第16話 新たな生活のスタート
元の場所に帰ると地龍も女王蟻もいなくなっていた。
あれだけ大きな物がなくなるって、相変わらずここの森は油断できないな。
俺は蟻塚から巣へと戻ると、巣から俺を引き上げてくれる感覚がある。
『おかえりニャ』
『ただいまピ』
巣には大量の食料が積まれていた。
『これはどうしたピ?』
『あっちは女王蟻から取れた蜜を集めておいたニャ、あなたのご飯ニャ』
なんだろう。銀猫が優秀すぎる。
『あの肉は地龍ピ?』
『そうにゃ。私のゴハンニャ』
俺がいなかった1日の間に銀猫は重力魔法を使って、地龍の肉と女王蟻の蜜を集めてくれていたようだ。頭が下がるな。
『ありがとうピ』
『べつにイイニャ。あなたがくれた物ニャ』
『そう言ってもらえると嬉しいピ、これだけあれば、当分食料には困らないピ』
これだけあれば、俺がアシェの元へ呼び出されても銀猫は困ることなく食事ができるな。少しだけ安心できた。
『それと話があるニャ』
『うん? どうしたピ?』
『私も呼ばれたニャ』
『呼ばれたピ?』
『そうニャ。あなたが魔法陣に消えた後に、私の前にも魔法陣が現れたニャ』
えっ? つまり銀猫も魔法陣に入っていったのか? つまり同じ召喚獣になった?
『それはおめでとうピ』
『そうニャ。私のご主人様は優しい子だったニャ。だから、契約してやったニャ』
『そうかピ。よかったピ。それなら安心して伝えることができるピ』
『何かあったかニャ?』
俺はアシェから聞いた学校に通う話を銀猫へ伝えた。
どうやら人間の世界では、サモナーとして召喚獣と共に成長するのが当たり前であり、7歳〜9歳の間に召喚を成功させて学校へ行くための切符を手に入れるそうだ。
他にも四聖獣の話や、今度は銀猫も召喚獣として同じようなところに行くことなるなどの話もした。
『なるほどニャ。色々とこの世界のことについて知れたニャ、いい情報ニャ』
『そうだピ。それと契約の時に名前を授かったはずだっピ。今までちゃんと名乗っていなかったっピ。俺はピリカっていうピ』
『ピリカ、ニャ? 随分と可愛い名前ニャ』
『マスターのアシェがつけてくれた名前ピ』
今まで互いの呼び方は適当だった。
だが、これからは名前で呼び合うのもありだな。
『私はシルって名前をもらったニャ』
『シルか、いい名前だピ』
『気に入っているニャ』
俺たちは出会ってから一ヶ月も経っていない。
だけど、お互いの名前を名乗りあって、初めてちゃんとした関係を結んだ気がする。
『それにしても呼び出されたのに、荷物も運んでもらって悪かったっピ』
『私のご主人様は、まだ魔力があまりないニャ。長くは呼べないと言っていたニャ。ピリカのご主人様は長い時間も呼び出せるから凄いニャ』
アシェが褒められると何故か嬉しい気持ちになる。
パートナーとして自分自身で認めつつあるかも知れないな。
『シルのご主人様もこれから頑張れば強くなれるピ。一緒にマスターを守ってやるピ』
『そうニャ。可愛いあの子を守ってやるニャ』
『そのためにも俺たちが強くなる必要があるピ』
『わかっているニャ。ピリカが強くなろうとしていた気持ちがわかったニャ』
シルはもマスターと出会ったことで、気持ちを切り替えたのかも知れないな。
俺も自分では不思議だが、誰かのために強くなりたいと思えば、やる気が湧いてくる。
『だけど、今日は色々とあって疲れたニャ』
『そうピね。地龍の討伐から魔法召喚だったピ。休む暇がなかったっピ』
俺は仰向けになって横になる。
丸い体は仰向けか、うつ伏せにならないと寝にくい。
横を向くと羽が痛い。
巣の中で丸くなるシルがジリジリとにじりよってきて、俺と寄り添うように眠りについた。
俺たちは召喚獣になって、一緒に支え会える気持ちも同じになった。
♢
それから、たまに魔法陣が現れるようになって森ではない場所に向かうことが増えた。アシェは俺に多くの物を見せてくれようとしている。
馬車から見た発展した都市はすごかった。
十メートルもあった地龍がよじ登ることができないほどに大きな壁が聳え立つ街。
大きな建物と、大勢の人々、その横に並ぶ魔物たち。
本当にこの世界は、魔物が支配していて、人と共存して生きているんだ。
「ピリカ、こっちだよ」
そう言ってアシェが俺に首輪をつける。
これが召喚獣としての証になるそうだ。
付けられた時に、今まで以上にアシェとの結びつきを感じた。
付けている感覚がないほどに息苦しさを感じない。
不思議な首輪は魔導具なのだそうだ。
中央についた魔石を鑑定して貰えば、誰の召喚獣なのか認識をしてもらえる。
「ピリカ、ここで待っててね。手続きしてくるか」
「ピヨ!」
アシェがお父さんと学園の手続きに向かう。
「うん? おい、こいつスーパーなヒヨコか?」
「いや、俺の鑑定ではハイパーなヒヨコだぞ」
何か変な白い服を纏った男たちが俺を見て話をしている。
「チェックの必要がありそうだな」
「ああ、我々、王者格闘シャフ(king fighting chef)団に相応しい食材かもしれん」
何やら不穏なことを話している。
奴らがいたので、俺は振り返ってかお見ようとした。
だが、そいつらはそそくさと姿を消してしまう。
「ピリカ、お待たせ。うん? どうかした?」
「ピヨ」
今、アシェに言っても仕方ないな。
それにどうやって伝えればいいのかもわからない。
その後は、父親と別れるのに泣いて疲れたアシェを寮の部屋に連れて行ったりと色々大変だった。
魔力が切れたところで、自然に元の森に戻るまでアシェの寝顔を見て過ごした。
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