第31話 冒険は急に 2
地下六階は、新人サモナーにとっては未知の領域に入る。
地下五階が、魔法を反射するというゴーレムが配置されていて、新人は魔法を反射された際に対処ができないためだ。
「なんだか冒険らしくなってきたね」
「ええ。二人とも凄すぎて驚きです」
俺とシルが反射の魔法に対処したことで、二人を驚かせてしまったようだ。
「だけど、地下六階は環境変化が加わるんだよね?」
「はい。そのための装備をしないといけません」
二人は制服の後ろに背負ったリュックから服を取り出して着込んでいく。
「ピヨ?」
「ピリカのモフモフな羽が羨ましいよ。次の階からは凄く寒くなる氷のエリアなんだ」
アシェの説明を聞いて階段を下っていくと、一面銀世界の雪が積もっていた。
「ニャオ!」
シルは冷たいのが苦手な様子で地下六階に足を下ろした瞬間に階段に戻って行った。
「シルちゃん。寒いのは苦手ですか?」
ブルブルと震えるシルに対して、オリヴィアちゃんが心配そうな声を出す。
俺も足は寒いが、耐えられない程じゃない。
「まぁまぁ、これはお靴をご用意しないといけませんね」
オリヴィアちゃんが心配そうにシルの準備不足を嘆いていた。
今日の冒険は終わりと思っていると、シルの瞳がキラリと光って跳んだ。
「ピヨ?」
「ニャオ!」
背中に重みを感じて首を回せば、シルが俺の背中に乗っていた。
『何をしているピ?』
『寒いニャ! 寒いのはムリニャ! だけど、 オリヴィアをガッカリさせたくないニャ!』
ハァー、アシェをガッカリさせたくないという気持ちは理解できてしまう。
つくづく、召喚獣として生きるサガとでも言えば良いのか、本能が訴えているのだ。期待に応えたいと。
『仕方ないピ』
『ありがとニャ』
シルが俺の背中でしがみつくように抱きついてくる。
不意に、視線を感じてアシェとオリヴィアちゃんを見れば、二人がニヤニヤした顔でこちらをみていた。
「良いでわ〜良いですわ〜」
「うんうん。オリヴィアちゃんわかるよ! モフモフとフワフワの共演だよ。どっちも可愛いし綺麗だからもう幸せしかないよ」
何やら嬉しそうにしているから良いのだろう。
それにしても雪が降り積もり景色は綺麗だが、俺とシルの攻撃手段ではあまり突破しやすい場所とは言えないな。
「ピヨピヨ」
ここで帰るのもありだと思うぞ。
「帰ったほうが良いって? うーん、確かに難しいけど、危険だったら帰るのもありだね。だけど、ピリカ。冒険は危険がつきものなんだよ!」
「ピヨ」
「だからね。まずはチャレンジしてみよ!」
アシェが意外にチャレンジャーなことに驚いてしまうぞ。
だが、それも良い。
アシェが行きたいというのであれば、俺は付き合うだけだ。
「冒険家なアシェちゃんカッコいいです!!!
オリヴィアちゃんはアシェの信者のようだな。
親友とはこういうものなのかな?
『温かいニャ』
シルは人の羽毛に包まれて気持ちよさそうにしている。
うん。大丈夫か心配になるが、俺がしっかりするしかないな。
足元は凍っているわけではなくて、雪が積もっているだけなので、転ばないように気をつけながら、進んでいく。
ただ、寒いからか、アシェもオリヴィアちゃんも俺の近くに集まっている。
「ピリカって体温高いね」
「そうですね。マルマルモフモフだからでしょうか?」
まるで俺が太っているようにいうのはやめてほしい。
別にこの体型は太っているのではなくてデフォルトであって、むしろ筋肉質な素晴らしい体なのだ。
「ピリカは出会った時からあまり大きさは変わってないかな? 羽の色は黄色かったけど、真っ黒に染まっちゃった」
「そうだったんですね。最初からモフモフでこんなにも可愛らしいなんて最高ですね。シルちゃんも気持ちよさそうに寝ていますわ」
三人にひっつかれながらなんとか進んで行くと、真っ白なゴーレムが立ち上がる。
五階層で魔法反射をしてきたことを思えば、魔法を使うわけにはいかない。
「ピリカ、いける?」
「ピヨ!」
なぜか、シルを騎乗させたまま俺たちは戦い始める。
動きたくないシルは、俺の上で爪の斬撃を飛ばした。
『そんなことできたのかピ?』
『今できるようになったニャ。私は今日からヒヨコライダーニャ』
うん。何を言っているのか知らないが雪が積もっているエリアを抜けるまでは退くつもりないだろうからもういいよ。
「凄いのです! シルちゃんの爪で一撃なのです」
「本当だ! ピリカが乗せてあげて、シルちゃんが倒すで、突破できそうな気がしてきたね」
すぐに俺に抱きつく二人と共に寄り添いあって、俺たちは地下六階層を走破することができた。
「本当に二人といればゴーレムのダンジョン攻略できちゃうかも」
「そうなったら凄いのです! 1日目で地下七階だけでも凄いのに!」
二人が興奮しているが、俺としてはあまり気乗りしない。
第一に彼女たちの安全こそが大事なのだ。
『もう寒くないピ』
『楽ちんでよかったニャ。疲れたらまた頼むニャ』
こいつは味を占めたようだが、まぁ戦い方としては俺も楽だったのでありかもしれないな。
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