第71話 修行開始
真っ白な毛並みに、ムキムキな体。
二メートルを超える体格は、森の中でも小柄な方かもしれない。
だが、その体の引き締まり方は尋常ではない。
そのパンチは、大樹を一撃でへし折り。
そのキックは、巨大な岩を粉砕する。
走る速度は、まるで飛んでいるのではないかと錯覚するほどに無重力で、存在感がエグい。
「ブオー!」
ついて来いと言われるがままに森の奥へ進んで、森の中でも木々が禿げて岩が剥き出しになったところへとつれていかれる。
『良いか、カンフーとは技術だ。スキルを使って上手く放てることはわかっている。さらに練度を増すことで己がスキルを使う癖を理解するのだ。つまり、体と技術、そこに頭と精神を合わせて初めて完成となす』
スキルで放たれている蹴りであることはわかる。
だが、威力は今まで見てきたどんな魔物よりも鋭く威力がある。
「ピヨ!」
「ブオー」
やってみろと言われて、俺は鉤爪を使って岩を蹴る。
岩が砕けることはなかったが、爪の後がくっきりと残って自分なりには満足いく威力を出せた。
『全然ダメだな』
「ピヨ!」
自分では出来たと思ったのに、ダメだって言われた。
『練度が全く足りておらぬ。今のスキル発動を毎日1000回。基礎トレーニングをしながら行うぞ』
『えええ!! 1000回ピ!?』
『当たり前だ。 それを続けて、他の技もどんどんやっていくぞ。ホレ、あのモフモフになるガードもせよ』
俺がモフモフガードを発動すると、突然蹴られた。
『何を油断しておる! そのモフモフガードは守るために行うスキルであろう。わしが攻撃をするから防いで見せよ!』
それからどれくらい続いたのかわからないが、モフモフガード状態で蹴りまくられた。ハエの攻撃を防いだガード技術が、全く効果を発揮している気がしない。
ガード越しに衝撃が骨まで軋むほどの痛みが駆け上がってくる。
「ピーーー」
これで手加減をされていることがわかっているので、反論することもできない。
カンフーカンガルーが本気でこちらを攻撃してくれば、モフモフガードは一撃で吹き飛んで、俺の体を貫くことができるだろう。
『ふむ。よくぞ耐えた。これから毎日攻撃を受けよ。ただ受けるのではなく。どうやって力を受け流すのか、そしてガードしながらも反撃ができないのか考えよ』
日が沈むまで殴られ、蹴られてボロボロになりながらも、夜を迎えた。
全身が痛い。
腹が減って何も食べてないのも辛い。
『ほれ、食事だ』
そう言ってカンフーカンガルーが何かを俺の横に置く。
首を動かすことも辛い中で横を向くと、そこには体の痛みを忘れるほどの品物が置かれたいた。
『巨大芋虫ピ!!!』
それは火の鳥カーちゃんが取ってきてくれた。
この世界に来たときに始めて食べた食事。
『なんじゃ? グルメ虫を知っておるのか? こやつは栄養が豊富にあり、レベルも高くて味も美味い。全てを兼ね備えたスーパー食材じゃ。まぁ、見た目がアレじゃから嫌がる弟子もおるが』
『いただきますピ!!!』
カンフーカンガルーが何か言っているが、俺の意識は巨大芋虫に向けられていた。
久しぶりに味わう巨大芋虫の味は……。
美味っ!!!
二年くらい前の子供時代に食べたから、本当に美味しかったのか不安だったが、やっぱり美味い。
今まで食べたどの虫よりも美味い!!!
『ふむ。もう一匹あるが食べるか?』
『いただきますっピ!!!』
体の痛みなど忘れるほどに甘美な味わいに二匹目の巨大芋虫を食べ尽くす。
肉の芳醇な味わいと甘さ。
それでいて口当たりが滑らかでいくらでも食べられる味の変化。
『グルメ虫はかなり大きい部類に入るはずなのに、二匹を平らげおった』
満足だ。
ずっと食べたかった巨大芋虫を食べられるなんて、最高じゃないか……。
今日の辛い修行が全て帳消しになるほどに最高の気分を味わえている。
『ふむ。よく動き、よく食べ、よく寝るがいい。それが一番強さを手に入れられる秘訣じゃ。明日からは訓練をした後に、魔物を倒しにいくぞ』
カンフーカンガルーが何か言っているが、今はお腹が苦しいほどにいっぱいで何も考えられない。
そのまま目を閉じて、夢の中へ落ちていく。
♢
《sideカンフーカンガルー》
目の前で眠る黒いヒヨコに呆れずにはいられない。
この危険な森で、ここまで無防備に眠れるものだろうか?
それだけワシを信用しておるのだろうが、あって1日しか立っておらんジジイの何を信じる?
だが、面白いと感じてしまう。
「ブオー」
全く、面白いではないか。
ここまで豪胆で、才能に溢れた魔物と出会うのは久しぶりだ。
この黒いヒヨコをどこまでも強くして、いつか本気の戦いができる時が来るだろうか? その時にはワシは現役でいられるか? いや、居続けてみせる。
明日のためにグルメ虫を取ってくるか、地中深くに眠っているグルメ虫を地面を吹き飛ばして見つける作業は骨が掘れる。
だが、体を作るのには、このグルメ虫が良いのだ。
ワシの分も取りにいくとするか、あやつの食べている姿を見ると、どうしても食べたくなってしまった。
絶対に食う。
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