第13話 漁夫の利

 丘の上に辿り着いて初めてわかる。


 十メートルの化け物がどれだけ大きいのか! 大体、俺の身長が一メートル五十センチ。銀猫が一メートルほどだ。


 つまり、十倍の大きさをした化け物を相手にしなくちゃならない。


 だけど、鎧武者蟻はこちらから見える範囲の大きさで三メートルほど。

 俺からは倍ほどの大きさだがHPが地龍のブレスで減少して瀕死状態になっている。


 まずは、鎧武者蟻を倒す。


『ここにいてほしいピ』

『危なくなったら助けるニャ!』


 この場所から狙えば、命中精度が悪い。

 だからといって、巻き込まれるほど近づくのも危険だ。


 だから、俺は魔法をイメージする。


 ヒヨコは飛べない! 


 だけど、鳥だ!


 鳥なら風を操って、空を支配するものだろう。


 なら空に属している風を操作できなくてどうする!


「ピー!!!」


 俺は走り出す。


 一気に息を吐いて、一番高い場所へ登って狙いを定める。

 

 イメージするのはスナイパーライフルだ。


 遠くまで風の弾丸を飛ばせるようになりたい。

 まだ使い慣れてもいない。


 だから、今からスナイパーとしての俺を目覚めさせる。


 空の王はどんな場所からでも敵を撃ち抜く力が必要だ。


「ピヨ」


 風よ! 


 翼を広げて、頭上に風の塊を作って、細い筒をイメージする。

 細い筒は長く太く、さらに目の前にターゲットを狙うサーチスコープも用意する。


《新たなスキル、サーチを習得しました》


《神の声》さん。今は集中したいから返事ができなくてごめんね。

だけど、サポートありがとう。


 サーチを使って狙いを定め、たくさん貯めた風の威力を上げていく。


「ピーヨ」


 装填完了。


 サーチスコープの中に鎧武者蟻をおさめる。


 いくぞ。これはチャレンジだ。


「ピッシャ!」


 発射!!!


 魔力は三分の一が持っていかれる。


《風魔法でスキルを発動しました。一撃必中を使います》


「ピーーーーー!!!」


 いっけーーーーーーー!!!!


 俺の魔法が地龍に意識を向けていた鎧武者蟻の頭部を撃ち抜いた。


「ピヨ!」


 よし!


 鎧武者蟻を倒したことでレベルが上がった。

 次の進化ができるほどじゃないが、必殺技と新たなスキルを手に入れた。


 それに全ての能力が上がった。


 女王蟻や、地龍は格上だ。

 普通に弾丸を飛ばしても倒すことはできない。


 鎧武者蟻が死んだことで、女王蟻が地龍に押され始めた。


 だけど、それで簡単にやられてもらっては困る。

 お互いに傷つけあって、ダメージを蓄積させた上に瀕死になったところにトドメを刺したい。


 俺は二発目を装填する。

 風の弾丸の高出力の一撃。


 どこなら地龍にダメージを与えられる? 


 俺が考えを巡らせていると、地龍の背ヒレが光り始める。

 そうか、狙うべき場所は一点、それもチャンスは一度きり……。


 女王蟻が、ブレスを使わせないように攻撃を開始する。

 地龍の体に無数の傷が増えていく。

 

 女王蟻も、それほど余裕がある状態ではないがブレスを打たれれば決着がついてしまう。


 鎧武者蟻の援護が無くなった女王蟻ではトドメを差し切ることができない。


 いくら抑えようとしても、背ビレの光は止まらない。


 次第に光は口へと集まり、捕まえていたはずの女王蟻がブレスから逃げようと距離をとる。


 だが、地龍は容赦なく女王に向けて大きな口を開いた。


「ピーーーーーーーー!!!!!」


 そこだーーーーー!!!


 全部の魔力を一撃に込める。

 

《一撃必中を発動しました》


 先ほどのスナイパーじゃない。

 これは俺が放てる風の大砲だ。


 全魔力を風魔法の弾丸に込めて、地龍の口にぶち込んでやる!


 ブレスを放つために大きく開かれた口の中から脳へかけて、俺は風の弾丸を放った。不意をつかれた地龍の口内を俺の弾丸が撃ち抜いた。


 地龍はダメージを受けて絶命するが、口の中に溜まったブレスが爆発するように女王蟻を巻き込んだ。


「ピーーー!!!」


 助けて〜!!!


『わかっているニャ!』


 魔力を使い果たして動けなくなった俺を銀猫が重力魔法で運んでくれる。


 ブレスの爆発に巻き込まれないほど距離をとった俺たちは爆発が静まるのを待った。重力魔法で動きが速くなっていなければヤバかった。


『無茶をするニャ! 死ぬとこだったニャ!』

『君が助けてくれるって思ったピ』

『む〜!!! 私は怒っているのニャ! そんな言葉で許してやらないニャ!』


 プリプリと文句を言いながらも、俺の体から離れないようにしっかり守ってくれている銀猫はいい奴だ。


 俺たちは、ブレスの爆発が終わった戦場へと戻った。


 そこには瀕死状態でひっくり返る地龍と、地龍のブレスによって半分が燃えた女王蟻が倒れていた。


 どっちも死んでいないのはさすが上位魔物だ。


『女王蟻は君が殺すピ』

『私は何もしてないニャ』

『生きていくために一緒に強くなってほしいピ』

『ニャ〜。わかったにゃ』


 俺は地龍へ近づいていく。

 右の脳が俺の風魔法で貫かれ、口の中が火傷まみれになっても生きている。


「ピヨピヨ」


 お前に恨みはないが、俺の糧になってもらう。


 魔力は切れたけど、突くことはできるからな。


《連続突きを発動しました》


 俺は地龍の柔らかい腹から胸を貫いて、魔石を破壊してやる。


「ギャアオオオオ!!!」


 地龍が断末魔の悲鳴をあげて絶命した。


《レベルアップしました》

《レベルアップしました》

《レベルアップしました》

《ジャイアントキリング達成。レベルアップにボーナスがつきます》

《神の声はレベル3にアップしました》


 地龍を倒したことで、たくさんの恩恵が鳴り響く。

 

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