第63話 ワッシーの挑戦
《sideワッシー》
ワイは最大のピンチを迎えとる
大事な時に、兄貴はおらん。
それは兄貴がワイを信じてくれたからやと思いたい。
これはワイに課せられた仕事や。
きっちり漢気を見せたるわ。
『おい、貴様が娘が連れてきた野良のリザードマンか?』
『そうや!』
別嬪のリザードマンメスに連れられてやってきたんは、リザードマンの集落やった。
川辺に木を組んで作られとる。
小さいけど、しっかりとした村と呼べる場所やった。
『ワイはワッシーいいます。村を丸ごとワシの物にできへんかと思ってやって来ました』
堂々と宣言したる! こんなところで怖気つくワイやないど。
『何? 村をお前の物にする?』
『そうです! ワイが乗っ取りたい思います。せやけど、今のワイでは勝てんこともわかっとる! 強くなって長を倒します』
長である、茶色いリザードマンは、明らかにワイよりも格上や、水辺で長年村を守って生きてきただけはある。威圧が凄いわ。
せやけど、あの森一面を荒野に変えた兄貴を見た後やと、どうしても見劣りする。
啖呵切ったんはハッタリや! せやけだ、これで追い出されても仕方ない。
『面白い!』
『えっ?』
『我らリザードマンは常に強者を求めておる。貴様のような跳ねっ返りは、もちろん歓迎だ』
『ええんか?』
『もちろんだ。貴様は、自分の欲望を口にしただけでなく無謀に我に挑んでは来なかった。知性もあるようだ。そのような者は歓迎だ』
それからは不思議なことにリザードマンたちに歓迎の宴まで開かれてもうた。
男女三十人くらいのリザードマンの村で、たくさん食事をもらって、隣に川で出会ったメスが座る。
『お隣失礼します。私はアルフィです』
『アルフィ?』
『そうよ。私の名前。よろしくね。お父さんに認められるなんてすごいのね』
『おっ、おう! よろしゅうな。ワイはワッシーや、これから長になるために強くなる! 同じリザードマンとして、よろしゅうな』
それからは水と肉で宴会で出迎えられる。
警戒してないわけやない。
せやけど、仲間と過ごすっていうのが楽しい。
これは不思議な感覚なんやけど、長に認められた後から、スキルが発動しているように感じる。
《仲間と同調》
パッシブスキルの発動を感じて、仲間と同調しているのだろうか? せやけど、この感覚は初めてやけど心がほっこりと温まるようで嬉しい。
『ワッシー、あなたはずっとここにおるん?』
『せやな。とりあえずはそのつもりや。長を倒せるぐらい強くなって、この群れの長にならなあかんからな』
『ふふ、本気で言ってるの?』
『もちろんや! 兄貴との約束やからな』
『兄貴?』
『そや、ワイをここまで育ててくれた人や』
不意にヒヨコの兄貴、ピリカさんの顔が浮かんでくる。
漆黒の羽に、華麗に舞いながら敵を吹き飛ばす魔法。
最後な見せた圧倒的な力、あのヒヨコならこの場におるもんをあっという間に倒してしまうんやろな。
『ねぇ、一緒に行きましょう!』
『どこにや』
アルフィに手を引かれてワシらは宴からいなくなる。
連れてかれたのはアルフィの寝床で、そのままワイらは一緒に寝た。
ワイは天国を見たんや。
それからしばらくの間、兄貴は姿を見せんかった。
ワイはアルフィと共に魔物を狩ってレベルを上げながら、武器や防具の作り方も仲間のリザードマンから、教えてもらった。
その日々はホンマに楽しくて、兄貴のことを忘れてしまうやないかと思っとった。
あいつが現れるまでは。
『あいつは!』
前に兄貴と戦ったデカイハエが村を襲った。
『逃げよーーー!!!』
長の叫び声にリザードマンが散り散りに逃げた。
ワイもアルフィの手を引いて! 長を見たんはそれが最後やった。
『あれは何! あんな化け物がいるなんて!』
泣き叫びアルフィをなだめながらなんとか逃げ延びた。
そう思っていたのに絶望はいつでもすぐ側にいる。
『もうダメなのね』
仲間の気配がない。
遠くに逃げたんか、それとも殺されたんか。
ワイが幸せに暮らしていたんが悪いんか? のうのうと平和ボケして……。
『最後まで抗ったるわ! 舐めんなや!』
ワイは村で作った槍を構えた。
『あなた!』
『お前は逃げ。ワイの子育ててくれ』
アルフィのお腹にはワイの卵がある。
絶対に家族はワイが守るんや!
『カッコいいピ』
この気の抜ける語尾。
ワイがピンチで現れんわ!
『兄貴!』
『久しぶりっピ、ワッシー。こいつの相手は俺がするっピ。だから逃げるっピ』
あのモフモフの背中が頼もしいねん。
『おおきに! たのんます!』
『家族を大事にするっピ』
ワイは無我夢中で逃げた。
全てを兄貴に任して、アルフィを守ることだけを考えた。
これは森の王を決める戦いなんや!
あの二体はその資格を持っとる!
ハエが勝てば食われ、兄貴が勝てばワイらは配下になる。
兄貴たのんます! 勝ってください!
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