第64話 ハエと対決 1

 召喚されてすぐには帰してもらえなかった。

 アシェが寂しいと思ってくれたのは嬉しいが、俺としてはワッシーのことが気になり、そして、もっと強くなりたいという思いが強くなっている。


「ピリカ、今は格闘技を勉強しているんだよね?」

「ピヨ!」

「そっか〜、確かに決勝大会の時に魔法だけでなく、格闘技も使えていたら、魔力切れを心配しなくてよかったもんね。体力作りと格闘術。私もやろうかな?」

「ピヨピヨ」


 冒険に出るのなら、少しでも体力と護身術は学んでおいた方がいい。

 活発なアシェなら、格闘術を学べば、より戦いの幅が広がると思う。


「賛成なんだね。うんうん。そうだね。私も旅に出るまで2年だからね。その準備のためにも体力作りをしないと。ピリカは確実に成長しているから置いていかれないようにしないとね。勉強だけでなく、ピリカの戦いに合わせられるように頑張るよ」


 そう言って俺のモフモフボディーに抱きつくアシェ。

 

 アシェは可愛いやつだ。

 だから、絶対に守ってやりたい。


 数日、アシェと過ごして格闘技を習う姿を見学した。

 俺にも取り入れられるものはないかと思ったが、体型や翼、足も人間とは違うことを痛感させられて、自分なりにオリジナルな戦い方が必要なんだと改めて思い知らされる。


「う〜ん、ピリカはもっともっと強くなりたいから森に行くんだよね?」

「ピヨ!」

「そして、強くなって戻ってきてくれた。召喚獣は、サモナーと一緒にいることで強くなるのかと思っていたけど、私たちのような関係もありなのかもね」


 アシェの習う格闘術を真似て動いていると、そんな話をされる。


「うん。もっとピリカといたいけど、今は私もピリカも修行中なんだね。学園を卒業したら一緒に冒険に行けるんだもん。今はお互いに頑張ろう!」

「ピヨピヨ!」


 俺はアシェを抱きしめた。

 わかってくれてありがとう。

 絶対に君を守れるぐらいに強くなって帰ってくるからね。


「ふふ、モフモフで暖かいね」


 アシェの温もりを覚えていよう。

 俺にとって心を支えてくれるのはアシェだ。

 彼女のために強くなりたい。


 俺が俺のままでいたい。


 強いだけじゃダメなんだ。心を強く持たなければならない。


「ピリカ! お互い頑張ろうね!」

「ピヨ!」


 アシェに見送られて、森へと帰っていく。

 寮の生活は危険がなくて、食事もゆっくりと食べられる。

 それだけで英気を養うことはできた。

 

 だけど、森では感覚を研ぎすまなくちゃならない。


 別れた川沿いに戻ってきて、まずはワッシーがどうなったのか確認しなくちゃならない。


 俺はワッシーの足取りを追うためにリザードマンの巣を探した。

 群れで、行動する者たちに帰巣本能があるはずだ。

 つまり、群れで集まれる村のような物を作っている。


 そう判断した俺は川を上流に向かって進んでいくとリザードマンを見つけた。

 どうやら村はここであっていそうだ。

 木でできた家が立ち並んでいる。

 

 しばらく観察をしているとワッシーを見つけることができた。

 リザードマンに違いがあるのかと思うが、何故かワッシーだと見分けができた。


「ふふ、ワッシーが楽しそうにしているじゃないか」


 なら、無粋に現れるよりもしばらくは馴染むために放置していてもいいだろう。


 俺は魔物を狩って自分のレベル上げをすることにした。

 リザードマンたちを見守れる場所で寝泊まりをして、魔物を狩ってレベルを上げる。


 森はいくらでも魔物がいて、川沿いにやってくるものは多い。


 そんな日々が続く中で、ちょっと遠出をして、帰ってきた日……。


「ピヨ?」


 村から火の手が上がっている。


「ピヨ!!!」


 俺は急いで村へ向かった。


 アイツだ!


 ハエの化け物がリザードマンたちを襲っている。

 茶色い巨大なリザードマンはハエに挑んだが、瞬殺で殺されてしまう。


 完全にレベルが違う。

 

 前よりも明らかに強くなっている。

 

 俺はすぐに戦うのではなく、ワッシーの遺体がないのか探してみた。

 だが、ワッシーを見つけることはできなかった。


 どうやら逃げられたようだ。


 なら、アイツは逃げたリザードマンを追いかけたのか?


 ワッシーが危ないじゃないか!


「ピーーーー!!!!(王者の咆哮)」


 ハエを呼ぶように鳴いたが、どうやら近くにはいないようだ。


「ピヨ!」


 急いで探すために魔力を薄く振り撒いて魔物の位置を探す。

 

《探知》のスキルを獲得しました。


 《神の声》さんの声が頭に響いて、新しいスキルを獲得できた。


 ハエの位置とリザードマンの位置がなんとなくわかってくる。

 どんどん減っていくリザードマン。


 そこで二人で逃げているリザードマンを見つける。


 他のリザードマンと離れていることもあり、そこに当たりをつけて走り出した。


 間に合ってくれ!


「ピーーーー!!!!」


 見えた!


 ワッシーがハエと対峙している。

 よかった! ふふ、嫁さんを守っているのか? なら、俺がすることは!

 

『カッコいいピ』

『兄貴!』

『久しぶりっピ、ワッシー。こいつの相手は俺がするっピ。だから逃げるっピ』


 よかった! 間に合った。


『おおきに! たのんます!』

『家族を大事にするっピ』


 任せろ。


「ピヨ!」


 よう、ハエ。


 お前は俺が倒す。


 

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