第60話 全力で

 ワッシーがトレントから枝を切り取ってこちらに見せるように飛び跳ねている。

 

 ああ、そうか。


 もう手加減しなくていいんだ。

 

 なら、ここからは……。


 全力で……。


 前回、アシェを守ろうとして解放できなかった力。


 闇に飲まれるような感覚。


 ああ、今、俺は戦いに身を投じる。


「ピヨ」


 音が、全て消えて……。


 もう何も考えない。


 全力で、力を振るう。


 巨大な闇の球体が目の前に浮かび上がる。

 浮かび上がった球体は、全てを飲み込むブラックホールを作り出す。


「ピヨピヨ」


 綺麗だな。


 闇は全てを飲み込むことができるんだから、体から一気に魔力が吸い上げられていく。同時にガンガンと経験値が体の中に蓄積していく。


《レベルアップしました》

《レベルアップしました》

《レベルアップしました》


 ああ、気持ちいい。


 あの時のような心臓を鷲掴みにされたような痛みはない。

 あるのは高揚だけだ。


《瀕死の踏ん張り》が発動しました。

《邪道へ足を踏み込みました》

《生命力を使うことなく魔力が残っていますので、魔力で相手を殲滅しますか?》


 《神の声》さんの言葉が頭に響く。


 俺は……、アシェを守るために……。


 足を踏み入れようとしてアシェに抱きしめられたあの時とは違う。


 この力を使いこなして見せる。


「ピヨ」

 

 もうアシェに悔しい思いをさせない。


 ただ、力を思いっきり使うことが、こんなに気持ちいいなら、もう身を任せて……。


《ダメだよ》

「ピ?」


 不意に頭の中にアシェの声が響く。


《十分だよ。焦らないで! ゆっくり、一緒に強くなろう》

「ピヨ!」


 ああ、そうだな。


 こんな俺であって、俺でない力じゃダメだ。

 しっかりと最後まで制御して見せろ。


 闇よ。


 俺を飲み込みたいのか? だけど、お前になんか負けない。

 一人だったなら、今頃お前に飲み込まれて悪いヒヨコになっていたのかもな。


 だけど、俺にはアシェがいるんだ。


《うん。離れていても私たちはいつも一緒だよ》


 ああ、そうだな。

 アシェ。俺は君を守るよ。


『ユニークスキル《魔を従わせる者》を習得しました。これにより、また一つ邪道への道を進みました。ただ、それは逸れていた王へ至る道に戻ったことを意味します。どうぞ、もっと強くなられることを切に』


 《神の声》さんに何か語りかけられるが、魔物のボスであるエンシェントトレントが姿を見せる。


 無数の根や枝、葉や花、種や土すらも、全てを使って暴れる暴君はハエの魔物よりも危険な存在なのかもしれない。


「GYAAAAAAAAAA!!!!!!」


 叫び声をあげて迫りくる巨木の魔物。


 そのありとあらゆる力を使った攻撃すら今は無意味に思えてしまう。


「ピーーーーーーー!!!!(王者の咆哮)」


 十メートルはありそうなエンシャントレンドの巨体が、俺の鳴き声で一瞬止まって、ブラックホールがエンシェントトレントの全てを飲み込んでいく。


 その長年生きたであろう体に溜め込まれた経験を全て、ブラックホールが吸い上げていく。


 これまでの自信も、経験も、そして強者として生きてきた全てを俺がもらい受けてやろう。


「ピーーーーーーー!!!!(王者の咆哮)」


 これは勝利の咆哮だ!!!


 ブラックホールを閉じた後に残ったはポッカリと開いた植物系魔物がいたであろう荒野だけだった。

 

 草の根も岩も、石も、魔物も全てがブラックホールに飲み込まれて跡形もなく消え去った。


「……グハ」


 背後からワッシーの声が聞こえて振り返る。


 不思議なんだが、あれだけ大きな魔法を使って、疲れているはずなのに頭はいつも以上に冴えていた。


『無事ピ?』

『あっ、ああ。兄貴……。スゲー、スゲーよ!!! マジで凄すぎて、スゲーしか出てこねぇよ』


 振り返って見たワッシーの顔は涙を浮かべていた。


 その顔には感動と畏怖が込められていた。


『兄貴、一生あんたについていく。あんたの義兄弟として恥じないように成長することを誓う』

『どうしたピ? 急にピ?』

『兄貴は、絶対に王になる。それは魔王なのか、普通の王なのかそれはワイにはわからない。だけど、魔王だったしてもワイは絶対に兄貴の一番の配下になって見せるで』


 何やら興奮気味にワッシーが宣言するのに対して、俺はただただ空を見上げた。


 ブラックホールを使ったからだろうか? 植物系魔物がいなくなったからだろうか? 空はジメジメとした雲がなくなって、青い空が広がっている。


 頭の中に響く。


 アシェの声と、《神の声》さんが俺の心を強く支えてくれている。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 ヒヨコさんは、あと⭐︎300ほどで1000に到達するので、もしまだ教えていない方は応援いただければ嬉しく思います!(๑>◡<๑)


《宣伝》です。


 カクヨムコンテスト9短編、現代ドラマ一位


《オッサンは、ギャルに飯を作ってやる》


 短編なので、更新がないため、宣伝をしないと読んでもらえないと思っています!

 短いので、暇つぶしに読んでいただければ嬉しいです。

 よろしくお願いします!

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