第17話 環境変化

 シルが召喚獣になったことで、俺たちの目標は決まった。マスターを守るためにもっと強くなる。


 そのためにも狩りを効率的にする必要がある。

 ありがたいことに虫と獣が溢れている森の中は俺たちの狩場に相応しい。


「ニャオ!」


 シルの声がして、追い立てられた巨大な猪の魔物がこちらに走ってきた。


「ピー!!!」


 かかってこいやー!


 三メートルはありそうな猪を正面から迎え討つ。


 風の弾丸が猪の眉間を貫いて、倒れる猪の突進を躱わして決着をつける。


「ピヨ!」


 一発だな。


「ニャオ!」


 俺たちは順番交代で、敵を討伐するようにした。

 一人が魔物を追い立てて、もう一人がトドメを刺す。


「ピヨピヨ!」


 行ったぞ〜!


「ニャオーン!」


 地龍と女王蟻を倒したことでレベルが上がって、俺たちの強くなった。

 森の中にいる普通の魔物なら、負けない程度には強い。


『結構倒したピ』

『乱獲はいけないニャ』

『ピ〜、弱い魔物じゃなくて、やっぱり格上を倒さないとレベルの上がりが悪いピ』


 蟻塚をゆっくりと攻略できていれば、レベル上げにも丁度よかった。

 だが、女王蟻を倒したことで兵隊蟻たちもどこかに行ってしまった。


 地龍のようなイレギュラーが、毎回来られても困るが、あれクラスをもう一度倒せれたら一気に進化までレベルを上げることができるんだけどな。


『少し離れた場所にネズミの巣穴を見つけたニャ』

『ネズミピ?』

『そうニャ。ネズミは蟻やゴブリンと同じで集団で行動して進化もするニャ』


 確かに集団で倒す方がレベルを上げる効率はいい。

 それに進化した魔物がいるなら、強い奴にも出会えるか? 強いやつに会いにいく。


『ここから遠いのかピ?』

『ピリカに会う前に見つけたニャ』


 出会う前の話ってことは、かなり遠くまで遠征が必要になるな。


『わかったっピ。途中で魔法陣が出たら、その近くで待機するピ』

『わかったニャ』


 俺たちは念話のお陰で話ができる。


 アシェはこれまで、俺を四度しか召喚していない。

 多分だが、召喚させるためには相当な集中力がいるんじゃないだろうか? しかも召喚した後も魔力を消費するとなれば人間側の負担が大きい。


 だが、シルのマスターは小まめにシルを呼ぶので、一度目の召喚から十回ほど呼ばれていた。


 そして、これは二つの魔法陣を見たからこそわかったが、自分が呼ばれている魔法陣は判別できた。


 つまり、アシェが呼んでいると感じるように。 

 シルの魔法陣からは、何も呼ばれている気がしない。

 そういう相手とこちらの波長を合わせるような感覚が魔法陣には存在するようだ。


 俺たちは火の鳥カーチャンが作り上げてくれた拠点を手放して、獣が多く棲息する森へと足を踏み入れた。 

 

 シルを細かく呼び出すマスターは女の子で、シルの美しさに惚れているそうだ。

 そのため呼ぶたびに綺麗にブラッシングをしてくれて、この世界の話をしてくれる。さらに、家は豪華で毎回呼ばれるたびに美味しいご飯も食べさせてくれるので、多分だがお貴族様かお金持ちの家なのだろう。


 そう思えばアシェの家は父親と二人で辺境の村に住んでいた。


 王都の景色は豪華で、村とは明らかに違う発展の仕方をしていた。

 どうやらこの世界にも格差という概念は存在するようだ。


「ピーヨ」


 サーチのスキルは、風魔法の弾丸を打つ際に覚えたスキルだが、これが便利に使えることは魔物の探索を始めてから知ることになった。

 まず、遠くの敵を認識することが簡単になり、風魔法と応用すると風を生み出した範囲のみ魔法で魔物の位置を特定できるようになった。


 範囲はそれほど広くないが、十分に役に立つ魔法だ。


『近くまできたニャ』


 巣を離れて二日ほど移動したところで、シルが場所を特定できたそうだ。

 森の景色は、どこも木々が生い茂っていて場所が分かりにくい。

 そこでサーチで魔物を探索しながら、水場を確認して移動をしてきた。

 

 魔物として生きていくためにはサバイバル術は必須条件だ。


「ピヨ?」


 どこだと身を乗り出したところで、巨大な穴が開いているのが見えた。

 それは渓谷かと誤認するほど大きく。

 タワーマンションが土を掘って地面に作り出されたような光景だった。


 穴を除けば、大量のネズミが螺旋状に掘られた土の中を行き来して動き回っている。


 その光景は、蟻塚を作っていた軍隊アントよりも遥に多くて圧倒される。


『これは凄いピ』

『前に見た時よりも大きくなっているニャ。前はここまで大きくなかったニャ』


 どうやらシルも俺と同じように圧倒されているようだ。

 それも仕方ないだろう。


 これだけの規模を二人で相手にするのか? 一体一体なら問題なく倒せるだろう。

 だが、これだけ多くのネズミに一気に襲われたらひとたまりもない。


『本当にやるニャ?』

『正面からぶつかるのは、得策じゃないピ。方法を考えた方が良さそうピ』

『同意するニャ』


 俺たちは一旦その場を離れて拠点作りをすることにした。


 火の鳥カーチャンの巣から離れた以上は安全に休める場所を近くに確保したい。


 だが、穴を探してそれがネズミの巣穴に繋がっていることは怖いので大きな木を探して、その上に巣を作ることにした。


 だが、俺たちが巨大な木の上にシルの魔法で上がるとそこには先約がいた。


『蜘蛛ニャ』

『デカいピ』


 巨大な蜘蛛の巣があり、巨大な木を縄張りにしていたようだ。

 

 地にはネズミの巣穴。

 上空には蜘蛛の巣。


 どこも一筋縄では、行かないのがこの森だと再認識させられる。

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