第59話 ヒヨコ舞う

 神経を研ぎすまして迫る蔓を弾いて、タネを防御して、溶解液を潜り抜ける。


 捕まりそうになれば、モフモフボディーガードで膨張して、捕まえさせない。


 風よ、水よ、闇よ、毒よ、翼よ、爪よ、嘴よ。


 肉体で使えるものは全てを使って、数十体の植物系魔物と対峙する。

 ここまで集中して戦ったことはないように思える。


 いつもは、アリやネズミのような決まった種族の魔物を相手にすることはあっても、植物の魔物は一箇所に数十体の魔物が集合して暮らしている。


 それを掻い潜ることは至難の技で、俺は敵を倒すことに集中しなければ絶対に倒すことはできない。


「ピーーーーーーー!!!(王者の咆哮)」


 少しでもワッシーの元へ向かう攻撃があれば、強制的にこちらに意識を向けさせる。本当はワッシーに割いている集中力も戦闘に向けてしまいたい。

 

 だが、今回の勝利条件は植物の魔物を全滅させることじゃない。


 ワッシーがトレントの枝から武器を取ることなんだ。


 どれだけ魔物を引きつけて時間を稼げるのか、それが俺の仕事だ!


 ♢


《sideワッシー》


 ワシは進化をする前は、どこかでピリカと名乗ったヒヨコを裏切って自分だけ美味しい思いをしようと思っとった時もあった。

 

 あかん。


 そんなことはできんと思った。


 何度、進化をする中で心が折れそうになったのかわからへん。


 そんな時や、兄貴の温かさが感じられるんや。

 あのモフモフボディーで常に包み込まれているような感覚を覚えた。

 

 それにワシが苦しんで、痛くて、辛い時。

 他の魔物なら襲って殺すには絶好のタイミングや。


 それなのに兄貴は四日間もワシを守ってくれた。

 進化明けには、食料を用意してくれて、水を飲ませてくれた。


 それがどれだけ嬉しかったのか、言葉にできへんぐらいや。

 ただただ嬉しく涙が溢れてきた。


 だから、弟分にしてほしいとお願いした。

 別に形式的なもんや。

 せやけど、兄貴の家族になりたかった。


 あの人に認められるような男になりたい!


『俺が囮になって、植物系の魔物を引き受ける。だから、その間にトレントを倒して武器を手に入れるピ』


 作戦を聞いた時、またワシは兄貴におんぶにだっこされて甘えるんだと思った。

 せやけど、今はたくさん甘えてもええ。

 絶対に兄貴に恩返しをするんや。


 実際に戦ってみて、兄貴の凄さがわかってしまう。


 数十の植物系魔物が一斉に兄貴に襲いかかった。


 兄貴はその一つ一つに魔法を使って、防御を固め、身体能力と先読みでどんどん攻撃を回避していく。


 しかも、遠距離魔法を使って、確実に植物系魔物を刈り取っていく。


 その戦いに見惚れてしまう。


 足を止めたワシに植物系魔物が根を伸ばす!


「ピーーーーーーーーー!!!(王者の咆哮)」


 兄貴がワシを守るために、鳴いて敵を引き連れてくれる。

 

 あかんあかん、せっかく兄貴が作ってくれた時間をワシが無駄にしたらあかん。

 ワシは植物の魔物に気取られないようにトレントの近くまでやってきた。


 リザードマンに進化したことで、今までフラフラしていた足元も安定して、手足が使いやすい。

 やっぱりワシは二足歩行であるける今の方がええ。


「グワっ!」

 

 不意打ちでもなんでもええ。

 

 兄貴があれだけ大量の魔物を相手にしてくれてんねや。


 なら、ワシはワシの仕事をするだけや。


「ウボォー〜ー!!!」


 トレントは、木に顔がある魔物で他の植物系の魔物と違って動くことができる。


「グワ!!!」


 絶対に負けへん。


 兄貴が作ってくれたチャンスじゃ! 絶対に負けへん!


 私は土の魔法で作り出した槍を持ってトレントに向かっていく。

 本来は屋台骨になる持ち手があればもっといいが、今はしゃーない。


「ウボーーーー!!!」

 

 鞭のようにしなる枝を槍で受け流して、接近する。

 力が強い。


 それでも負けられへん戦いがあるんじゃ。


 水ども切り裂け!


 トレントの体は木のくせに硬くて強い。

 それでも魔法の攻撃で少しつずではあるが、なんとかダメージを与えられている


「グハグハグハ!!!」


 連続突きに乱れ突き


 とにかく突いて突いて突きまくるで! ダメージが蓄積して、トレントの動きが鈍くなる。

 それを狙ってワシは水の刃でトレントの枝を根本から切り取った。


「グワーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 ワシは取ったどーーーー!!!!


 怒り狂うトレントから距離をとって、植物の魔物に気づかれる前にその場を離れる。


 兄貴を見れば、未だに大量の魔物を相手にヒヨコが舞っとる。


 それは異常なほどに、真っ黒な毛並みをしたモフモフが華麗に踊っとる。


 それを見た瞬間にワシは悟ったんや。


 王者になるんはワシやない。


 あのヒヨコや! あの人についていけば問題ない!


「グワーーーーーーーーーーーー!!!」


 兄貴!!! もうええです! ちゃんとゲットできました!

 

 ワシはトレントの枝を持って飛び跳ねてアピールする。


 離脱も成功した。


 あとは兄貴が無事に帰ってきくれたら終わりや!


 凄い! やっぱり兄貴は凄いヒヨコやで!!

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