第49話 決勝大会 第二回戦 後半

 迫り来る沼地の津波を、俺とアシェは闇のバリアを張って防御する。


 ユズちゃんは津波だけで終わるはずがない。

 俺はもう一つの準備をしておく。


「フロッピー、今よ!」


 沼地の波に乗ったフロッピーとユズちゃんが、波の上で跳ねて、さらに高く飛び上がる。


 俺たちは闇の魔法で沼地の波を受け止めて身動きが取れなくなった。


「かかったわね。あなたたちが津波で倒れてもよし。防いだとしても身動きが取れなくなる」


 飛び上がった時間差を利用して、フロッピーの長い舌が俺を攻撃するために放たれる。


 飛び上がったことで落下する勢いも加わって、威力が上がっていた。

 さらに沼地が岩場を飲み込んだことで、俺たちの足場も失われた。


「取ったわ!」


 ユズちゃんの声が沼地の波を吸い込んで魔力を消費した俺たちの頭上から聞こえてくる。


 アシェは魔法を使った直後で、発動はできない。


「ピヨ!」


 襲いくるフロッピーの舌が俺たちを襲う瞬間に……。


 俺はモフモフボディーを発動した。


 アシェが羽毛の中に包み込まれて、完全にガードされたことで、フロッピーの攻撃を跳ね返す。


「なっ!」

「ピーーーー!!!」


 驚いたユズちゃんに対して、俺は至近距離から鳴き声をぶつける。


 先ほどは耐えたユズちゃんが、恐怖に怯えた顔を見せる。

 フロッピーも至近距離で王者の咆哮を受けたことで、一瞬だけ動きを止めた。


「ピヨ!」


 魔法を発動するほどの時間はない。

 だけど、空中で硬直して落下してくるフロッピーの腹に向けて嘴を放つことはできる。


「グエッ!」


 俺の嘴が、フロッピーの腹に突き刺さって落下していく。

 沼地に落下したフロッピーとユズちゃんは立ち上がってくることはなかった。


「勝者アシェ・ピリカコンビ」


 強かった! ユズちゃんとフロッピーは、本当に今まで戦った中で一番だ。

 もしもこっちにモフモフボディーというガードスキルがなかったら、先ほどの一撃で終わっていた。


「ピリカ。大丈夫?」

「ピ〜」


 疲れた。このまま決勝戦に赴くのはヤバい。


 沼地から抜け出して、地上に上がるとシルとオリヴィアちゃんが待っていた。


「お疲れ様です。凄いです。決勝大会に勝ち上がってしまいました」

「うん。ありがとう! だけど、本当に強くて、私もピリカもヘトヘトだよ」

「ふふふ、そう思って特製栄養ドリンクをお持ちしました」

「栄養ドリンク?」

「はい! ピリカちゃんにも用意しましたよ」


 アシェには黄色いエナジードリンクのような見た目のドリンクを。

 俺には真っ白なミルクのようなドリンクを差し出してくれる。


 何を入っているのかわからないが、オリヴィアちゃんが用意してくれた物だ。

 俺は一気に飲み干すとあまりの美味しさに元気になっていく。


「うわ〜。凄くおいしいね! 何これ?」

「ふふふ、味付けは私のオリジナルですが、中身は回復薬ですよ」

「そうなの? 凄い美味しいよ。回復薬ってもっと薬っぽいイメージだったよ」

「ええ、その薬っぽさを利用して味付けをしているんです」


 オリヴィアちゃんはこんなこともできるんだな。


「ありがとう。凄く美味しくて元気になれたよ!」

「はい! 試合中は何もしてあげられませんが、試合が終わった間の応援はこれが最後です」

「あとは決勝戦だけだからね。頑張ってくるよ」

「応援しております!」

「ニャオ!」


 二人からの応援をもらって、先ほどまでの疲れが吹き飛んだ。


 回復薬は初めて飲んだけど、美味しくて体も魔力も充実した気がする。


「ピリカ、いけるよね?」

「ピヨピヨ!」


 おう! 任せろ。

 元気100倍だぜ!


「ふふ、最後の相手はどんな人かな?」

「ピヨ」


 俺たちが決勝のフィールドとなる会場へと戻る。

 そこにはイケメンの少年が腕を組んで立っていた。


 その隣には金色の毛並みを持つ、三本の尻尾をした狐が伏せの状態で眠っている。


「お前が俺の対戦相手か?」

「アシェだよ。相棒はピリカ」

「ヒューイ。相棒はロー」


 決勝大会は各部門の進出者が出揃ってから開始される。

 どうやらエキスパート部門がまだ一人やってきていないそうだ。


 試合はすぐに開始されなかった。

 そのおかげでゆっくりと休息が取れた。


 そして最後に現れた召喚獣に、会場中がどよめく。

 エキスパート部門の一人であり、巨大なカメの魔物とボロボロになったサモナーの姿は、ここまでが厳しい戦いをしてきたことが窺い知れる。


「決勝戦へ駒を進めた8名の有志たちよ。よくぞここまで辿り着いてくれた。君たちの活躍を今か今かと、王都に住まう者たちが待ち望んでいたぞ。そして、ここでスペシャルゲストに挨拶をしてもらう」


 学園長先生が席を譲ると、どこかヒューイと名乗った少年に似た男性が壇上に立つ。


「皆の者。余は王として、王国を司る者として、若者たちの活躍を応援したい。今日は素晴らしき戦いを見させてもらおうではないか」


 えええ! あれが王様なのか? 王国とは言っていたが、雲の上の人間すぎて知らなかったぞ。


「凄いね。王様が挨拶してたよ」


 アシェも見るのは初めてだろう。

 それなのに落ち着いてヒューイだけを見ている。


 もう戦う準備は万端だな。


 わかったよ。行こう。俺たちの戦いをするんだ。

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