第50話 決勝大会 決勝戦 前半

 いよいよ決勝戦が始まろうとしている。


 会場中の緊張感がこちらにも伝わってきている。

 一番の注目はエキスパートの迫力ある戦いだろう。


 だが、ルーキーとして新しい人材にも注目は集まっているはずだ。


「ピリカ、大丈夫?」

「ピヨ?」

「私はね。すっごく緊張しているよ!」

「ピヨピヨ」


 俺もだ。アシェの気持ちがよくわかるぞ。


 ギュッとアシェが俺のモフモフボディーを抱きしめる


「ここまでありがとう。ピリカが頑張ってくれたから決勝戦まで来れた」


 何を言っているんだ。

 アシェが頑張ったからだろ。

 お互い様ってやつだ。


「あと一人を倒して優勝するよ」

「ピヨ!」


 任せろよ。絶対にアシェをチャンピオンにさせてやるぜ。


「さぁ、皆様いよいよ始まろうとしております。四つの部門の優勝者が決まるのです」


 学園長の横に座った実況を務める審判が話し出す。

 会場は四つのフィールドに分かれて、それぞれの会場で行われる。

 観客たちは自分たちが見たいフィールドに移動して、観戦を行うわけだ。


 そして、ルーキー会場は普通のコンクリートで作れたフィールドでなんの変哲もない。


 だからこそ小細工やフィールド恩恵は何もないということにもなる。


「ルーキー大会決勝戦。ヒューイ・ローコンビと、アシェ・ピリカコンビ」


 審判を務める先生の声で、俺たちはそれぞれの入り口から登場して会場へと入っていく。

 観客席には、オリヴィアちゃんやバッシュ、コロンちゃん。ユズちゃんも応援に駆けつけてくれいた。


 これまで戦った友たちが、アシェを応援するために来てくれているんだ。


 イヤーミ君の姿は見えないが、会場のどこかで見てくれていると思う。


「互いにフィールドで一礼を」


 先生に中央へ呼ばれて互いに一礼する。

 近くで見るとヒューイ君のイケメンな顔がよくわかる。


「悔いを残さぬように握手を」


 アシェが手を出すと、しばらく止まってからヒューイ君はアシェの手を握った。


「負けないよ!」

「勝てるものなら勝ってみろ」


 俺たちは互いの陣地へ戻って開始の合図を待つ。


「それでは今年度ルーキー大会決勝戦を始めます! 開始!」


 先生の声で試合がいよいよ始まる。


 相手がどんなことをしてくるのか全く予想ができない。 

 わからないときは……。


「わからないときは先手必勝だよ! ピリカ、風の弾丸」


 よくわかっているじゃないか。

 遠距離から相手を撃ち抜くスナイパーで、相手の金色狐ローを狙う。


「狐火」


 風の弾丸が、当たると思った瞬間に蜃気楼のようにヒューイとローの体が揺らめいて風の弾丸がそれていく。


「良い攻撃だ。ならば俺からもいくぞ。狐の瞬き」


 先ほどの揺めきが今度は攻撃に変換されて一瞬で、ローの体が俺たち前に現れる。


「ピヨ!」


 驚く俺にアシェは冷静だ。

 闇の魔法を発動して、出現したローの体を吸収してしまう。


「ピリカ、多分あれは幻影系のスキルだと思う。あの場所にいると見せかけて別の場所にいる。今出現したのもいきなり近づいてきたように見せて、実は遠くから攻撃を仕掛けてくるんだ。その中に実態を混ぜることで幻影と現実をわからなくする」


 アシェはよく勉強しているな。

 相手の行動に惑わされないで、よくみている。


「ピヨピヨ」

「えっ? 任せろって?」

「ピヨ」


 幻影だとわかっていれば、やりようはある。


 ヒントをくれたユズちゃんには感謝したい。

 俺はコンクリートフィールド全体に溢れるほどの水を発生される。

 これはフロッピーが沼地を使って津波を作り出した応用だ。

 大量の水を発生させて津波を作りだす。


「凄いよ、ピリカ!」


 俺に乗った状態で、津波の影響を受けないピリカ。

 後方などにも逃げ場を奪うためにも、風で渦を作り出して、自分たちの周りだけ水を寄せ付けないようにしている。


 水の物量で押し切る技だが相手の姿が見えないのが欠点だ。


「どうかな?」


 水が両サイドの出口から放出されていく。

 俺たちは風のバリアを張ったまま、相手の状況を確かめる。

 

 場外まで流されてくれれば、俺たちの勝ち。

 耐えられたら、こっちは大量の魔力を消費してしまったから、厳しい状況に追い込まれる。


 水がなくなるに連れて相手の姿が浮かび上がる。


 全身をびしょ濡れにした。

 ヒューイが荒い息を吐き、ローも全身をビショビショにしながらも出口の近くで耐えている。


「ピッ」

「凄いね。ヒューイ君達はあれを耐えたんだ」

「ピー」


 俺は大きく息を吐く。

 魔力を半分以上使って行った奇襲が失敗してしまった。


「よくもやってくれたな。ここまで俺を追い詰めたのは貴様らが初めてだ」


 コンクリートの地面、先生たちが作りだす結界。

 それらを考慮した俺の作戦はどうやら失敗に終わったようだ。


「今度はこちらから行かせてもらう。狐火 焔」

「キューーーー!!!」


 ローが鳴いた瞬間に爆炎が吹き上がって、巨大なファイアーボールが三つ出来上がる。


「先ほどの水はもう作れないだろ? なら、こっちの火をどう受けるのか見させてもらおう」


 今の俺にあれを防ぐだけの魔力は残されていない。


「ピリカ、大丈夫。まだ負けてないよ」

「ピヨ?」

「ピリカの魔法を受けるのに向こうも魔力を使っているはずだよ。だから、あの中に本物は一つだけ。残りの二つは幻影だよ」


 アシェ! 君はどこまで成長しているんだ。


 頼もしい相棒に支えられているな。


 わかった。絶対にその一つを見つけて防いでやる。

 

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