第39話 予選一回戦

 俺たちはサモナー大会ルーキー部門にエントリーして、一回戦を迎えようとしていた。基本的に、人馬一体ならぬ、サモナーと召喚獣が一体となってフィールド内で戦闘を行う。


 ・フィールドは学園側が用意しており、一定区間をバトルフィールドとして設定されている。その区間から出ると敗北。

 ・時間切れになって、ダメージの多い方が敗北。

 ・召喚獣が戦えない状態になっても敗北。

 ・サモナーを故意に怪我させるように攻撃を仕掛ければ、反則負けになる。


 敗北のルールをおさらいして、セコンドにはオリヴィアちゃんとシルがついてくれる。


「いよいよ一回戦ですわね」

「うん。頑張ってくるよ」


 シルが俺のところに来て肉球で胸を叩いた。


「ニャオ」

「ピヨ」


 激励のつもりなのだろう。

 プニプニとした肉球はやわらかくて気持ちいい。

 

 俺たちが最初に戦うフィールドは、草原フィールドで何もない場所で草が生い茂っているだけだ。

 ただただ広い場所で隠れる場所もない。


「ピリカ、行こう」

「ピヨ」


 フィールドの中に入ると、学校の先生が着ている制服姿の女性が現れる。


「草原のバトルフィールドにようこそ。ルーキー大会は基本的なルールを守りスポーツマンシップに則って戦ってくれれば問題はありません。それでは両者互いの健闘を讃えて、まずは握手からよ」


 そう言われて相手の姿が見えると、背の大きな男の子だった。

 連れている魔物は小さなドラゴンだ。


「よう、俺はバッシュ。やっと俺のドラゴンが戦えるレベルになったから参加したんだ。アシェとピリカのコンビだろ」

「私たちを知ってるの?」

「もちろんだ。俺たちと同じ学年で、一番に初級ダンジョンを攻略したんだからな。俺たちがまだ攻略はできてねぇけど、必ず追いつくぞ」


 バッシュはアシェよりも体の大きな男の子で、バトル小僧という印象を受ける。

 短パンに野球帽を被っているとので、少年らしくて可愛い。


「うん。私も負けないよ」


 アシェとバッシュが握手を交わして距離をとる。


 気持ちの良い相手と最初に戦えるのはいいことだ。


「ピリカ、私は負けるつもりないからね」

「ピヨ!」


 ああ、俺もそのつもりだ。


「それではルーキー戦、第一回戦、アシェとバッシュの戦いを始める」


 先生の声で、戦闘を開始する。


 リトルドラゴンは動きが早くて、速攻でこちらに攻撃を仕掛けてきた。

 

「ピヨ」


 闇よ。


 リトルドラゴンの視界は奪われた。

 だが、それでも怯まず進んでくる。


「まっすぐだ。ドラ。迷うな」


 バッシュの声がドラゴンを進ませているんだ。

 いい信頼関係だな。


「ピリカ」

「ピヨ!」


 ああ、俺たちも信頼を見せよう。

 俺は正面からリトルドラゴンとぶつかり合う。


「ガウ!」

「ピヨ!」


 力もスピードもあちらが上。

 だけど、魔法はこちらが上だ。


 風よ!


「ピヨピヨ!」

「ガウガウ!」


 風の刃で、身体中が傷ついているのにそれでも俺の翼へと噛みついた。

 もしも、俺が翼で空を飛ぶ鳥ならば、羽をもがれて戦えなくなっていたかもしれない。


 だけど、俺はヒヨコで、まだ飛ぶことはできない。


「ピーーーーーー!!!!」


 くれてやるよ! 片羽を失おうと関係ない。


 水よ。風よ。


 全てこのドラゴンを倒すために働け。


 すべてが刃になって、ドラゴンを襲え。


「降参」

「そこまで!」


 何が起きた? 俺は魔力を爆発させたはずだ。

 片羽に食いつかれて痛みでアドレナリンが出て、あれ? 痛みがない。


「勝者アシェ」

「ピリカ! 凄いよ」


 俺が放った魔法の刃が、リトルドラゴンの体を傷つけていた。


「容赦ないな」


 バッシュの胸に抱かれるリトルドラゴンのドラは、俺が放った魔法の刃で全身を傷ついて意識を失っていた。

 食い込んでいた牙は片羽から抜けて、いつの間にか倒せていたんだ。


「こっちも必死だっただけだよ」

「ああ、そうだな。ドラの気迫はそっちのピリカにも通じた。敗北は学ぶことが多い。いい勉強になった。俺たちはまだまだ強くなれる」

「うん。凄く強くなると思う」

「ありがとう。一回戦がお前たちでよかった」


 バッシュはドラを膝の上に乗せて救護員が来るまで休ませるようだ。


 歩いて帰ることができる俺たちはその場を去った。

 

「ピリカ、お疲れ様」

「ピヨ」


 強かった。

 初めて、同じレベルでサモナーと契約した召喚獣と戦った。

 森で戦った多くの魔物も強かった。

 だけど、召喚獣は異質な強さを持っている。


 多分、それは俺も同じなんだ。


 それはサモナーから得られる魔力もあるだろうが、恩恵が関係しているのかもしれない。アシェが望んで、アシェが勝ちたいと口にした瞬間。


 アシェのために力を奮いたいと強く思った。


 それは暴走するように力を溢れさせて、目の前にいるリトルドラゴンに負けたくないという思いを強くした。


「あれ? どうしたの?」

「ピヨピヨ」


 気づけば、アシェを抱きしめていた。

 傷ついた片羽のことなど気にすることなく、もしもリトルドラゴンに負けていたらアシェを守れない。


 もっと強くならなくちゃいけない。


 このモフモフボディーでどこまでやれるだろうか? 次の進化が待ち遠しい。

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