第33話 冒険は急に 4
アシェのご命令とあらば、召喚獣である俺は力を発揮できる。
不思議なことだが幼女の言葉がヒヨコを強くする。
「風よ! 水よ! 闇よ!」
風がサンドゴーレムを吹き飛ばし、水がサンドゴーレムの動きを止め、闇がサンドゴーレムを飲み込んでいく。
大量に現れたサンドゴーレムを一体一体倒しても効率が悪い。
なら、一気にまとめて倒してしまえばいい。
俺はこれまで温存していた魔力を解放する。
しかも一撃に込めるのは強さよりも広範囲の勢いを大切にする。
「ピヨピヨ」
「えっ? ピリカの上に乗るの?」
「ピヨ!」
このまま大量に現れるサンドゴーレムを倒していても前に進めない。
それならば、俺の上に乗ってもらって進みながら倒した方が意味がある。
「ニャオ」
シルも同じ考えだったようで、オリヴィアちゃんを抱き上げて砂の上を跳ねる。
「キャっ! シルちゃん凄いわ!」
「うん。わかったよ。乗らせてもらうね!」
「ピヨ!
俺は膝を折ってアシェが乗りやすい高さに調整する。
アシェが乗り込んだのを確認して、振り返ればシルが乗っていた時よりも重さを感じない。
身長もアシェの方が低いので当たり前からもしれない。
「ピヨピヨ!」
しっかり捕まっていろよ」
「うん。ピリカお願い!」
「ピヨ!」
俺は砂の上を走り始める。
風を纏い、アシェが振り落とされないように守りながら、迫るサンドゴーレムたちの足元に水を誕生させて足場を奪う。
「凄いね。ピリカは、私ももっとピリカのことを知って戦略とか、戦い方も勉強するからね」
「ピヨ!」
魔力は無限に続くわけではない。
それにここまで一気に降りてきたことで、九歳のアシェでは体力が続かない。
そういう意味でも俺の上でゆっくりしてもらうことは悪いことじゃない。
「ニャオーン!!!」
シルが俺の周りに現れたサンドゴーレムたちを一気に倒してくれる。
重力魔法でペシャンコになったサンドゴーレムは砂に変えるだけだが、その上でシルが、俺の体を軽くしてくれる。
それだけで砂の上を走る、速度を上げることができる。
アシェを落とさないように風魔法を纏ったまま、一気に走り抜けるが軽くしてもらったことで走り抜けることも苦にならない。
「ピヨピヨ!」
遠くにいるシルにお礼を述べて、一気に地下九階を駆け抜ける。
今までよりも数が多く、広さもあった地下九階を抜けると地下十階も砂の城が立っていた。
ダンジョンの中に城を作る意味がわからないが、俺はふと蟻塚を思い出した。
あそこにいたアントクイーンのように王を関する者たちは一国一城の主人として、家を建てるのかもしれない。
ここにいるサンドゴーレムボスも同じように、砂の城を作ろうと思ったのかもな。
「ふぅ、この階は特殊でね。完全に階段を降りて侵入しないと戦闘は開始しないんだよ。だから、階段がセーフティーエリアとして休憩できるスペースなんだ」
リュックから、お弁当と飲み物を出す二人が休憩を取る。
どうやらもっと早く休憩を取るつもりだったが、ここまで順調に来たのでタイミング逃してしまったようだ。
「ピリカもお水飲んで。ご飯も持ってきたよ」
アシェが何かと世話を焼いてくれる。
オリヴィアちゃんもシルに色々とお世話をしている。
俺たちが戦っているサポートと、力をくれるサモナーの関係はこうやって互いを支え合うようにできているんだろうな。
魔力は、ダンジョンにいると勝手に回復してくれる。
こうやって休息をとっている間も、先ほど乱発したのが嘘のように回復していっている。
「少しだけ疲れたからお昼寝タイムにしようか?」
「そうですね」
俺たちは壁にもたれて休息の睡眠を取ることにした。
ダンジョンに潜って八時間ぐらいは立つので、二人は相当に疲労が溜まっていた様子で、俺とシルに抱きついて眠ってしまう。
セーフエリアのおかげで魔物が来る事はないから、俺たちも順番に休息を取ることにした。
五時間ほど休息をとり、水を飲むとすっかり二人は元気になった。
本当はもっとゆっくり休みを取りたいが、ベッドではないところで寝るのは疲れるだろう。
「ピリカはモフモフで寝心地もいいね」
「ピヨ!」
俺の上で寝ていたアシェは満足そうだ。
アシェを乗せたままウトウトしていたが、ゆっくり休むことができた。
「そろそろ行きましょうか?」
「そうだね。二人とも大丈夫?」
「ニャオ!」
「ピヨピヨ!」
ああ、ゆっくりしたことで魔力は全回復したぞ。
それにここまで来るのに疲れていたのも、アシェと一緒に眠ったことですっかり元気だ。
ここから、ボス戦だからな。
絶対にアシェたちを攻略させてやりたい。
「ピヨピヨ」
「ニャオ!」
俺はシルを見て、相棒頼むぞと声をかける。
シルもわかっている様子で肉球をこちらに向けてくる。
俺は羽を当てて互いにハイタッチをした。
「いざ、地下十階!!!」
「行きますわよ!」
俺たちはサンドゴーレムボスがいる十階へと足を踏み入れた。
見えていた砂の城が形を変えて、そのままサンドゴーレムへと変化する。
城じたいがサンドゴーレムだったのだ。
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