた。
『師匠。そろそろお迎えが来ると思いますッピ。こちらに落ち着いて戻れるのは先になると思いますが、戻ってきたらまた指導をしてもらえますピ?』
『ワシが生きて居ればのう。ここはそういう場所じゃ』
師匠ですら、生きることが難しく考える森。
いつかハエのように森の王を目指す者と戦う機会が増えることだろう。
その時のためにも今は力をつけておきたい。
『師匠は殺しても死にそうにないっピ』
『それはわからぬよ。そうじゃな、お前に一つ見せておいてやろう』
何をだろうと思って師匠の後についていく。
師匠は岩壁の前にやってきて見ていろと魔力を纏い、闘気を発生させる。
とんでもない威圧によって体が地面に縛り付けられるような、恐怖から後に飛び退いていた。
なっ、何が起きている? いつもの雰囲気とは違う。
『これは獣王が纏う王気という。貴様は空王の王気を纏ってはいない。これが纏えぬうちはワシの相手などできぬことを知るがいい』
師匠はただ王気と呼ばれる特殊な気を放っただけだ。
それだけで俺は平伏したい衝動に駆られ、周りの石や木々が震える。
『貴様が旅の先で王気を纏うことがあれば、ワシの相手として認めてやろう』
師匠が見せた力の一端はとんでもない力に思えた。
進化なんてただの能力アップじゃダメなんだ。
もっと根本的な力の源が違う。
そんな絶望を味わった一日の最後に、魔法陣が出現した。
『師匠、色々とお世話になりまたッピ。今度来る時にはもっと強くなっていますッピ』
『期待はしておらんよ』
師匠に見送られて俺は久しぶりに召喚に応じた。
♢
「ピリカ! おかえりなさい」
魔法陣に飛び込むとアシェの部屋だった。
どうやら、明日から学園が正式に二年生に上がって始まるので、俺を呼んでくれたようだ。
「二年生から、実習と実践が増えるから色々と大変になるんだ。ピリカの力がいるからよろしくね」
「ピヨ!」
「会っていなかった間に、また大きくなった?」
フクフクに成長した羽毛は自慢の一品と言えるだろう。
三ヶ月前よりも、俺は確実に強くなって進化も果たした。
最近は、巨大芋虫にブルブルバッファローなど、栄養価の高い食事も取れているので、羽毛の質は確実に上がっている。
「モフモフだ〜!!! これぞ羽毛ピリカ! 気持ちいい! あっ、だけど、ずっと森にいたからお風呂に入らないとね!」
「ピヨ!!!」
うっ、お風呂は苦手だ。
嫌いではないのだが、羽毛がビショビショになって乾くのに時間がかかる。
風魔法で全身をドライヤーしてなんとか乾かすしかないな。
「ほら、お風呂に行こ。洗ってあげるよ!」
「ピ〜」
「そんな情けない声出さないの!」
すっかりお姉さんになったアシェは世話好きだな。
出会って、二年と半年で、アシェも成長したものだ。
俺はされるがままに石鹸で全身を洗われる。
「うわ〜、やっぱり汚れてるね。全然泡立たない。これは根気がいるぞ」
アシェたちが使うお風呂とは違って、召喚獣を入れるためにシャワーが完備された洗い場といった方が正しいだろう。
ヒヨコ専用シャンプーなどは存在しないので、石鹸ゴシゴシを現れる。
意外にアシェのブラッシングは気持ちが良くて、石鹸でゴシゴシされるのも痛くない。
だが、森で過ごした三ヶ月の間に水浴びをしていたが、痒いところに手は届かないものだ。アシェが背中の方などを洗ってくれると最高に気持ちいい。
「ピ〜」
「ふふ、あんなに嫌がっていたのに、ピリカってお風呂好きだよね。洗い出したら気持ち良さそうな声出すんだから」
気持ちはいいが、羽毛が乾くのに時間がかかるのが嫌なんだ。
まぁアシェが一生懸命に洗ってくれているのに、嫌なことなんてあるはずがない。
汚れが取れると羽毛で泡がどんどん増えていく。
「よし! 洗い流すよ!」
シャワーを少し熱めしてかけてくれる。
それは心地よくてついつい眠くなってしまう。
アシェの側にいると気が緩みそうなになってくるな。
やっぱりアシェの側が俺の居場所なんだと思える。
「終わり〜。さぁ、ピリカ! ご飯を食べて! 明日のために寝るよ〜」
「ピヨ!」
俺はお礼のために頭を下げて、アシェと共に寝ることにした。
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