第55話 森の王
ワッシーを舎弟にしたのは、いいが、どうにも動きが鈍い。
『なぁ待ってくれや。兄貴』
兄貴呼びにも、乱暴な口調にもなれない。
だけど、世話をすると決めたからには最後まで世話をするつもりだ。
だから、狩りをして、餌を与え、また経験値を稼ぐために協力もする。
アシェに聞いた世界の在り方に説明をして、召喚獣となることがあることも説明をした。
『そんな世界やったんやな。全然知らんかったわ。ワイも召喚獣になるんかな?』
『多分な。だけど、その前にワッシーは進化をした方がいいっピ』
ワッシーに提案をして、まずは、ワッシーの進化を進めるように経験値積みを優先した。強い魔物が出れば、俺が倒して、ワッシーが倒せそうな魔物は手を出さない。
怪我をしないように互いにサポートしながら、戦いを進めていると意外に上手く連携が取れるようになってきた。
ワッシーは土と水の魔法が得意で、土の魔法で小さな穴を作って相手のバランスを崩してくれる。そこに俺のヒヨコ式格闘術と風の魔法が、上手く噛み合うと敵を倒すことに苦労はない。
逆に、ワッシーが戦う時には、ワッシーの水の刃が敵を切り裂きやすいように、闇の魔法を使って視界を奪って、身動きが取れないように捕まえておけばいい。
巨大なハエとの戦いは、二人にとってかなりの死闘になった。
『兄貴! あいつはヤベー!』
『わかっているピ!』
巨大なハエは、溶解液を吐き出して、木々を溶かしていく。
触れるだけでこちらも大ダメージを受けるので、かなり強い。
『ワッシーは土の壁を作って、身を守るピ』
『わかってるって』
ワッシーが敵う相手ではないので、ハエを前にして、防御に徹してもらう。
俺も全てが対処できるわけじゃない。
それに現れたハエは巨大ではあるが、まだ幼虫体だという。
『ベルゼブブ幼少体危険度☆☆☆☆☆』
『神の声』さんが教えてくれなければ、ただのハエだと思っていただろう。
トカゲの習性で、伸ばした舌でハエをかき分けて、ワッシーが舌を出してしまった。
仕方なく、こうやって戦うことになってしまった。
「ピヨーーーーー!!!!(王者の咆哮)」
「BBBBBBBBBB!!!!!」
鳥と虫、種族としては俺の方が絶対に上なんだ。
だから、負けるわけにはいかない。
溶解液だけでなく、超音波も使うようで、見えない音速の攻撃に襲われる。
右羽が吹き飛んだ時は、驚いた。
骨には達していなかったが、一部の羽が禿げてしまった。
だから、しっかりと警戒が必要になる。
「ピヨピヨピヨ」
引いてくれれば、ありがたいが、俺としても勝てるのかわからない戦いはしたくない。だけど、戦わなければならない時は戦いから逃げちゃダメなんだ。
逃げてしまえば、アシェを守ることはできない。
俺が逃げるのは、最後であり続ける。
『兄貴! 相手の様子がおかしい』
ワッシーに指摘されて、ハエの様子を見れば、体を膨張させて何か大きな攻撃を仕掛けようとしていた。
『ワッシー! 全力で逃げろ!』
ワッシーは足が遅い。
それにあの四足歩行の体を嫌って、二足歩行で走り始める。
だが、俺の叱責が本気だとわかってくれたようだ。
四足歩行で、信じられない速度で逃げていく。
くくく、なんだよ。
やれば出来るじゃねぇか!
「ピーーーーー!!!!」
かかってこいや!!!
俺は闇の魔法で、アシェが教えてくれた吸収をするバリアを作り出す。
ただ、それでは不安があったので、全身に纏わせるような風のバリアを二重で作り出した。
「BBBBBBBBBBBーーーーーーーー!!!!」
ハエの叫びと共に、大量の溶解液が吐き出される。
それは半径100メートル圏内に広がるような広範囲、高濃度溶解液だったために、闇の結界では吸収しきれなくて、俺の体に届きそうになる。
だが、それだけで終わることなく、こちらへ向けてハエが襲いかかってきていた。
もしも、風のバリアを作っていなければ、溶解液で終わっていた。
「毒の鉤爪、毒の嘴、毒の魔法!」
だから、こちらも奥の手を使わせてもらう。
これまでアシェがいる間は、アシェに毒性の危険があると感じてきた。
それに自分が食べる時に毒を帯びている相手も嫌だから、使わなかったけど。
こいつは使わなければ倒せない。
全身から、毒を発生させて、ハエに対峙する。
「BBB」
だが、野生の感を持っているのだろう。
ハエは、急ブレーキをかけて、目の前で止まり、俺としばらく睨み合った後に、空へと飛び立っていった。
「ピヨ」
ふぅーヤバいやつだった。
もしも、あいつが成体になったら、間違いなく森の王になれる素質を持つやつだ。
俺はしばらく気が抜けなかったが、完全にハエの気配がなくなったところで、やっと毒を解除した。
やっぱり、互いに警戒するべき野生の感は存在していたようだ。
『あっ、兄貴』
ワッシーが戻ってきて、溶解液によって焼け野原に変わった場所を見て、唖然とした顔をしている。
『大丈夫だったピ?』
『とんでもねぇな。あのハエも、兄貴も化け物だ』
『お前も進化をすればそうなる』
『ワイが……』
俺はワッシーのレベル上げと、自分のレベル上げが必要であることを改めて実感した。
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あとがき
どうも作者のイコです!
カクヨムコンテストも残り二日。
☆レビューや、♡いいねで応援してもいいよという方は、作者の応援をよろしくお願いします(๑>◡<๑)
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