第9話 2度目の召喚

 蟻塚は一つの山を作るぐらい大きい。

 迷路のように入り組んでいて、食料や蟻の卵が保管されている部屋など多岐に渡っている。


 異物として入ってきたわけだが、意外に襲われることはない。


 外を守っていた蟻たちは好戦的だったのに対して、中で作業をしている蟻たちは自分の仕事に必死で侵入者を相手にしていられない様子だった。


『拍子抜けにゃ』

『入ってしまえばしずかピ、雨風を凌げることはわかったからいいんじゃないピ?』

『そうにゃ。一斉に攻撃を受けることを予想していたにゃ、意外だったにゃ、この方が安全でいいにゃ』


「ピピ!」

「ニャッ?」


 突然、俺たちの前に魔法陣が現れる。

 つまりは召喚のお呼びがかかったということだ。


『なるほどにゃ。これが召喚の魔法陣ってやつにゃ?』

『そうだピ。ちょっと行ってくるピ、問題ないピ?』

『この状態で問題があるにゃ?』


 辺りを見渡せば、働いている蟻たちは一切俺たちに興味がなさそうに動き続けている。


『ないピ。行ってくるピ』

『私は適当に見回りをしているにゃ。時間がかかるなら脱出して好きに過ごすにゃ』


 攻略と言ったが、攻略しなくても共存できるなら問題ない。


 俺は銀猫を残して魔法陣の中へと入った。



 魔法陣を抜けると、そこは……。


「ピヨ?」


 目の前にデカい緑熊がいた。


「ごめんね。……ピリカ。本当は危ないから呼びたくはなかったんだけど、動けなくなっちゃって」


 緑熊とは反対側。


 つまりは、俺の後にアシェがいる。

 それも傷を負って動けない? アシェを傷つけたのがこの緑熊?


「ピヨ!」


 おうおう、俺のマスターをようも傷つけてくれたのぅ〜。ただで帰れると思うなよ。


「ピルカ、ごめんね。私怖くて」


 涙を流す幼い少女。


 女子の涙を見て、戦わんわけにはいかんのぅ〜。


「ガオオオオ!!!」


 こちらを威圧する緑熊。


「ピーーーーーー!!!!(王者の咆哮)」


 うるさいわボケ!!!


「ガウっ!」

「ピヨ」


 ビビるなら最初からやるんじゃねぇよ!


 水魔法よ! 俺の周りに水の刃が浮き上がる。


「ふぇ? 魔法? しかも水って、スーパーなヒヨコって魔法も使えるの?!」

「ピヨピヨピヨ!」


 水の刃が緑の熊を襲って倒してしまう。


「うわー!!! 凄い! 凄いよ! ピルカ!」


 ふん! 銀猫に倒されるような熊が、俺に勝てると思うなよ。


「ピヨ」

「えっ? 乗れっていうの?」

「ピヨピヨ」


 動けないんだろ? 送ってやるよ。


「あっ、ありがとう。ふふ、ピリカって暖かいね」

「ピヨ」


 どっちに行けばいいかわからないから案内はしてくれよ。


「あっ、そうだよね。えっとね。私も逃げている間にここがどこかわからなくなってね。多分、お日様が見えるところに行けば大丈夫だと思うんだけど」


 ふむ、つまりは高いところに登ればいいのか? よし。


 俺はとりあえず歩き始めることにした。

 アシェの魔力が尽きてしまえば、助けてやることもできない。


 歩き始めると獣系の魔物がたくさん出てきやがる。


 もしかしたら、銀猫が言っていた獣の区域に入ってしまったのかもな。

 奴らからすれば、俺様は最高に美味しい肉だ。


 狙われる確率が上がってしまうから、森の奥へは進みたくない。


 風魔法で木を倒して開けた場所を作り出す。

 開けた場所には隠れていた獣たちが姿を晒す。


 アシェのために頑張りますか。


「ピギー!!!(王者の咆哮)」


 威圧を加えて動きを停止した獣たちを風魔法で薙ぎ払っていく。


 敵の強さ道を判断する。

 森の中は、強い魔物ほど深くに巣を作って縄張りを持つ。

 逆に弱い魔物は入り口に追いやられていくはずだ。


 だから、弱い魔物ががいる方向へ向かって走って行けば……。


 ふぅ、ちょっと小高い丘に出れたな。


 森を抜けたのどかな雰囲気の場所に出た。


 魔物の気配もしない。


《気配察知のスキルを獲得しました》


 うん。《神の声》さんちょっと遅いよ。


 もっと早く獲得してれば、強い魔物の場所とかわかったのに……。


「おーい! アシェ!」


 どうやら、一晩明けたようだ。

 いつの間にか、アシェは眠ってしまったようだな。

 山の向こうから日が登ってきた。


 アシェの親父さんがこちらに向かって走ってくる。


「お前は! ピリカ! アシェを救ってくれたのか? ありがとうな」


 髭ずらのオッサンに抱きつかれたくないので、避ける。


「むっ、アシェ以外には、心を開いていないか。まぁいい。アシェを降ろしてくれるか?」


 俺は言われるがままに親父さんの前に背中を向ける。


 落とすのは気が引けるので、お前が取れ。


「ピヨ!」

「あっ、ああ。お前は賢いな。それにマスターのことを本当に考えてくれているよ」


 俺の背中からアシェが降りて温もりがなくなる。


 ふっ、せっかく出会ったマスターと別れなくてよかったな。


 どうやらそろそろマスターの魔力が切れるらしい。


「戻るのか? 次はもっと安全な時に呼んで訓練をしてもらうと思う。その時はよろしく頼むな。娘を助けてれくれてありがとう」


 アシェの親父さんに頭を下げられる。


「ピヨ」


 気にするな。


 俺は最後にアシェの眠る顔を見て、元の場所へと戻った。

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