第54話 舎弟?

 俺は森に帰ってきた目的として、一つは虫を食べることだった。

 イモムシを探すのも目的だが、ピンクミミズでもいいので、食べられるのは凄く嬉しい。


 昔は虫を食べることに抵抗があったが、虫の旨さを知ってからは止めることができない。アント集団とかも食べたいのに、最近は見ることがない。


 そして、この森に帰ってきた理由として強者に挑むことだ。

 まだ見た事が無い魔物を見つけることが大切なので、そういう奴を倒して、レベルを上げたい。


 そう思って、獣側ではなく、虫が多く出現する森の奥へと進んでいく。

 カマキリやどこにでも現れるピンクミミズを食べながら、拠点を探していた。


 アシェと一緒に居れば寮生活ができるので、安全はあるが、それでは強くなれない。もっと野生的に、そして、貪欲に強さが欲しい。


 森を駆け抜ける中で、一体のトカゲとすれ違う。


 異様な雰囲気を放つトカゲは強そうというか、気になって仕方ない。


「ピヨ」

「シャー」


 俺が声をかけると、トカゲは襲ってくることなくこちらを睨みつけてきた。


『もしかして話しができるピ?』

『なんじゃワレ?! ワシをコドモドラゴンのワッシー様と知っての問いかけい?』


 うわ〜なんか念話で聞こえてくる声がかなりガラが悪い。


『あ〜、別に知らないが、どうでも良くないかピ? 知っているかどうかんなんてどうでもいいピ』

『まぁそうやのう。お前デカイヒヨコじゃのう。食い応えはありそうや。大人しく我に食われや』

『ピヨ。普通にイヤっピ」


 異常な雰囲気を持つトカゲだったから、シルのように友人になれればいいと声をかけたが、どうやら変な奴に絡まれただけだった。

 

 足は遅そうだから、走って逃げれば振り切れるか? 森の中を駆け抜けようと走り始まる。


『おい! ちょい待て! 待て言うとるやろ!』


 そう言ってトカゲが立ち上がって二足歩行で追いかけてくる。

 あまりにも異常な光景に思えて、俺は立ちどまる。

 短い足で意外にはやい。


『ハァーハァーハァー』


 目の前で息を切らせるトカゲのワッシーは見ていて不憫だ。

 さっきも魔物を倒していたようだが、一応警戒は続けよう。

 モフモフボディーを発動して、防御力を強化しておく。


『なんやワレ! さっき見た時よりも大きくなってないか? 体デカくして威嚇して怖いことあらへんからな?!』


 やっぱりこの口調はなれないな。

 面倒だし、倒すか?


『ハァーなんで追いかけてくるっピ?』

『決まっとるやないか?! お前を食うためや!』


 そう言って大きく口を開くが、動きが遅い。

 それに四足歩行で地面スレスレを走った方が早いのに、二足歩行で両手を広げて襲おうとしている。


 明らかに歪な動きに、ため息を吐いて、翼のチョップで攻撃する。


「グエッ?!」


 素の声で、仰向けに倒れる。

 見ていて、かなり間抜けな光景ではあるが、もがく姿を見れば余計に哀れに見えてくる。


『選ぶピ』


 俺はジタバタと暴れるワッシーの上に足を置いて鉤爪を少しだけワッシーに食い込ませる。


「グッ!」


 屈辱に歪んだ顔をするワッシー。


『なっ、なんや?』

『俺を食べることを諦めろピ。そして、お前、もしかして人間の記憶があるんじゃないかピ?』


 多分、シルは女子高生の人間だった記憶を持っている。


 そして、俺も……。


 こうやって変な話し方をするワッシーは人間の記憶があるんじゃないかと思えた。


『なっ、なんでそれを知っているんや?』


 やっぱりか……。


『俺も記憶があるからピ。それでピ? お前は、この世界に来てどれくらい経つピ?』


 しばらく考える素振りを見せたワッシーはジタバタするのをやめて諦めたように顔背ける。


『一ヶ月ぐらいや。生まれた時は卵の中でそこから這い出たらゴッツ腹が減ってて、手当たり次第に草とか、虫を食べた。どれもゴッツ美味くてビックリしたわ。ある時でかいダンゴムシが居ってそれを食べたら、レベルが上がりましたって、頭に響いたんや』


 《神の声》さんを聞いたのはその時か、一ヶ月ということは俺は二回目の進化を終えたぐらいか?


『そうピ。俺は一年前にこっちに来て生き残ってたピ』

『なんや同類かいな。それで? 同類さんはワシを殺すんか?』

『お前が悪意があるやつなら、このまま腹を引き裂くピ。だけど、見ていてお前はどこか面白いっピ。だから選ぶがいいっピ。殺されるか、従うっピ?」

『従う? 舎弟になれって事か?』

『そうっピ、従うなら、世界のことを多少は教えてやるっピ』


 同類なら協力してもいい。

 だけど、敵になるなら、ここで殺してもいい。


『わかった! わかったから腹の爪を退けてくれ。ずっと痛いわ』


 降参するようにバンザイした姿勢で腹を向けるワッシーから足を退ける。


『ハァー、しゃーない。負けた奴は勝った者に従うそれが自然の摂理や。これからヒヨコさんのことは兄貴って呼ばせてもらいますわ』

『それでいいっピ。俺はワッシーと呼ぶっピ』

『これからよろしゅうお願い申し上げます』


 トカゲ顔の仲間ができた。


 シルの代わりになるかはわからないが、一人でいるよりはマシだろう。

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