サモナー学園

第27話 サモナー学園

 入学式は、たくさんの魔物たちが集まっているのに、喧嘩もしないで大人しくしている。

 それも全ては学園長が従えるドラゴンの睨みによるものだろう。


 真っ青な鱗に、手足のある典型的なドラゴンだ。

 だが、その威圧は進化した俺であっても冷や汗が出るほどだ。

 いや、むしろ強くなったからこそ、その先が遠いことを思い知らされる。


 いったいどれだけ進化をすれば、あの領域にたどり着けるのだろう。


 ヌードデバラットは、多分俺やシルよりも一段階進化した存在だった。

 ステータス的には防御力や魔法防御力が低く、攻撃力や速度を重視した相手だったから倒す手立てがあった。


 だが、地龍が元気な時に相手をしていたら勝てたかと聞かれればかなり厳しい。


 そして、そんな地龍が弱小に思えるほどに学園長の後で蜷局を巻いて眠りについているドラゴンは異常な威圧を放っている。


《神の声》さん。あれの危険度を教えてもらえますか?


『注意、危険度を探ろうとすると、向こうに悟られます。オススメしません」


 ぐっ! まさか、《神の声》さんを察知できる化け物がいるのか! スキルとして使用してもわからないと思っていたぞ。


『看破や、妨害といった対抗手段が存在します。現在、マスターはどちらも所持しておらず、敵にステータスが公開されております』


 なっ! それはどうにか妨害を習得できないのか?


『経験値が不足しています。相手のレベルが高すぎるため、こちらの妨害は無効化されます』


 どっちみちダメじゃん。


「ピリカ、もう少しだから大人しくしててね。もしかしてトイレに行きたい?」


 俺が焦って体をゆすっていたら、アシェにトイレに行きたいと勘違いされてしまった。


「以上で、本年度の入学式を終える。皆よ。魔物と仲良くなりなさい」


 様々な説明を終えて、学園長の言葉で締めくくられた。


「さぁ、私たちの部屋に行こうね」

「ふふ、アシェちゃんはそれが見せたかったんですよね」

「そうだよ! ピリカ楽しみにしててね」

「ピヨ?」


 何をそんなに嬉しそうにしているのだろう? それに今日は何もしていないのに召喚されている時間も長いな。


「ジャジャン!」


 アシェに連れられてサモナーたちが住んでいる寮へと案内される。

 一応女子と男子で分かれているようだが、7歳〜9歳の子供たちが入居する場所なので、それほど男女を分ける必要があるのかと思ってしまう。


 だが、寮の部屋に入って考え方を変える。


「ピヨっ!」


 部屋の中が広い。

 しかも二つの部屋が繋がっていて、一つはアシェが勉強をするための机とベッドが置かれていて、もう一つの部屋には鳥の巣を模した草が敷き詰められていた。


「ピヨ?」

「実はサモナー学園ではね。学園全体に魔力が溢れているんだよ。だから、私の魔力が枯渇することなくピリカを継続的に召喚してられるんだ」


 ほう! そんな凄いことができるのか?


「本来、召喚獣は元いた場所に戻るでしょ? それは危険な場所が多いから、召喚獣を呼んでも死んでしまって、来てくれないことがあるんだって。そんな悲しいことが起きないように、寝床を用意して安全を確保してあげるのもサモナーの仕事なんだよ」


 そうだったのか。

 アシェは魔力を強化して俺を長く召喚するトレーニングをしているんだと思っていたが、実は俺の安全な寝床を提供するために頑張ってくれていたのか。


「ふふ、だから今日からはモフモフなピリカと毎日一緒にいられるんだ。だけど、任務で外に出るようになったら、私の魔力が切れでピリカは元の場所に戻ってしまうこともあるから、完全ではないんだけど」


 なるほどな。学園内にいれば安全に過ごせるが、そこから離れると森に戻るのか。


 アシェの元で寝起きができるのは精神的には安心だ。

 丁度、森の方で巣を失ったところだったからな。


「それと、学園には魔物に食料も提供できように魔物食堂もあるんだ」


 それは楽しみだな。ピンクミミズは美味だ。

 軍隊アントも甘みがあった。

 ヌードデバラットは肉として臭みがあって、俺は苦手だった。


「ジャーン! パンの屑と野菜の屑だよ。鳥系の魔物さんは栄養満点の食事だからね。いっぱい食べてね」


 ふむ。パンとは久しぶりだな。

 それにこっちにきてから魔物ばかり食べていたから、野菜も初めてだ。


 どれどれ?


 嘴で突いて口の中に放り込めば、うん。


 あれだな。モサモサして味付けなし。


 つまり、不味い。


 栄養はあるのかもしれないが、魔物を食べて満足した体にはこれは辛い。


「ピヨ」

「えっ? ダメ? 不味いの?」

「ピヨピヨ」

「そっか〜。うん。確かに見た目も悪いからね。ピリカの好みもあるよね」


 好み云々なのだろうか? 味がないモサモサした野菜は二度と食べたくない。


「わかったよ。他に鳥系魔物で食べれそうな物をもらってくるね」


 俺はアシェが用意してくれた巣に入ってみる。

 草が敷き詰められた寝床は悪くない。

 部屋なので、雨風もなければ草も柔らかくて暖かい。


 それに一口藁を食べると美味い。


 これには魔力が含まれているんじゃないだろうか?

 魔物を食べていて、思ったが奴らは確かに美味い。


 だけど、ただ美味いだけじゃなくてそれぞれに味わいがあった。


 その味とは、もしかしたら魔力の質によって違うのかもしれないな。

 これから色々と検証の必要があるが、アシェの元で試してみよう。


 久しぶりにゆっくり安心して眠ることができそうだ。


 目を閉じて、進化から、ヌードデバラットの死闘まで色々と疲れていたことを思い出して眠りについた。

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