第10話 蟻塚脱出

 アシェを救うことが出来た俺は安心して、元の場所に戻った。


 戻った先では蟻の大群に囲まれていた。


「ピヨ?」


 傷を負い倒れる銀猫。


『おいピ、どういう状況ピ?』

『ヘマをしたにゃ? 奴らの部屋の中に肉があったにゃ。一つそれをもらったら、急にアントどもに襲われたにゃ』


 食い意地を出して、相手の物を奪おうとした結果、大量の蟻に襲われたというわけか。


『よく逃げずにここに戻ってきたピ』

『逃げようと思ったにゃ。にゃけど、いつ戻るのかわからにゃいから、こんな状態で放置するのは目覚めが悪いにゃ』


 律儀な猫だ。


 数体のジャンボアントが見える。


 普通の軍隊アントだけなら、銀猫で十分に対処はできただろう。

 だけど、数体の進化系アントに囲まれて傷を負ってしまったのだろうな。


『歩けるピ?』

『少しキツイにゃ』


 後ろ足を怪我したことで歩くのが辛くなってしまっている。仕方ない。


『仕方ないピ。乗せてやるピ』

『いいにゃ! だっ、大丈夫にゃ。私を置いていけばいいにゃ』


 アシェに続いて銀猫も助けることになるとは思わなかった。だけど、一人助けるのも二人助けるのも同じような気がする。


『いいから乗るピ』


 嘴で銀猫の首根っこを捕まえて、背中へと放り投げる。器用に前足で着地した銀猫が、背中にしがみつく。


『乱暴にゃ』

『素直じゃないからピ』


 やっと銀猫が乗ったところで、軍隊アントたちがジリジリと近寄ってくる。


 初めて会った時は十体ほどだったが、今はその十倍はいそうだ。


 見える範囲はアリ、アリ、アリ。


 こんなにもアリで埋め尽くされた光景は気持ち悪すぎる。

 巣に入っている罠にハマった哀れな雛鳥ってところだな。


「ピギーーーーー!!!(王者の咆哮)」


 威圧を込めて鳴けば、多少は怯むかと思ったが、どうやらアントたちも数が多いことに強気になっているようだ。


 おうおう、絶対的なピンチじゃねぇか。


「ニャァ〜」


 弱々しく背中でなく銀猫。

 優雅で凛々しいお前が、悲しそうな声出してんじゃねぇよ。


「ピヨ」


 俺に任せろ。


 100体だろうが、1000体だろうが、ヒヨコを舐めてるやつはぶち殺す。


 まずは、銀猫を守るためにモフモフボディー発動。


 銀猫が毛の中に埋もれてしまう。

 だが、それでいい。


 風よ。


 本当は水魔法を大量に出してありどもを外へと押し出すことも考えた。

 だけど、……ヒヨコの姿で泳げるかわからん。


 あれかな? 水の上に浮いてカモみたいに、できるのか? 足をバタバタさせて泳ぐイメージができねぇ!


 だから、風だ。


 元々、最初から風魔法は習得してて、使い慣れている。

 何よりもレベルが2になったから使える魔法が増えた。


 風の刃は、風の弾丸として、小さく、細かく、軍隊アントを撃ち抜いていく。


「ピーーーーー!!!」

 

 どんどん撃ち抜いてやんよ!


 風の刃だと、首や胴体などの関節を狙わないと相手を倒すことが出来なかった。

 だけど、風の弾丸は込める魔力に応じて速度を増していく。


「ピヨピヨピヨ」



 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ。



 魔力が半分を切るまで打ち続けた結果……。


 うん。凄惨な光景が出来上がった。


 嬉しい誤算だが、風の弾丸はジャイアントアントの硬い甲皮すら突き破ってぶち倒してくれた。


「ピ〜」


 ふぅ〜結果オーライ。


 なんとかなったな。


「ニャァ〜」


 弱々しく鳴く銀猫をモフモフボディーを解除して、息がしやすいようにしてやる。

 そのまま外へと駆け抜けて、体を硬化させて走っていれば、衝突した蟻たちも蹴散らすことができた。


 外へたどり着いて、水飲み場まで一気に移動する。


『まずは傷を洗うピ』


 背中から下ろして、座り込む銀猫に嘴で水を汲んで足にかけてやる。


『ぐっ! 汚いにゃ!」

『翼じゃ水は汲めないピ! 嘴で我慢するピ!』


 3度ほど傷口に水をかけて汚れを洗い流して、近くの枝から柔らかい葉をとってきて巻いておく。


 葉に意味はないけど、傷口が汚れないようにするためだ。


『傷が治るまで巣に戻るピ』


 銀猫は水を飲んで、俺の背中にもう一度乗り込んだ。


 重力の魔法で体を隠してもらって、ジャンプすると十メートルの高さがある巣に届くほどのジャンプが出来た。


 進化をする前はできると思っていなかったけど、進化をしたことで跳躍力も上昇したようだ。


 銀猫を背中に乗せたまま、重力魔法で体を軽くしてもらって巣へと跳び乗ることに成功した。


『餌をとってきてやるピ』

『……どうしてにゃ?』


「ピ?」


『どうしてこんなに良くしてくれるにゃ?』

『意味はないピ。話し相手がいるって嬉しいピ。それだけピ」

『……ありがとうにゃ』

『ゆっくり休むピ』


 俺はモフモフボディーで着地して、獣狩りを始める。

 デカいウサギにデカいネズミを一匹つづ捕まえて、巣の下まで運んでいく。

 重力魔法がなければ、半分ほどしかジャンプをしても届かない。


 いくら翼をバタバタと羽ばたかせても、所詮はヒヨコ。


 飛べはしない。


「ニォオ」


 ありがとう。


 自分の腹ごしらも済ませて、銀猫のために餌と水を届けて、せっせと世話をしたおかげなのか、銀猫は3日ほどで歩けるようになって回復してくれた。


 もしも回復魔法なんてものがあるなら、優先的に取りたいと心底思った出来事だった。


 

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