森の王

第53話 荒ぶるヒヨコ

 俺は久しぶりに森に帰って来ていた。


「ピリカ、何かして欲しいことはある?」


 ルーキーによる決勝大会が終わったことで、アシェから問いかけられた。

 そこで、俺は森に帰りたいということを告げた。


「森に? 森が好きだったの? 故郷だから?」


 何を勘違いしたのか、悲しそうな顔をするピリカに、俺は虫の絵を地面に描いて、それを食べる仕草を見せた。


「えっ? 虫を食べたいから、森に帰りたいの?」

「ピヨ!」


 俺は正解という声で返答をする。

 そうしたら、アシェから物凄く微妙な顔をされてしまった。


「どうして、虫を食べたいの? 食堂の魚とか肉じゃなダメなの?」


 それはそれでいいが、やっぱりレベルが高い虫系の魔物に比べれば、味がどうしても落ちてしまう。


 未だに、生まれたで食べた、巨大イモムシを超える食べ物には出会ったことがない。ファイアーバードカーさんは、どこから手に入れてきたのか聞きたいぐらいだ。


 あれぞ俺にとっての母の味であり、いつか見つけたい至高の一品とも言える。


「わかったよ。大会が終わってしばらくは、入学式や、進級して新しい授業に慣れたりもあるから、三ヶ月。三ヶ月したら召喚する。それでいい?」

「ピヨ!」


 もちろんだ。それに、アシェに何かあればいつでも召喚してくれていい。


「うん。そうだね。いつでも召喚するよ。だけど、ピリカがミミズの踊り食いしている最中に召喚とかはいやだな」


 アシェがゲンナリした顔をしていたが、俺としては森に帰ることを許してもらえたので、万々歳だ。


 今回の俺は、アシェによって力を制限された。

 それは俺が弱いことが原因だった。

 

 もっと俺は強くならなくちゃいけない。


 アシェは成長していた。

 だけど、俺はどこかで温室育てられるペットのように自分のことを感じていたのかもしれない。


 だけど、それじゃ王者にはなれない。

 俺はいつか空の王として君臨する。


 そして、そのための戦いをしなくちゃいけないんだ。



「ピヨーーーーーーーー!!!!」


 帰ってきたぞーーーーーーー!!!


 高い木の上に上がって森を見下ろす。

 森は相変わらず獣たちの声が響いて、どこに化け物がいるのかわからない。


「ピヨ!」


 だが、それがいい。

 この感覚が、俺の意識を研ぎ澄ましてくれる。

 シルはオリヴィアちゃんを放って森にくることはできないと言っていた。


 俺やアシェには見えないところで無理をしているのかもしれないな。

 元々、あまり体が強くないと言っていたからな。


「ピヨ」


 目の前に現れる巨大カマキリ。


 俺は決勝大会で、魔法に頼った戦いをして悔しい負け方をしてしまった。

 

「ピヨピヨ」


 だから今度は魔法がなくても戦える俺になりたい。


「シュー!!!」


 威嚇する巨大カマキリに、俺はゆっくりと間合いを詰めていく。


「ピヨ」

「シュッ?!」


 鎌を振るうが、あれは斬るための行動ではない。

 こちらを捉えて捕まえるための鎌だ。


 だから、俺は自分にできる戦い方を試す相手に丁度いいと思えた。


「ピヨ?!」


 振るわれた鎌に対して、鉤爪を応用した飛び蹴りからの鉤爪攻撃で鎌を弾く。


「シュッ?」

「ピヨピヨ」


 まだまだ! 今度は翼を手刀代わりに、翼で切る!

 風を纏わせた翼で巨大カマキリの片腕を吹き飛ばした。


「シュー! シュー!」


 怒った顔をして、牙で噛みつこうとしてくるので、サマーソルトキックでバク転をしながら、顎を蹴り上げた。


「シュッ?」


 結構首が強くて、耐えられてしまうが、次の手はもう打ってある。


「シュシュシュ?」


 目を回すようにグルグルと首が回って頭が落ちる。

 旋風を生み出して、首に巻きつけた。


「ピヨ!」


 勝利にガッツポーズをして、俺は大技ばかりを使ってきたことを反省して、接近戦と小技の練習をすることにした。


 そして勝利の成果として、カマキリをいただく。


 巨大なカマキリは、頭と鎌の部分は硬くて食べられたものではないが、身の部分はやわらかくて、最高に美味い!!!


 子持ちカマキリだったようで、本来は葉っぱの裏や木の影に卵を産みつけるのだが、その前に倒して子持ちカマキリをいただいた。


 意外な副産物だったが、親の部分は苦味があり、味わい深かったが、子の部分はプチプチと繋がった卵を食べているようで甘くて美味しかった。


「シャーーー!!!」

「ピーーー!!!」


 食事をしていると、別の巨大カマキリが現れる。

 どうやら春はカマキリの産卵の時期で、巨大カマキリも栄養を欲して、獲物を求めているようだ。


 この世は弱肉強食の世界! 食うか食われるのか?!


「ピヨ!」


 やっぱりこれだよこれ! 


 命のやり取りがある環境は、俺に野生と、生きている実感をさせてくれる。


「シャー!!!」


 お前がいくら威圧を込めても絶対に怯んでやらないぞ。

 俺はこのために森に帰ってきたんだからな。


「ピヨーーーーーー!!!!(王者の咆哮)」


 怯む巨大カマキリに襲いかかる。


『ハイテンションをマスターしました』

『インファイトをマスターしました』


 何やらスキルを習得できたようだ。


『神の声』さんが聞こえてきた。


 アシェも、シルも、オリヴィアちゃんもいない環境では唯一の話し相手だ。


 俺はこの三ヶ月間で、絶対に誰にも負けないぐらい強くなってアシェを守るんだ?!

 

 


 

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