第73話 牛肉パーティー
ブルブルバッファローは、その巨体さと突進力は脅威だが、一度走り出したバッファローは急には止まれない。
ブルブルと顔を振る動作からの、魔法を使ったタックル強化などが、その後に追加されたが観察してわかってしまえば大したことのない魔物だった。
三度目の鉤爪攻撃に寄って、完全に絶命させることができた。
「ブオー」
よくやったと師匠に褒められた。
師匠はすぐにブルブルバッフォローの血抜きを行った。
あの巨体を蹴り上げて、首を落として、空中で一気に抜き去った。
さらに、空中に飛んでいる間に解体ショーが繰り広げられる。
普段は、殴る蹴るしかしない師匠の両手両足が刃物のように動いて、ブルブルバッファローを切り刻んでいく。
あまりにも凄惨な光景に見えて、綺麗な仕事に驚いてしまう。
全ての肉がカットされて、俺の前に積み上がっていくのだ。
「ブオー!!!」
全てのカットが終わると、今度は手当たり次第に木を切り倒して、焚き火を作っていく。出来上がった五つの焚き火をさらに石で囲んで風で消えないように、簡易コンロを作り出した。
動きが全て早いので、ただただ見つめているだけだ。
『ほれ、焼くぞ。手伝え』
『えっ?』
そこからは肉との戦いだった。
生でも美味しいブルブルバッファローの肉を焼いて食べると味わいが変わってまた美味しい。
焼肉なんて食べるのはいつぶりだろうか? 虫や魚は食べていたが、牛肉など生まれ変わって始めて食べた。
鳥は雑食なので、肉も食べられる。
カンガルーが肉を食べられるのか知らなかったが、ここが異世界で、自分がヒヨコだと思えばあまり関係ないように思える。
「ブオー」
師匠は物足りないと言い出して、どこかに跳んでいった。
俺は焼かれて残された肉をひたすらに食べては焼き、焼いては食べを繰り返す。
血の匂いに誘われてやって来る魔物がいるかと思ったが、どうやら師匠の縄張りであることを他の魔物も理解しているのか誰もやってこない。
《レベルアップしました》
《レベルアップしました》
どうやらブルブルバッファローを倒した経験値が、食事をすることでレベルアップに達したようだ。
ヒヨコになってから、巨大牛のバーベキューが食べられるなんて思いもしなかったが、メチャクチャ美味い。
『戻ったぞい』
『師匠、どこにいっていたのですか?』
『うむ。味に締まりがないと感じたので、塩田まで言って塩を取ってきた』
『えっ? そんな場所あるんですか?』
『あるから行ってきたのだ。ほれ』
そう言って渡されたのは真っ白な石でした。
『石?』
『塩の塊だ。こうやって使う』
師匠がサッと石をなぞると、サラサラと砂のように落ちていく。
そららが肉の上に振り掛けられて、たまらなく美味しそうな匂いが立ち込める。
ただの塩だけではここまでならない。
何か秘密があるのか?
『まずは食べてみよ』
『はい!』
先ほどまでも生で食えば、肉らしい弾力と味わい。
焼けば、歯応えがあり、肉としての味を変えた。
そして、塩をまぶしたことで味が引き締まって、さらに肉の味に深みができて濃い。
『美味い!』
『そうじゃろうそうじゃろう。グルメ虫も美味いが、ブルブルバッファローも美味い。
師匠はどれだけ森の中で生きているのだろうか? そして、食物連鎖のバランスを食事をしながら、いつしか食事の楽しさを知るようになったんだろうな。
『はい! これから気をつけます』
最近は必死に穴掘りをして、巨大芋虫をとることばかりを考えていた。
それを教えるために、ブルブルバッファローを狩らせたんだろうな。
『よし、この肉にも塩じゃ! これにもこれにも』
いや、どうだろうか? 自分が肉を食いたかっただけか?
『美味いのう。美味いのう。肉はええのう』
まぁ師匠が美味しそうにしてくれるからよかった。
実際に巨大なブルブルバッファローの肉はメチャクチャ美味い。
『師匠! 美味しいですピ!』
『そうじゃろうそうじゃろう。食事とは苦労して手に入れたからこそより美味しく感じられると言うものじゃ。ピリカよ。お主は素晴らしい戦いをした。だが、それが一度ではダメなのだ。何度同じことをしても、自分のイメージ通りにその技が繰り出させて、体が動くようにしなくてはいけんのじゃ』
『はい!』
大量の肉は二人では食べきれなくて、残りは師匠の縄張りの外へ持っていく。
そうすることで、小型の魔物や中型の魔物が強く育って、大型へと進化を遂げる。
そして、また大型の魔物を強い者が狩ることで、食物連鎖を成立させるために働きかけるだけでなく。生態系を崩さないために自分たちが取りすぎてしまわないようにしないといけないんだ。
『我々は自然の中で生きている。自然を破壊しないように共存するのだ』
『はい!』
師匠の言葉を聞きながら、食べられるだけの肉を食べ切った。
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