第76話 魔黒鳥

 全身の肉が引きちぎられていく感覚がある。

 骨が伸び、体が変貌していく。


『汝、魔に染まろうとする者よ。問う、汝が求める力は何か? 汝は力を持って何を為す。空の王となることか? 世界を滅ぼすことか? 魔の力とは汝が思うよりも遥に危険で、強力な力だと理解しているか?』


《神の声》さんに似た知らない誰かの声。


 問いかけているのか、それとも断言しているのかわからない。


 だから、一つ一つ答えていく。


 ・俺が求める力は、アシェを守れる力だ。

 召喚獣がサモナーを守りたいって思うのは普通だろ。

 

 ・力を持って何をするかって? 強い奴に負けないようにする。

 この世界は魔物が異常に強い。

 進化も様々で、どんな相手にでも対応できる強さを持ちたい。


 ・空の王となることは最終目標だ。もしもアシェとの冒険で何を見つけるのかわからない。その冒険の間に空の王になってしまうかもしれない。


 いや、もしかしたらアシェとの冒険を終えた後に王を目指すのかもしれない。

 だけど、言えることは俺は空の王を今も諦めてはいない。


 ・世界を滅ぼす? バカなことを言うなよ俺は世界を楽しんでいるんだ。この世界は面白い。


 ヒヨコになった時は戸惑ったが、今となっては自分がヒヨコとして生きていることを楽しんでいるんだ。


 滅ぼす必要はないだろ。


 ・魔の力は俺が思っているよりも危険だって? それがどうした? 俺はダークなヒヨコを選択して、強さを求めた時から、そんなことはわかっているんだ。


 アシェと挑んだルーキー大会。あの時も俺は暴走しかけた。


 ハエの時も、強い奴と戦う時は理性を失いそうになる。


 だが、俺は俺として意識を保ったまま強くなってやる。


 ただの獣に成り下がるつもりはない。


『……汝の意思は理解した。力を与えよう。されど、汝が魔に押し潰された際にはその全てを持って償ってもらうぞ』


 ああ、その時には俺を滅ぼしてくれ。


 世界にとっての厄災になりたいわけじゃない。


『契約は成立した。汝の命を持って進化の儀を終える。これより貴殿は、ヒヨコから魔の王への一歩を歩むのだ』


 声はそこで途切れた。

 

 次第に意識が覚醒していく。


「ピーーーーーーー!!!!!」


 全身に力が漲っている。

 翼を広げて、自らの体が大きくなっていることに驚いてしまう。


 目の前にいるカンフーカンガルー師匠は三メートルぐらいのカンガルーで、ニメートルぐらいしかなかったひよこの時には大きく見えた。


 だが、今の俺は師匠を見下ろして翼を広げれば、師匠を片手で包み込めてしまいそうなほど大きくなっている。


『気分はどうじゃ?』

『驚いていますっピ』

『ふむ。どうやら成功したようじゃな』

『どういうことですかっピ?』

『昔、貴様と同じで進化する魔物に出会ったことがある。だが、そいつは進化した瞬間に暴走して力を制御できなんだ』


 師匠の言葉に俺は背中に冷たい悪寒を感じた。

 もしかしたら、俺もそうなっていたのかもしれない。


 何も考えないで、力を求めて進化を選んでいれば、暴走して全てを失っていた?


『じゃが、お前は何かを乗り越えて今の力を手に入れた。よくやったぞ』

『ありがとうございますっピ。でも、あんまり変化した気がしないですっピ。確かに体は大きくなって力も感じるっピ。だけど、普段と感覚が変わらなくて不思議な気分っピ』

『それはそうであろう。ただ、ヒヨコのまま十五メートルほどのデカさになっただけじゃからな』

『えっ?』


 師匠の言葉に、俺は驚いて近くの水辺に向かった。

 そこに映し出された姿は確かにいつもの顔がさらにデカくなっただけのひよこだった。


『どうじゃ?』

『ヒヨコですっピ』

『そうじゃろ? 一応、魔黒鳥と大層な名前はついておるが、ヒヨコはヒヨコであった。空は飛べるのであろう?』

『そうですっピ』


 師匠に指摘されて、俺は空を飛んでみることにした。

 スキルで飛翔が追加されていて、発動するとパタパタと翼を羽ばたかせることができた。


「ピヨ?」


『うむ。飛んでおるな』


 大体地面から、一メートルほど飛び上がって、それ以上は浮き上がれなかった。


『これは飛んでいるっピ?』

『始めて飛んだのであろう? ならば、スキルである以上は熟練度が必要ということじゃろう。練習を重ねれば、あのアホウドリのように飛べるようになるのではないか?』


 師匠は慰めてくれたけど、俺は知っているんだ。

 生まれたての兄弟たちが火の鳥モドキになって飛び立って行ったのをあれを見た時に飛翔を手に入れた時に飛べることは知っている。


 つまりは、それの飛翔は地面から一メートル飛び上がるのがやったの力で、見た目は巨大なヒヨコになっただけなんだ!!!


『うむ。何か不憫に感じるのぅ。そうじゃ、お前が望んでおった手合わせでもしてみるか? 戦って見れば強さも実感できるのではないか?』

『お願いしますっピ』


 俺は師匠に戦いを挑んだ。

 確かに力もスピードも能力的には今までも非にならないぐらいアップしている。

 普通の魔物を相手にするなら、活躍できるだろう。


 だけど……。


「ピブベ!!!」


 師匠の蹴りで吹っ飛ばされた。

 モフモフボディーをしなくても耐えられるけど、普通の蹴り飛ばされた。


『まだまだじゃな』

『ありがとうございましたッピ』


 俺はこの力を使いこなすために修行が必要だ!!!

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