第21話 将を射るには……

 レベルアップをするのはいいが、ヌードデバラットの攻略も、ハングリースパイダーの攻略も上手くいっていない。


 困ってどうしたものかと考えていると、アシェからの呼び出しを受けた。


『ちょっと言ってくるピ』

『私も呼ばれるかもしれないから、今日は休息日にするニャ』

『ああ、そうしてくれピ』


 魔法陣を潜った先にはアシェが難しい顔をして立っていた。


「ピヨ?」

「ピリカ〜どうしよう?」


 うん? 俺はヒヨコで合って、猫型ロボットではない。

 困ったことがあったからと呼び出されても困る。


「ピヨ?」

「あのね。あの木の上に猫が登っちゃったの。小さい子だから降りれないみたいなの。だけど、木が細くて私たちも登ることができなくて」


 アシェの隣にはオリヴィアちゃんがいて、心配そうに木の上を見上げている。

 うむ。木は簡単に折れてしまいそう。

 だからといって飛び降りろと言われても、子猫が素直に降りてはくれないだろう。


「ピヨ!」


 呼びかけてみるが、どうやら足がすくんで猫は降りれないようだ。

 ふむ、いけるか?


「ピヨピヨ」

「えっ? 離れていろって?」

「ピヨ!」

「オリヴィアちゃん。ピリカに考えがあるみたい」

「ピリカさん! ありがとうございます! シルちゃんを呼んだ方が身軽かもしれないのですが、ワタクシは魔力が切れてしまっていて」


 ふむ。どうやら知るの手助けは期待できないようだ。


 ならば、やるか。


「えっ? 風の魔法使うの?」

「何をするのでしょうか?」


 俺はそのまま、細い木を風魔法で横一文字に切り捨てた。

 木はゆっくりと切られたところから重みで倒れ始めて子猫が慌てたようにバタバタと動き始める。


 俺は子猫の動きを観察して、飛び出したところで着地点で身を構える。


 モフモフボディーを発動!


「ニャオ!」


 俺のモフモフボディーに着地して猫が驚いた顔を見せる。


「うわ〜! ピリカ、スゴイスゴイ!」

「本当に凄いです。早業でしたね。風で木を切って観察しながら猫をキャッチしてしまった。もしもキャッチできなくても、そのモフモフ姿ならクッションとしても完璧です。いっ、家に連れて帰りたい」

「ダメだよ。オリヴィアちゃん! ピリカは私のパートナーなんだからね! オリヴィアちゃんにはシルちゃんがいるでしょ」

「はい。そうでした。シルちゃんともたくさん会えるように頑張らなくては」


 二人が嬉しそうに助けた猫を抱いて喜んでいる。

 ふむ。上手く言ってよかった。


 猫を退治するのではなく、木を切り倒して救出するか……。


 自分なりに考えついたことだが、意外にこれは使えるかもしれない。


「おい、そこの君」

「はい?」


 喜ぶ二人の下に白い服を着た男性が近づいてきた。

 俺はこいつをどこかで見たことがある。


「少し聞きたいのだが」

「はい。なんでしょうか?」

「そこにいるのはスーパーなヒヨコだよな?」

「ええ。そうですよ」

「きっ、君の召喚獣なのかね?」

「はい。ピリカっていうんです」


 アシェが俺に抱きついてくる。


「うっうむ。一つ聞きたい。君の召喚獣を売る気はないか?」

「はい? 召喚獣を売る?」

「そうだ。召喚獣は、死ねば次の魔物と召喚が可能だ。いや、世の中には多数の召喚獣を従えているものもいる。だから、召喚獣の一匹ぐらい手放してもどうということはないだろう」

「何を言っているんですか! ピリカは私にとって大切な売るなんて考えたこともありません! 失礼なオジサンですね! オリヴィアちゃん、ピリカ、行くよ」


 アシェに手を引かれてオリヴィアちゃんと共に歩き出す。

 

 白服の男は追いかけてくることはなかったが、こちらをジッとみて何かぶつぶつと呟いているようだった。


「なんなのあの変な人」

「ワタクシも噂でしか聞いたことがないのですが、美食家集団王者格闘シャフ(king fighting chef)団、略してKFC団という組織がいるそうなのです」

「KFC団?」

「はい。彼らは魔物の肉を使った料理を調理して提供しているそうです。もしかしたらピリカさんのことを狙っているのかもしれません」

「む〜!!! そんなこと絶対にさせないんだから! ピリカは食べ物じゃないよ。私のパートナーなんだから!」

「ええ。ですが、声をかけてきたということは気にしているのかもしれません。十分に注意してくださいね」


 なるほど、スーパーなヒヨコの見た目をしているが、ハイパーなヒヨコである俺のモフモフボディーの旨みを知っている者ということか、確かにこれは警戒していた方がいいかもしれないな。


 アシェが誘拐されたら、俺はこの身を差し出すかもしれん。


「ピリカ! あなたは私が守るからね」


 そう言ってアシェが俺を抱きしめてモフモフボディーに顔を埋める。

 俺も彼女と離れたくないな。

 

 やっぱり強くなるのは早急に行わなければいけないようだ。


「ピリカ、私も強くなるからね。だから一緒に頑張ろう!」

「ピヨ!」


 俺は元の場所に戻って、シルに召喚後の話を伝えた。


『なるほどニャ。KFC団、気をつけた方が良さそうだニャ』

『それとハングリースパイダーの倒し方を思いついたピ』

『私もニャ!』


 どうやら俺たちは同じ結論に至ったようだ。

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