第11話 猫に懐かれた

 あれから銀猫の奴を世話しながら、数日を過ごした。


 後足を怪我したことは意外に深刻で、重力魔法は使えるので食料と俺を巣に上げ下げすることだけに魔力を使ってもらっている。

 

 それ以外はすっかり巣で寛いで、食料を持ってくるのを待つようになった銀猫は、一週間ほどで足の傷も随分とよくなったようだ。


「ニャーーー」


 伸びをしながら足の踏ん張りが効くのか確認をした銀猫は、徐に巣の外へと飛び出した。


「ピヨ?」


 着地を成功させた銀猫は、そのまま歩いてどこかに消えていった。

 追いかけることもできたが、連日の世話をするために狩りをして、巣まで戻るという作業は何かと疲れた。


 それぞれが縛られた関係ではないこともあり、俺は銀猫を追いかけることなく、食事も終えたばかりなので眠りにつくことした。


 火の鳥カーチャンのおかげで、今でも巣を拠点に活動できていることを感謝したい。ただ、自分一人では戻れないので、この辺りは銀猫の重力魔法がありがたい。


 しばらく目を閉じて眠っていると、違和感に気づいた。


 どうやら俺の上に銀猫が乗って寝ているようだ。


 暖かくはあるが、重い。


 身動きができなくて辛い。


 おいおい、こいつこんなにも密着して寝るやつだったか? ただ、一つだけ気づいた。外から入ってくる風が冷たい。

 

 そうか、気温が下がって寒くなったからくっついているのか? う〜ん、疲れて眠さが勝つ。


 俺はもう一度眠りについた。

 モフモフの自らの毛並みと、銀猫のフワフワな毛並みに包まれて眠るのは暖かい。


 銀猫を包み込むように羽根で抱きしめて寝てしまう。


「ニャウ〜」


 銀猫も羽根に包まれて暖かくなったようだ。


 心地よい眠りが二人を包みこむ


 どれくらい寝ていたのか、わからないが銀猫はずっと俺の上で寝ていたようだ。

 俺をクッションだと思っているんじゃないだろうな?


 まぁ、暖かかったからいいけど。


『おいピ、喉が渇いたから退けるピ」

「ニャオ〜」


 念話で声をかけると、銀猫の方から退いてくれる。

 俺は巣から飛び降りてモフモフボディーを発動しようとしたことで、フワリと体が浮き上がる。


 巣を見れば、銀猫が俺を見下ろしていた。


 妖艶な笑みを浮かべているのが、どうにも身ブルさせられる。


『ありがとうピ』

『ふふ、どういたしましてにゃ〜』


 なんだか楽しそうに笑っている。

 う〜ん、最初のツンツンしていた感じからは、随分とデレたように思うな。


 湖に言って水を飲んで、ふといつもと違う森の感覚を覚える。


「ピヨ?」


 いつもなら水を飲んでいると、軍隊アントやピンクミミズの姿が見えるのだが、全く虫たちの姿が見えない。


 空気が変わったと言えばいいのか、いつもの森とは違う雰囲気に嫌な気分にさせられる。急いで巣に戻っていくと銀猫が巣へと引き上げてくれる。


「ニャオ」


 お帰りなさい。


「ピヨ」


 ちょっと空気がおかしくないか?


「ニャ?」


 銀猫が戸惑う首を傾げたところで……。


 ドン!


 ドドン!!


 ドーンドシーン!!!


 地震かと思うほどの震動によって、巣の中が揺れて二人で巣から下を見下ろせば、巨大な岩が動いていた。


『地龍ニャ』

『地龍ピ?』


 俺が見たことがあるドラゴンは空を飛んでいた。

 だけど、巣から見下ろした森を歩くのは、巨大な岩のような十メートルグラの体をズリズリとゆするように歩いていく姿は、トカゲを思わせる。


『前に見たことがあるニャ。あいつは凄く硬い甲羅を持っているニャ。他の種族を食べて歩いているニャッ!』


 少し離れているのに、ドーン、ドーンと歩くたびに木を薙ぎ倒していくので、目立って仕方ない。


『あいつ! 蟻塚の方に向かっているピ!』

『大きな蟻を食べに来たにゃ!』


 安全な場所である巣にいても、やつの体ならこちらの巣を狙うこともできる大きさだ。そんな地龍が見上げるほどの蟻塚の大きさだったが、蟻塚を地龍が登り始めた。


『外から攻めるピ?』

『ボス女王蟻を狙っているのかニャ?」


 俺たちは完全な傍観者として、軍隊アント対地龍の対決を見つめる。


『軍隊アントが出てきたピ!』


 兵隊アントはすぐにやっつけられて、ジャイアントアントまで地龍の相手にならない。どうなるのかと思えば、色違いの軍隊アントが出てきた。


 本来の軍隊アントは赤っぽい黒い蟻だった。


 だけど、現れたのは真っ赤な蟻が現れた。

 手には武器を持って二足歩行で歩いている。


『うわっ! キモい蟻だピ!』

『上位種ニャ!』


 槍のような武器を使って地龍へ真っ赤なアントが攻撃を開始する。

 これには地龍も痛みを感じのたか、登っていた体が地面に落ちていく。


『倒せそうピ?』

『ダメにゃ! 効いてないニャ!』


 地面に落ちはしたが、どうやら蟻塚の頂上から何かを流して落としただけだった。


 真っ赤なアントの攻撃は効いていない。


『怪獣対決だピ』

『これが当たり前の世の中なのニャ。それでも生き残らないと行けないのにゃ』


 なぜか、銀猫が覚悟を伝えた後に先ほどよりも距離が近くなったような気がするのは気のせいだろうか? とにかく気持ちは同じだ。


 いつかは、王者になるために、軍隊アントでも、地龍でも負けてられねぇ。 


 





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