第32話 冒険は急に 3

 地下七階に降りた俺たちを待っていたのは溶岩と熱せられた大地だった。

 アシェとオリヴィアちゃんはリュックから耐熱シートと耐熱の靴を取り出して履いて、俺とシルにも耐熱シートで作った靴と服を着させてくれる。


「まさか、ここまで来れるとは思っていなかったけど、用意してきてよかったね」

「そうですね。一応学園内では地下十階までの情報はありますから、必要なアイテムの用意を義務付けられましたが、1日でまさかでした」


 二人とも地下六階とはうって変わって俺から距離をとる。


 うん。わかるよ。


 暑いんだよね。


 君たちちびっ子はガリガリで涼しいだろうからね。

 俺は羽がモフモフだから暑いんだよ。

 しかも、耐熱シートを着たことで、さらに暑い。


「ニャニャニャン♪」


 逆に超元気な奴がいるな。


 二足歩行で歩くシルは、地面との設置面積が少ない上に、耐熱シートで作られたブーツとカッパをオシャレに着こなしてやがる。


 どこかで気品のようなものを感じるのは気のせいだろうか?


「ピ〜ヨ〜」


 俺はさっきと変わって物凄く辛い。

 自分の体がこんなにも暑さに弱いとは思わなかった。


「ピリカ、大丈夫? ピリカは暑いのが弱いんだね」


 アシェが心配して問いかけてくれるが、意識が朦朧とするので早く抜けてしまいたい。寒い後の暑いは余計に堪える。


「ニャオ」


 『ここは任せるニャ』

 『ああ、頼むピ』


 俺はアシェに手を引かれて、溶岩を避けて熱せられた地面を歩いていく。

 途中で、溶岩の中からゴーレムが出てきたが、所詮は初心者用のダンジョンなので、ゴーレムはそこまで強くない。


 風の魔法で一撃で瞬殺する。


 その時に俺は気づいた。


 風を纏うと暑さがマシだ!


 全身に風を纏って常に風を循環させる。

 最初は熱風がやってくるが、次第に暑い熱は上に舞い上がり、先ほどまでの暑さがマシになる。


「うわ〜ピリカが風を纏ってる!」

「凄いです! 高レベルの魔法ですよ!」


 どうやら魔法の技術として存在するようだ。


『ズルイニャ! 私にもして欲しいニャ』

『ムリピ! 自分で制御するのも難しいピ』


 俺はなんとか、溶岩エリアを抜けて、地下八階に向かうことができた。

 暑いのだけは本当に苦手だ。


「地下八階は、ゴーレムとサラマンダーの二種類が出てくるから、気をつけようね」


 うむ、ここで初めて別の種族が出て来るのか、ゴーレムを攻略できてもダメということを示したかったのかな?


「サラマンダーは火を吹くことができる魔物だからね。ピリカは熱いのが苦手だから気をつけてね」


 いや、別に炎が苦手なんじゃなくて、環境的な暑さが苦手なだけだぞ。

 だけど、羽が焼けるのは嫌だなぁ〜。


「ニャオ!」


 シルの鳴き声で、前方を見れば、真っ赤なワニがいた。

 イメージはトカゲだったが、どう見てもワニだな。

 サラマンダーもドラゴン種に属しているので能力値は高い。


「ピヨ!」


 それでも先ほどの暑さに比べれば、ただの洞窟は涼しくて快適だ。


 状態異常は、サラマンダーの炎で熱せられる環境を指しているのだろうが、溶岩でエリア全体が燃えている方が俺にも辛い。


「うわ〜。さっきの鬱憤うっぷんを晴らすようにピリカが荒ぶってるよ」

「ピリカちゃんは暑いと怒るのですね」


 サラマンダーを蹴散らして、ついでにやってきたゴーレムを叩く。

 ゴーレムのレベルも上がっているが、そのおかげで俺たちの経験値も増えて、いくつかレベルを上げることができた。


 一年間、頑張っても上がらなかったレベルが少しだけ上昇したな。


 もう少しで進化ができそうだが、流石にゴーレムのダンジョンだけでは厳しそうだ。


「二人ともゴーレムもサラマンダーも全然問題ないね」

「ですね。見た目は可愛いのに凄く強くて不思議です」


 シルは爪の斬撃と光のレーザーを駆使して、敵を遠距離や中距離から倒す方法を編み出した。近距離に近づかれても柔軟な体と素早い動きで、すぐに距離をとる。


 随分と自分の戦い方が確立されてきたな。


「ピリカちゃんは、獅子奮迅の働きです」

「うん。私もピリカがこんなに強いって知らなかったよ」

「ニャオ!」


 俺は近距離なら嘴と鉤爪。中距離なら風の刃。遠距離ならスナイパーとして、どの距離でも戦える術を身につけて、インファイトと風を使った戦い方が板についてきた。


 なぜかシルが自慢げに胸を張っている意味がわからない。


「サクサク進んでいよいよ地下九階だね」

「はい! 地下九階と地下十階は砂漠地帯で、大量のサンドゴーレムに襲われるから気を引きめましょう」


 どうやら地下九階からは、また暑い環境になるようだ。

 砂も嫌だし、暑いのも嫌だ。


「来たよ!」


 アシェの声で、これまでのゴーレムとは明らかに違う。

 デカくて遅いゴーレムではなく、小さくて早いゴーレムがこちらに迫ってくる。


「ピヨ!」

「ニャニャ!!!」

「凄く数が多いですね!」

「うん。だけど、ここを越えなきゃ地下十階に行けないんだ。ピリカ、行ける?」


 ふん、主人に聞かれていけないとは言えないとはな。


「ピヨ!」


 任せておけよ主人様。


 俺がなんとかしてやるよ!

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