第30話 冒険は急に 1

 一年はあっという間に過ぎ去ってしまうものだ。

 

 ダークなヒヨコとして学園に召喚されてしまったことで、ダンジョンでレベルを上げていたが、流石に一年では進化できるだけのレベルを上げることはできなかった。


 だが、やっとアシェが共にダンジョンに入れるようになった。


「ピリカ、やっとだね」


 学園が提供した戦闘用の制服に身を包んだアシェが俺の前に立つ。


 黄色い戦闘服は、ヒヨコだった頃の俺を表しているようだ。

 だが、アシェの元気な姿に似合っていて可愛い。


「アシェちゃん! とても素敵です!」


 すっかりアシェと親友になった、オリヴィアちゃんはデザインは同じだが、シルバーの戦闘服をきて、シルと並んでいる。


「オリヴィアちゃんもカッコいいよ」

「ふふ、ありがとうございます。一年間の基礎授業お疲れ様でした」

「うん。これからは午前中だけになるから、ピリカとダンジョンに行けるよ〜」

「私もシルちゃん一緒に戦えるのが楽しみです」


 アシェたちは一緒に来ると足手纏いになるのではないか? そう思っていた頃もあったが、一年間の共同訓練でそうではないことを知ることになる。


 まず、召喚者が側にいるだけで、俺たち召喚獣の力を強化できるのだ。


「ピリカは攻撃も魔法もどっちも使えるんだね」

「シルちゃんもですが、速度や攻撃手段が違うので、それぞれの特性を知る時間はとても楽しかったです」


 一年生の後半からは、訓練所で一緒に特訓する時間も設けられるようになって、召喚者の指示に従って戦うという訓練をした。


 今までは自分で考えて、自分の思う通りに戦いをしてきたが、俺が戦っている姿を第三者の目で指示をくれるというだけで、戦う視界が広くなって自分では気付けないことまで気づけるようになる。


「さぁ、訓練は昨日までで終わり。今日からは一緒に行くからね」

「ピヨ」


 俺とシルは、二人でゴーレムダンジョンの五階層まで降りることができた。

 だが、一年かけてもそれ以上はいけなかった。


 それはなぜか? 戦いにおいて相性はあるが、五階層のゴーレムが魔法を全て跳ね返すゴーレムだったために決定打を失ってしまったのだ。


 四階層のゴーレムでは経験値が少なくレベルはゆっくりしか上がらなくなり、次第に午後はアシェたちの訓練に付き合うようになって経験値稼ぎができなくなってしまった。


 だけど、今日からはそれも再開される。


「ゴーレムのダンジョンで魔石を回収したら、お小遣いももらえるんだよね?」

「そうですね。二年生の終わりには旅にも出る準備をしますので、そのための資金集めをしなくてはいけません。一年間で上級ダンジョンを攻略できればいいですが、それが叶わなくてもそれなりの資金は貯められると思いますよ」


 オリヴィアちゃんはご両親が貴族なので、支度金などは用意してもらえるだろうが、田舎に住んでいるアシェは親父さんに迷惑をかけたくないと思っているはずだ。


「ピヨピヨ!」

「ピリカも気合いが入ってるね! うん。頑張ろう」

「ふふ、お二人とも仲良しですね。シルちゃん。私たちも頑張りましょうね」

「ニャオ」


 個人でダンジョンに挑戦する者たちも多いが、アシェとオリヴィアちゃんのようにチームやパーティーを組んでダンジョンに潜る生徒たちも多い。


 ソードサーペントを連れていた少年の元には大勢の同級生が教え切れないほど押し寄せていた。


 しかし、強い魔物と一緒に行動してしまうと危険は少なくなるが、自分の成長は遅くなってしまう。


「どこまで潜れるのか、まずはお試しだね」

「はい。そうですね」

「ピリカたちだけで、どこまで行けるのか教えてくれる」

「ピヨ!」


 俺たちがダンジョンに入っているのは、アシェに報告がいくので知られている。

 だが、俺たちが魔石を持ち帰ることは禁止されているので、今までアシェの稼ぎをさせてやれなくて悲しく思う。


「うわ〜ピリカもシルちゃんも強いね」

「そうですね。訓練の時にも二人は魔法と物理で他の魔物を圧倒していたのを知っていましたが、ここまでとは思いませんでした」


 俺たちはいつも通り連携して地下三階まで一気に降りていく。

 アシェがいるおかげで、いつもよりも体が軽くて、力も強くなっている。

 何よりもアシェを守らなければいいけないという思いが俺を強くする。


 どうやらこれは恩恵の影響もあるのだろう。


 アシェを残して死ねない。


 そう思うだけで、俺はどんどん強くなれる。


「ピリカちゃんは鬼気迫ると言いますか、凛々しいですね」

「うん。私もあんなピリカは初めて見るよ。ううん。そういえば一度だけ私が森で遭難してピリカを呼んだ時に、あの姿を見たかもしれない。そうか、ピリカは実戦では凄く頑張る子なんだね」


 アシェの言葉に、俺は胸を張りたくなる。


「ピーーーーー!!!」


 君を守るために俺は強くなる。

 だから、君といるだけで、こんなにも俺は強いんだ!!!

 

 俺自身も知らなかったが、アシェを守る時の俺が一番強い。


 地下五階の魔法を反射するゴーレムも、強化された嘴で貫くことができた。

 それはシルも同じで、爪でゴーレムを切り裂いた。


 俺たちは久しぶりにレベルアップをした。


「ええええ!!! 先生が、最初はゴーレムのダンジョン三階まで行ければスゴイって言ってたけど、ピリカとシルちゃんで地下六階まで来れたよ」

「はい! どうやら凄いことが起きているようです」


 俺たちはサモナーに良いところを見せようと頑張った。

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