第42話 オリヴィアの夢

 第二回戦を勝利で飾った俺たちは決勝大会の切符を手に入れた。

 元々、トーナメント形式になっていて、二度勝利すれば決勝大会に上がれるようになっていたようだ。


 だが、決勝大会に出てくる者たちは進化だけならば、全員が俺よりも上なので油断できない。

 せめて進化して、次の段階に進んでおかなければ勝利することは難しい。


「ピリカ! 無茶しすぎだよ! 私の指示を聞いて」

「ピヨ!」


 俺たちは連携を強めるために、コボルトの四階で特訓を行なっていた。

 コボルトが次々と現れるので、アシェの指示を聞いている余裕がない。


「アシェちゃん。コボルトを追い込みました」

「ニャオーン!」

「ピヨピヨ」


 シルが魔物を釣って、俺が狩るというレベルアップを効率よく行うための戦いをしていた。明らかに森にいた時よりもレベルアップに時間がかかっている。

 それがどうしてももどかしくもあり、逆に進化を行えるなら、最も安全な場所で行えるのだからと自分に言い聞かせていた。


「ふぅ、ありがとうオリヴィアちゃん。今ので大分経験値が稼げたと思うよ」


 サモナー大会が始まってから、アシェはメキメキとサモナーとしての能力を開花させている。

 俺に騎乗したまま戦闘を行ったり、魔法を使えるようになったり、そして何よりも指示が的確で俺も戦いに集中できるようになっている。


 だが、アシェの指示が追いつかない時がある。

 そんな時にどうしても連携が乱れて、俺とアシャで目的を違えてしまう。


 人獣一体を、たったの短時間で習得しつつあるのだが、まだまだ見直さなければいけいない課題は多いようだ。


 ただ、うちのアシェは天才だ。


 九歳とは思えない賢さで指示を飛ばすことも的確にできている。


「ピヨ!」

「うん。わかってるよ。ピリカ。私も見えてるから」


 どうやら視野も少しずつだが、広がってきているようだ。

 俺が指示を出す回数も減ってきている。


「ふぅ、なんとか戦えているね」

「凄いですわ。アシェちゃん。どんどんサモナーとしての腕を磨いておりますね」

「オリヴィアちゃん。私ばっかり鍛えさせてもらってごめんね」

「いえいえ、私は体が弱いところもあるので、サモナーマスターよりも、デザイナーになりたいと最近は思い出しております」

「デザイナー?」

「あら、アシェちゃんは知りませんか?」


 サモナーになったからと言って、全員がサモナーマスターを目指すというわけではないようだ。

 実際に大人になるまでの経験の一つとして、サモナーマスターが存在していて、大人になるとそれぞれの仕事に就く人の方が多い。


 サモナーマスターとして活躍できるのは一握りの存在でしかないということだな。


「うん。知らない」

「デザイナーは、魔物さんたちのお洋服を作ったり、装備品を作ったり、デザインする仕事です。結構人気な職業なので、昔から雑誌などを見て勉強しています」

「そうだったんだね」

「はい。シルちゃんと出会えたことで、シルちゃんをもっと可愛く、美しくしたいって思ったんです」


 確かに、シルは普通にしていても優雅さを感じるというか、シルバーキャットは美しい。それがオリヴィアちゃんが着飾れば、もっと綺麗になるのかもな。


「オリヴィアちゃんも夢があっていいね。一緒に頑張ろうね」

「はい! ですから、今はアシェちゃんのサポートをするのが楽しいので気にしないでください」

「うん。ありがとう。それじゃいよいよ五階で中ボス退治をしようか」

「そうですわね」


 俺たちの今回の目的は五階層にいる黒いコボルトだ。

 奴を倒せれば、俺のレベルも一気に上昇して進化にまで辿り着けるはずだ。

 前回のゴーレムボスで到達できるかと思ったが、まだ足りなかった。


 それだけ進化するだけのハードルが上がってきているということだ。


「いくよ!」

「はい!」

「ピヨピヨ」

「ニャオ」


 アシェの掛け声に、俺たちも声を合わせる。


 五階層へ降りていく階段を下っていけば、岩がゴツゴツとしたフロアに

なっていて、黒い毛並みをしたコボルトとグレーの毛並みをしたコボルトがフロア内を歩いている。


 隠れる場所もあり、敵の数も多い。

 

 それに黒いコボルトが指揮を取るなら、統率も取れて戦いは厳しいものになるだろう。俺とアシェの連携が大事になる。


「ピリカ、頑張るからね」

「ピヨ」


 ああ、信じているぞ。


 俺たちは五階層へと降り立った。


 こちらに気づいていない。

 コボルトたちにシルの重力負荷がかけられて、一気に動きが鈍くなる。

 

「風よ!」

「ピヨ!」


 俺とアシェはそこに風の刃を連続で放っていく。

 まずは中距離から敵を減らす。

 これは不意打ちでしか意味がない。


 コボルトたちはすぐに盾を構え、岩に身を隠す。


「ピヨピヨ!」


 次は闇だ。


 隠れて視界を奪われたと思っているコボルトたちに闇で視界を奪って気づいていないところをウォーターボールで窒息させる。


「半分は倒せました!」

 

 オリヴィアちゃんとシルが視界を奪ったところで斬撃を飛ばして数を獲らしてくれる。


 これで手前にいたコボルトは全て倒すことができた。

 残っているのは指示を飛ばしている。


 黒いコボルトと数体のコボルトだけだ。


 視界が戻った黒いコボルトは現状に気づいて怒りに震えた声を出す。


「アウウウウウウウウ!!!!!!」


 雄叫びに合わせて残ったコボルトたちが連携をとり始める。


 ここからが本番突入というわけだ。

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