第6話 熊と猫の戦い 

 三メートルほどある緑色の体毛をもつ熊は、パワーと大きな体を駆使してジリジリと銀毛の猫を追い詰めていく。


 銀毛の猫は、一メートルの体をしなやかにくねらせて、熊の攻撃を避けていくが、熊は太い腕を使って逃げ場を奪われていく。


 ほう〜、良い戦いをするじゃないか。


 細やかな攻撃を繰り返す銀毛の猫。

 ジリジリと間合いを図る緑熊。


 傍目から見ていると手に汗握る獣人対決は一進一退で、どっちが勝ってもおかしくない。熊の方が優勢に見えるがどうなんだろうな?


 もしも、わざと猫の方が追い詰められている演技をしているなら、賢すぎるがどうなんだろうか?


「グウおおおお!!!」


 緑熊が、雄叫びをあげて決めにいく。


 どうやら銀猫が弱って逃げ場を失ったと判断したようだ。


「ニャン」


 だが、銀猫が一鳴きすると、その姿がブレて姿が消える。

 次の瞬間には、緑熊の背後に回って鋭い爪を熊の首へと突き刺した。


 血飛沫が上がって緑熊が倒れる。


「ピヨ」


 銀猫の方が勝ったか……。


 多分だが、緑熊の方がレベルは上だったのだろう。

 今の俺が戦っても勝てるのかわからない。


 だからこそ、銀猫は相手を油断させて、自分の得意な方法で相手を倒した。


『先ほどから何を見ているのかにゃ?』


 それは不意に脳へ響くような声だった。


《念話が使われました。答えますか? 答えた場合はこちらに意思があることが伝わります》


 《神の声》さんから伝わる言葉に、俺はしばらく考えて、念話に応じることを伝えた。


『すまないピ。戦っているところを邪魔したピ?』

『あにゃ? 本当に話ができる魔物なのにゃ。この能力を得たにゃけど、今までどんな相手も話が通じなかったにゃ』


《新しいスキル念話を習得しました。意思ある魔物と会話が可能になります》


『そうピ、俺も初めてだピ。話せる魔物と会ったピ』


 念話を持っていなかった素振りなど一切見せない。

 これは相手との駆け引きだ。


『会話ができるにゃら、一つ頼みたいことがあるのにゃ』

『なんだピ?』

『私は進化の兆しがあるにゃ。だけど、安全な場所で進化をしたいのだけどいい場所がないにゃ。さっきの熊みたいに襲ってくる魔物がいる場所では進化したくないのにゃ。どこかいい場所を知らないかにゃ?』


 いい場所で言うなら、俺が生まれた火の鳥の巣が安全ではある。


 それ以外だと俺がわかるのは水場と蟻塚だけだ。


『ふむ。俺も実は進化の兆しがあるピ』

『あなたもかにゃ? どうするつもりなのかにゃ?』

『この先に巨大な蟻塚があるピ。そこを攻略して奪い取り、安全を確保して進化するつもりだったピ』

『蟻にゃ? 虫はちょっと苦手なのニャ』


 銀猫の念話で伝わる声はメスだ。


 そして、語尾が上手く言えない呪いが!


 俺だって生まれて間もない、だから歳も同じはずだ。


『これは提案ピ。お前の進化を俺が守ってやるピ。その代わり俺の進化が終わるまで守ってくれないピ?』

『ハァにゃ? それを信じられるとでも思っているにゃ? ここは弱肉強食の獣の世界にゃ。あんたが私が進化している途中で襲って殺せば経験値になるにゃ』

『俺は……召喚契約を結んでいるピ』


 これは賭けだ。


 今のところ虫以外を食べるつもりはない。

 だが、相手は肉食獣である猫だ。


 俺を食べる可能性は向こうの方が高い。


 その上で、こちらの手札を見せて交渉する。


『召喚獣にゃ? 何にゃそれ?』


 よし! どうやら知らない情報だったようだ。

 俺の知らない念話を教えてくれたから知っているのかと思ったが賭けは勝ちだ。



『なんだピ。そんなことも知らないのかピ? 話にならないピ』


 あえて、こちらが有利であることを強調するように一方的に話を切ろうとする。


『まっ、待つにゃ』


 銀猫は慌てた様子で、表情を曇らせる。


『……どうやら私よりも世界について詳しいようにゃ。いいにゃ。さっきの交渉受けるにゃ』

『……俺にメリットはあるピ?』

『ぐっ……そうにゃ。あなたが欲しい蟻塚を一緒に攻略してあげるにゃ?』


 戦力になってくれるってことか? 悪い話ではない。

 だけど、今の状態で蟻塚を攻めても勝てる保証はない。

 それなら、進化をしてから向いたい。


『いいピ。ついてこいピ』


 俺は火の鳥の巣がある場所へと戻った。


『あそこに巣があるのが見えるかピ?』


 10メートルぐらいは上らなければならない崖の上。

 そこに洞窟のように窪んだ丸太が突き刺さる巣が見える。


『あれかにゃ』

『あそこが俺の生まれた巣ピ。あそこなら他の外敵がなく進化を行うことができるピ。だけど、俺のこの体では登ることができないピ。俺をあそこに登る手伝いをしてくれれば、情報を教えるピ』

『ふーん、いいにゃ』


 銀猫はその辺にあったツタを咥えて身軽な様子で崖を登っていく。

 その動きは崖など物ともしない動きで素晴らしい。


 一応、俺も自分で登れないかと、崖に足をかけようとするがヒヨコの足が短いからか、豊満な体が厄介なのか崖を登ることは難しい。


「ピッグ」

『何をしているのかにゃ? ツタを垂らしたにゃ』


 この翼ではツタを垂らしてもらっても、どうやって上がればいいんだ?


『咥えるにゃ』

『ピ?』


 俺がツタを咥えるとフワリと体が軽くなって一気に持ち上げられる。


 まるで重力を失ったように、体が軽くなった。

 これなら風魔法を使えば一気に空が飛べる。


『なんにゃ、あなたも魔法を使えるニャ』

『まだピ、風魔法の制御は安定していないんだピ。君は重力魔法を使えるのかピ?』

『そうニャ。それにしても随分と羽が散乱しているニャ』


 前回、俺が進化する際に、痛みで毛が抜けたんだろうな。


『ここなら外敵はいないピ。どちらから進化をするピ?』

『あなたからどうぞにゃ。私はさっきの獲物を食べてくれるにゃ。戦闘と移動で疲れたにゃ』

『そうピ、なら遠慮なくするピ』


 油断していると言われればそうかもしれないが、信じることにして進化を開始した。


《進化先をお選びください》



 


 

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