第51話 決勝大会 決勝戦 後半

《sideヒューイ》


 私はこの国の王子だ。


 ただ、第三王子で上の兄二人はとても優秀な人たちだった。


 だから私は常に劣等感を持って生きてきた。


 王族を王族として学園に入学させないのも王国の方針だ。わざわざ多くの手続きを行なって母方の姓を名乗り、伯爵家出身として入学した。


 それでも高位貴族であり、他の者たちよりも優遇されていることもわかっている。


 だが、王族という特別な立場であることを公言しないまま、同級生たちと私は上手く会話をすることができなかった。


 サポートについてくれた友人だけが唯一話せる相手で、慣れない学園生活に同年代の子供を相手にするのは疲れる日々だ。


 その鬱憤を晴らすために今日がある。

 決勝大会に進出することが私の目標ではない。


 優勝することが王族として当たり前なのだ。


 決勝戦の相手は何かと話題に上がっている女だ。


 初級ダンジョンを同学年で一番早く攻略したと噂になっていた。

 そして、ここまで上がってくるだけの実力を持っていることも証明して見せた。


 だからこそ、ここで女を倒すことで力を証明する。


 来賓室に座る父上の姿を見て絶対に負けてはいけないことを再確認する。


「開始」


 互いに名乗り合って、試合が開始する。

 いきなり風の弾丸を放つアシェに、ローは冷静に幻影で対処をするが危なかった。 


 遠距離攻撃を得意としているとは知らなかった。

 ならば、近づいてこちらから攻撃を仕掛ける。


「狐の瞬き!」


 ローは幻影と炎の魔法、それに光の魔法を得意としている。

 

 幻影を作り出す蜃気楼によって位置を悟らせないで近づくことができる。


 だが、アシェはこちらの意図を理解して反撃して来た。

 魔法を使ってローの幻影を一瞬で消し去った。


 次の手を打とうとしたところで、アシェの召喚獣である黒いヒヨコが魔法を発動した。


 大量の水を生み出して津波を作り出したのだ。


 幻影で相手の背後に回ることも考えたが、あいつらは後にも同じだけの質量の水を生み出していた。


 もしも水に飲まれて場外に押し出されれば負ける。


「ロー」


 ここを耐えれば勝機はある。


 まだ見せていない光によってバリアを作り出す。

 光は反射の効果を持っている。

 大量の水に押し流されないように耐える。


「壁を使う!」


 会場の壁に背中を預けて、体を屈めて少しでも小さい面積で光のバリアを作り出す。

 ローと私の二人で重ね掛けした光のバリアによって水が引くのを待った。


 かなりの魔力がジリジリと消費していくのがわかる。


 光のバリアにヒビが入り、もうダメだと思った時にやっと解放された。


「大丈夫か? ロー」

「キュイ」


 全身は濡れてしまったが、私たちは耐え切ったのだ。


「今度はこちらの番だ」


 肩で息をする黒いヒヨコは強い。

 こちらの脅威を感じて、今ので決めにきたのも理解できる。


 ならば、それに応えてやろう。


「狐火 焔」


 最大級の火力を込めたファイアーボールを幻影で三つに分ける。

 それだけじゃない。

 まだバレていない光の魔法で仕掛けを施した。


「イケーーーーー!!!」


 魔力全部を持っていけ!



 炎が迫ってくる。

 三つの炎の一つが本物で、二つは偽物だ。


「一つは私が闇のバリアで対処するから、二つをお願いしてもいいかな?」

「ピヨ!」


 ああ、任せろ。

 魔力は残りわずかだが、絶対になんとかする。


 水の魔法はもう出せない。

 風も最初に使って限界だ。


「ピヨ!」


 アシェと共に闇を生み出す。

 完全に全ての力を消しきった。


 俺が担当した方に本物があった。


「キャーー!!!」


 俺がファイアーボールを防いでいるとアシェが悲鳴を上げる。

 

 幻影のはずのファイアーボールでどうして? 俺がアシェを見ると、光の放流がアシェに降り注ごうとしていた。


 ファイアーボールに隠してアシェを狙ったのか?


「ピーーーーーー!!!」


 最速でモフモフボディーを発動して、アシェを羽毛の中に取り込んだ。


 光魔法を背中で受け止める。


「ピリカ?」


 アシェの声がする。


 あ〜よかった。アシェを守ることができた。


「ピリカ! ピリカ!」


 ダメだな。魔力を全て使い果たした。

 防いで攻撃に移れる体力もない。


 相手を見れば、向こうも満身創痍であることは窺える。


 だけど、ごめんな。アシェ。


「ピヨ」

「え?」


 俺はアシェを羽毛の中から出して、ボロボロの体で振り返る。


「ピーーーーーー!!!!(王者の咆哮)」


 よくもアシェを狙ってくれたな!


 俺の全身から、闇の魔力が吹き上がる。

 魔力を使い果たしたのに、滲み出る力に自分でも不思議な感覚を覚える。


 心臓を鷲掴みにされたような痛みはあるが、そんなこと関係ない。


《瀕死の踏ん張り》が発動しました。

《邪道へ足を踏み込みました》

《生命力を使って、相手を殲滅しますか?》


 《神の声》さんの言葉が頭に響く。


 俺は……アシェを守るために……。


「ピリカ!」


 足を踏み入れようとしてアシェに抱きしめられる。


「ピヨ」

「もういいから、ボロボロで今動いたらピリカが死んじゃう」


 背中は見えないが、火傷が酷いのは感じる。

 

 だけど、ここで俺が諦めたら……。


「十分だよ。優勝することよりも、ピリカの体が大事だから、もう休んで」


 アシェの言葉を聞いていると、俺の意識は次第に失われていく。


《邪道に踏み込む一歩手前で止まりました。生命力を使うことなく回復に回します》


「勝者ヒューイ・ローコンビ。これによりルーキー大会の優勝者はヒューイ君に決定です」


 最後に審判の声が聞こえて、俺は意識を失った。

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