第57話 ワッシーの進化

 俺はワッシーの進化が終わる時間、ただ待っているだけでなく、自分のレベル上げのために使うことにした。

 森の中なら魔物を狩ることに欠くことはない。


 地面を掘れば、ミミズや何かの幼虫が埋まっていて、木を登ればミノムシや蜘蛛が巣を張っている。


 川の近くにいれば水を飲みに来る魔物に遭遇して、ここが自然のど真ん中で弱肉強食の中なんだと改めて実感させられる。


 脱皮を開始したワッシーを定期的に見守りながらも、様々な魔物を求めて戦いを挑む日々は俺の中で野生を感じさせてくれる。


 アシェと過ごす日々も幸せではあるが、こうやって戦いに身を投じていることで、自分は生きているんだと実感させられる。


「ピヨ!」


 不意に襲ってくる蛇との死闘は、種族的にこちらが不利に見えるが、学園でも何度か戦ったことがあるので対処の方法は判っている。


 頭と尾、それに魔法を警戒しながら、あの独特なリズムと放ってくる攻撃の速さに慣れて仕舞えば問題ない。


 次に苦戦したのは巨大なカブトムシだった。


 こちらがいくら攻撃を加えても、強固な皮膚のせいで攻撃を通すことができないのだ。だからこそ、魔法を放ち、格闘術を鍛えるサンドバックとして使わせてもらった。


 最初は岩を叩いているように何も感じなかった甲羅が、次第に攻撃のダメージが蓄積していくことでダメージが通るようになっていく。


《一点集中》

《追撃》

《連撃》


 三つのスキルを獲得して、俺としても攻撃のバリエーションが増えていく。


 そんな日々が四日ほど過ぎた頃、ワッシーが完全に進化を終える兆候を見せた。


 だから、食料と水を用意して、意識を取り戻す瞬間を待った。


「グワ!!!」


 大きな声を出して、ワッシーが目を覚ます。


「グワグワグワ」


 何やら発生練習をしながら、二足歩行で立ち上がる。


「ピヨピヨ?」

「グワ?!」


 鳴き続けるワッシーはやっと落ち着いた様子で自分の体を見た。


《メチャクチャ痛かったわ〜!!!》


 やっと念話に切り替えて話を始めたワッシーは、どうやら俺と同じく進化が痛い組だったようだ。

 だが、見た目にはかなりの変化を遂げていた。


 ノーマルなトカゲとして、ヌメっとした皮膚と少し間抜けな印象を受けていた顔は精悍になり、全身に鱗が生えて、二足歩行に違和感が感じられない。

 それでも若干の前傾姿勢があるのは、進化に馴染めていないかもしれない。


《お疲れ様っピ。四日も食べていないからお腹が減っているピ。ご飯とお水を用意したっピ。まずは食事をしながら、話をしようッピ》

《兄貴、ありがとうございます! 兄貴はこんなんを三回も経験したか? めっちゃすごいのう》


 お互いに向き合うように腰を下ろして食事にする。

 食事といっても、ワッシーが好きな物は虫と肉なので、蛇を倒した際に得た肉を翼で切って、焚き火で焼いた物と、数匹の虫。それに水だ。


「グワ!」


 本当にお腹が空いていたんだろう。

 ワッシーは、蛇の肉を見た瞬間にかぶりついた。

 しばらくワッシーが食べている姿を見ながら、俺もピンクミミズを食べる。


「クウーーーー!!!」


 水を一気に飲み干して、一通りの食事を終えた。

 結構な量を用意したはずだったが、ワッシーは全て食べ切った。


《おおきに! ホンマにおおきにや兄貴。進化を守ってくれただけでなく、食事の用意まで助かるわ》

《いいさ。それよりも結局進化はそれにしたんだな?》

《ああ、やっぱりワイは、人間になりたい。どうも四足歩行は合わん》


 そういって二足歩行で立ち上がったワッシーは、リザードマンへと進化を遂げていた。


 猫背が強めなトカゲが、二足歩行で立っていた。


《まだまだ進化しな器用さや二足歩行は慣れんけど、進化する前に比べたら随分と動きやすなったわ》

《それは良かったな》

《ホンマに兄貴、ありがとうございます》


♢♢♢♢♢


 種族:リザードマン

 称号:竜王を目指すトカゲ

 状態:健康

 レベル:1/50

 H P:4000/5300

 M P:500/850

 攻撃力:1000

 防御力:1000

 魔法力:800

 魔法防御力:2000

 素早さ:3000

 魅 力:100


 特殊スキル:《神の声:レベル1》、《ステータス閲覧:レベル1》、《仲間と同調》、《念話》

 通常スキル:《鳴く(王者の咆哮、威圧を含む):レベル1》、《舌で掴む:レベル2》、《土魔法:レベル1》、《水魔法:レベル1》、《武器装備レベル1》、《防具装備レベル1》、《硬化》

 耐性スキル:《恐怖耐性》

 称号スキル:《竜王の眷属:レベル010》、《鱗ボディーレベルMAX》


♢♢♢♢♢


 リザードマンになったことで、強くもなっているが色々と変化も出ているんだな。


 それでも《竜王の眷属》としては認められているってことは王を決める戦いには参戦できることがわかる。


 警戒しないでいた方が良いかもしれないな。


《これで、ワシも兄貴の力になれますわ》

《その前に武器や、防具を探した方が良いかもな》

《あ〜ホンマやな。せっかくのスキルを活かさなあかんわ》


 それにリザードマンの仲間を見つけると、ワッシーは《仲間と同調》ができるから強くなるだろう。


 そっちも考えたほうが良いかもしれないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る