第70話 森の王を目指す頂き

 ハエとの戦いは熾烈を極めて、本当に命のやり取りだった。


 互いに、生存競争をかけており、また強くなるために他者を食らってきていた。


 その根本的な部分は同じであり、それは強くなるために必要なことだと理解させられる。


「ピヨ」

 

 滝の前で座って、水の流れを見つめる。


 進化を遂げて、食事をとり、体の調子は万全になった。

 ハエとの戦いは反省ばかりだった。


 あいつは強かった。


 俺も死ぬ気で挑まなければ、絶対に勝てなかったが、ワッシーがいなければ今頃死んでいただろう。


 これまで、地龍、蟻の女王、ヌードデバネズミ、ハングリースパイダー、ハエ。


 多くの強者と森で戦ってきた。


 だが、まだ強い奴がいると羽毛が逆立って伝えてくる。


 この森はまだまだ深くまで進むとができて、奥に進めば進むほど強い魔物が縄張りを作って生息しているはずだ。


 そこに足を踏み込んで、生きて帰って来れるのか?


 そして、そこに足を踏み込む必要があるのか?


 いや、空の王を、魔の王を目指すなら強者との戦いは必要になる。


 だから、俺はこれまでもこれからも戦い続ける必要がるんだ。


『兄貴!』

『ワッシー? どうしたんだピ?』

『最近は、ここにいることが多いからな。何かあったのかと思って聞きにきたんだ』

『ああ、そういうことピ。俺は強くなるために森にきたピ』

『前に言っていたサモナーと共に旅に出るためだろ?』


 ワッシーは出会った頃に教えたことを覚えてくれていたようだ。

 そう、アシェとの旅に出るために俺はここにきた。


 そして、ワッシーと出会い。


 ハエと出会うことになった。


 好敵手と呼べるほどにハエは強くて、負けたくないって思えた。


 だが、世界にはハエよりも強い奴がまだまだいるんだと思うと、どうやってこれ以上強くなるのか考えると分からなくなる。


 最初は魔法を使って戦うことに固執していた。

 だけど、ルーキーの決勝大会で敗北して、接近戦も必要だということを知った。


 実際に、接近戦の訓練を初めて、再戦をした際にはあっさりと勝ててしまった。

 もっと俺が早くに接近戦を覚えていれば楽にルーキー大会は勝利することができたのかもしれない。


 ハエとの戦いでも、最後は互いに魔力を使い果たして、近接戦闘で使えるものは全てを使って戦った結果勝利することできた。


『つまり、兄貴はもっと強くなるために接近戦の強化をしたいと?』

『ああ、だが、人間がやっている道場にいくわけにもいかないピ』

『言うか考えていたんだが、実は前のリザードマン族長に聞いた話だ』

『うん?』

『ここから動物たちがたくさん生息する地域の奥に進むと、カンフーカンガルーと呼ばれるメチャクチャ強いカンガルーがいるそうなんだ』

『カンフーカンガルーピ?』

『ああ、しかもそのカンガルーが変わっているところが、戦闘をして気に入った相手に、戦い方を指導するって言うんだ』


 戦い方を教えてくれるカンフーカンガルー? そんな都合の良い魔物がいるのか?


『なんでそんなことしているんだピ?』

『なんでも自分を倒せる強者を育てるためだって』

『変わった奴もいるもんだピ。でも、面白いっピ。一度尋ねてみるっピ』

『ああ、すまん兄貴』

『どうしたっピ?』

『ワイは族長になってここを離れられない! ついてはいけんのや』

『そんなことっピ? 気にするなっピ。ワッシーは仲間を守る必要があるっピ。だけど、強くなれっピ。そうしなければこの森では生き残れないっピ』


 俺は立ち上がって、動物たちが多い森の方へ視線を向ける。


『ありがとう。兄貴の小屋はそのまま残しておくから、いつでも戻ってきてくれ。ワイもそれまで強くなっとくからさ!』

『約束っピ』


 俺は羽を差し出す。


『これは?』

『お守りだとでも思って欲しいっピ。ここを守っているのは俺だって言う』

『はは、ありがとよ。大切に飾らせてもらうぜ』


 ワッシーに別れを告げて、俺はリザードマンの村を離れることにした。

 その目的は、カンフーカンガルーに会うことだ。


 今よりも強くなるためには、本能のまま戦うだけじゃダメだ。

 もっと上を目指すために、アシェと旅に出るために、俺は次なるステージに上がって見せる。


 ワッシーに教えてもらった地域にやってきたところで、圧倒的な圧力に押しつぶされそうになる。


 だが、ここで下がるわけにはいかない。


「ピーーーーーー!!!!(王者の咆哮)」


 威圧を押し返すように鳴き声を上げて反発する。


 ただでやられると思うなよ。


「ブワーーーーー!!!!(強者の咆哮)」


 俺の鳴き声が押し返される強い声が発せられてかき消される。


「ピヨ!」


 驚いていると、真っ白なカンガルーが合わられた。


『なんじゃ? 貴様ヒヨコか? 真っ黒ではないか?』

『あなたがカンフーカンガルーか?』

『ほう、会話ができるヒヨコか、面白い。一手』


 そう言って考えるが近づいてくる。


 姿を見せた瞬間から、とんでもない威圧が増している。


『受けてみよ』


 目の前で飛び上がった真っ白なカンガルーが蹴りを放つ。 

 鋭く、強烈な蹴りを俺はモフモフボディーでガードする。

 吹き飛ばされて、大きな木を五つもへし折ってなんとか止まることができた。


 目がまわるが、なんとか受け止めることができたぞ。


『耐えたか! 見事! お前には素質がある! どうじゃワシの元で武術を学んでみんか?』

『喜んで。クソジジイ』

 

 俺はとんでもない化け物と出会うことができた。

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