第48話 決勝大会 第二回戦 前半

 1日で全ての試合を行われるということは、勝者はすぐに次のステージへ移動しなければならない。

 早くつければ早いほど、たくさんの時間を休息に当てることができる。


 そして、次に俺たちがやってきたのは、泥沼が広がる場所だった。

 今までの中で最も足場が悪く。戦いらしい戦いができるのかも不明な地形に困惑をしてしまう。


 だが、一時間ほどしてやってきた相手にどこかで納得してしまう。


「やぁ、初めましてだよね」

「うん。私はアシェ。そしてこっちがピリカだよ」

「私はユズよ。そして、相棒のフロッピー」


 巨大なカエルに乗った少女が沼地をスイスイと進んでくる。

 一回戦では海辺の魔物と対戦して勝利を収めたようだ。


「イヤーミ君は負けたのね。入学当初はチヤホヤされていたのに、あれが彼のピークだったのね」

「ユズちゃんはイヤーミ君に声をかけなかったの?」


 入学当時は、大勢の生徒がイヤーミ君のパーティーメンバーになることを望んだ。

 だが、授業が進むにつれてイヤーミ君のサーベルサーペントが進化できないことを知ると、塩が引くように生徒たちはパーティーになることを拒否した。


 子供とは正直であり、残酷なことだ。


「ええ、見ての通りフロッピーはあまり強い魔物ではないの、だから相手にされないと思って声をかけなかったわ。だけど、私とフロッピーは頑張ったの。スライムのダンジョンで水との親和性を強めて、海辺の魔物にも勝てるぐらい両生類としての強みを手に入れたわ」


 自分で自分を褒めるユズちゃんは、どこか自分の世界をもつ不思議な女の子だった。紫色の髪を長く伸ばして顔を隠してしまうほどではあるが、その語り口調で自分に自信がない人間ではないと思える。


「私もピリカとここまで頑張ってきたよ。ヒヨコは強くないって、食用だろって言われたこともあるけど、ピリカは強いよ」


 おいおい、アシェそんなことを言われていたのかよ。

 俺は全然知らなかったぞ。


「ふふ、私たちってどこか似ていたのね。いいわ。この場所は私に有利だけど、あなたのことライバルとして認めてあげる」


 確かに相手のいう通りだ。


 向こうの方が有利な地形でどうやって戦うのか? こちらの方が考えないといけない。


「ピリカ、沼地は足を取られると動くことができなくなる。だから、方法として沼を払い除けるよ!」

「ピヨ?」


 アシェには考えがあるようだ。

 俺はそれに従うまでだ。


「それでは決勝大会第二試合を開始ます。沼地の決戦アシェ・ピリカコンビに対して、ユズ・フロッピーコンビの対戦を行います」


 向こうは沼の中でも泳ぐことができて、さらに沼の上を跳ねることまでできる。

 それに対して、俺たちは沼地で自慢の鉤爪は使えなくなり、足場は悪い。


 フィールドに恵まれた相手と、フィールドに対して悪条件の俺たち。


「開始!」


 審判の合図で、俺たちは大きく後に飛び退いた。


 予選の時よりもフィールドは広く、沼地の中でも浅瀬や岩場なども多少は存在する。

 俺たちは岩場の上に渡って浅瀬をキープする。


「あらあら、そんなに逃げてどうしたのかしら? 私たちは沼地の真ん中にいるのよ。それでは戦いにならないわよ」

「そんなことないよ。ここからでもピリカは強い」


 よくわかっているじゃないか。


 俺はアースドラゴンを撃ち抜いた時のように風のスナイパーライフルを作り出す。


「なっ、何よそれ?」

「私にもわからないけど、ピリカには遠くからでも魔法を放てる技術があるってことだよ。私も進化したピリカになって初めて知ったけど」


 一回戦ではアシェが頑張ってくれた。


 だからここでは俺が活躍を見せる番だ。


「ピーーー!!!」


 効果があるのかわからないが、鳴くことで相手に恐怖を与えるが、ユズちゃんは奥歯を隠しめて耐えているようだ。


「そんなことで屈すると思わないでほしいわ! 水よ!」


 フロッピーとユズちゃん自身による水の防御壁が作り出されて、俺の風の弾丸をそらしてしまう。


「やるね」

「あなたも凄いわ。さすがは私たちの学年でダンジョン攻略一番乗りね」

「知ってくれてたの?」

「当たり前じゃない。私たちは似ている。だけど、あなたはとても目立っていたもの。私もあなたようになりたいと思っていたわ」


 アシェに憧れた少女が、強くなって立ちはだかるか。


 ドラマチックだね。


 だけど、憧れた人間として、アシェは負けるわけにはいかないな。


「フロッピー。あなたの力を見せてあげて頂戴」


 こちらの攻撃を凌いだユズちゃんがフロッピーに指示を出す。

 水中ゴーグルをかけて、沼地の中へと飛び込んだ。


 地鳴りを起こして、次第に沼地が波を起こして、俺たちが立っていた岩場を飲み込む高さへと跳ね上がっていく。


「ピヨ!」

「ピリカ。ここが正念場だよ。向こうも大業を仕掛けてきた。これに耐えればチャンスがあるはずだよ」


 本当にアシェは強くなったな。


「闇よ!」

「ピヨ!」


 だから、向こうが水でやった防御を俺たちも闇で再現する。


「イケーーーーー!!!」

「ピーーーーーー!!!」


 アシェの声が迫る沼地の波を迎え撃つ。

 

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