第40話 予選二回戦

 傷を負った片羽を癒しながらも、俺たちは二回戦に向けてコボルトダンジョンに挑戦していた。

 

 二回戦の対戦相手は、ソリタリーウルフと呼ばれる俺よりも危険度の高い魔物だ。

 巨大な狼でサモナーを乗せて走ることができる。


「ピリカも私を乗せてくれるから条件は同じだね」


 そう、今回は互いにサモナーを背中に乗せたまま戦いになることが予想される。

 乗せると機動力が落ちて、サモナーが傷つきそうだが、指示が早く出来て、視界も増えることで意思伝達が早くなる。

 

 今、俺の背中はにはアシェが乗っていて、首を抱きしめてくれている。


 その状態でコボルトダンジョンの攻略に挑んでいた。

 

 オリヴィアちゃんとシルには悪いが、今回はサポートに回ってもらって、優先的に戦闘を行わせてもらっていた。


「ピリカ! 右からくるよ。私は後!」

「ピヨピヨ」


 アシェを乗せた状態で戦闘をするのは初めてだったが、これが意外にしっくりくる。アシェが高い位置から周りを観れるので、視界が広くなり指示を飛ばせる。

 しかも、近くにいるので、大きな声を出さなくても俺にしっかりと聞こえているのだ。


 俺が風魔法を放てば、アシェも後方に風魔法を放ち、囲んでくるコボルトたちを前後左右同時に相手にできるようになった。

 アシェもこの戦い方に慣れてきたのか、首を前後左右に動かして戦っている。


「ピリカ、次は四体。一体は隠れて様子を見てるよ」


 俺から見える景色とアシェが見ている景色は違うようだ。


 順調にコボルトを撃退できているので、レベルの上がりも早くなっている。


 これなら決勝大会前に進化を迎えられそうだが、その前に二回戦の相手だ。


「順調に仕上がっておりますわね」

「なんとか、形にはなってきたかな。ピリカには何度か乗せてもらったことがあったけど、ここまで戦う時に便利だとは思わなかったよ」

「ピヨピヨ!」

「サモナーの中には、召喚獣に乗って武器を振るう方もおられますからね。人獣一体ですわ」


 その後も数体のコボルトを撃破して、俺たちはいつの間にか地下五階まで降りてくることに成功していた。

 ゴーレムダンジョンでは、魔法を跳ね返すプリズムゴーレムがいた場所なので、警戒は強くなる。


「GYAAAAAAA」


 それまではグレーに近い毛並みをしていたコボルトだったのだが、鳴き声を上げたのは真っ黒な毛並みをしたコボルトだった。

 獰猛な雰囲気を持つ別個体で、明らかに強さが違う。


「ピヨ!」

「うん。あれはまだ私たちには相手ができないね」


 俺が危険を知らせれば、アシェも理解してくれたようだ。

 もしも、二回戦の相手に勝てたなら、あいつを倒しに戻ってくる。


 その決意を胸に俺たちはコボルトダンジョンを後にした。


「次の対戦は、雪山フィールドですわ」


 オリヴィアちゃんの集めてくれた資料によれば、俺たちが次に戦うのは雪が降り積もった山の中だ。

 足場が悪く、雪という悪条件でどうやって戦うのか? それが今回の勝敗を分けることだろう。


「ピリカと二人ならいける気がするんだ」

「ピヨピィー」

「うん。行こう。ピリカ?!」


 俺たちが二回戦の会場に入ると、すでにソリタリーウルフに跨るカウボーイハットを被った女の子が待っていた。


「待っていたわ。アシェ。あなたを倒すのは私よ」


 アシェは相手の名前を知らない様子で戸惑っているが、どうやら相手はそんなことを気にしていないようだ。

 勝手にライバル視して、アシェに対して敵意を持っていることだけはわかる。


「本日の審判をさせていただきます。お二人とも握手を」

 

 審判を務める先生が現れて、試合が開始される。


 互いに騎乗したスタイルで、雪に足場を取られる。

 俺が戦いにくさを感じている中で、ソリタリーウルフは楽しそうに雪の上を飛び回っていた。


「どうやらフィールドは私に味方しているようね。ソリーいくわよ!」

「バウ!」


 雪の上とは思えない速さで駆けてくるソリタリーウルフに、俺はありがたいと感じていた。身動きが取りずらいので、向こうが近づいてきてくれるなら好都合だ。


「ソリー、スラッシュ!」


 一定の距離に近づいたことで近距離攻撃のスラッシュを放ったソリタリーウルフ。

 俺は水の壁を作って防御する。


 今回は風ではなく水を多用する事を最初から決めていた。


 雪のフィールドと水の魔法は相性がいい。


「キャウン!」

「くっ、雪のフィールドで水を使うとは鬼畜!」

「ピーヨ」

「へへん、濡れたくなかったら降参してもいいんだよ」


 アシェが風の魔法で牽制をして、俺がウォーターボールを作ってソリタリーウルフに水を浴びせていく。

 フィールドの適応の能力は確かに向こうの方が高い。

 だけど、体が濡れた状態雪山にいるのは危険な行為だ。


「くっ! 小癪な! ソリタリーウルフ。火の魔法よ!」


 口から火を起こして体を乾かそうという作戦に出たが、物量ならこちらの方がフィールドが味方してくれる。


 水柱を何本も立てるとで、相手を囲い込んで炎の勢いを落とさせる。

 さらに、閉じ込めた状態で上から水をかければ、全身ずぶ濡れ状態だ。


「こっ、降参する」

「勝者アシェ!」


 こんな方法で勝てるのは子供相手だが、相手はアシェと同じ9歳の女の子だ。

 強引な攻撃よりもやりやすい。


「やったね。ピリカ!」

「ピヨ」


 能力は向こうが上でも戦い方で勝利を得られる。

 大会に出て学ぶことは多くあるな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る