第5話 召喚

 魔法陣を抜けると、そこは幼女だった。


 どこか建物の中でレンガを積み上げられた壁と天井が広がっている。


「ピッ?」


 目の前に赤い髪をした幼女が俺を見つめている。


 え〜。これはいったいどういう状況だよ。


《召喚されました》


 はっ?


「父ちゃん! 出た! 私、召喚に成功した!」 

「おう、やったな。さすがは俺の娘だ」

「うん! やったよ。凄い大きなひよこさん!」

「ああ、スーパーなヒヨコだな。こいつは成長のさせ方によって様々な可能性のある魔物だ。いい魔物を呼び出せたな」

「本当? やった〜! ヒヨコちゃん可愛い!」


 太い腕をしたガタイのいい髭面のおっさんが、幼女の頭を撫でまくっている。


「呼び出すだけだとダメだぞ。ちゃんと召喚獣と契約しないといけないからな」

「うん。やってみる!」


 幼女が、俺の前にやってきてキラキラとした瞳を向けてくる。


 この瞳に見つめられるだけで、なんでも許してしまいたくなる。


「えっと、大きなヒヨコさん。私の名前はアシェっていうんだ。サモナーの修行をしているんだよ。あなたを召喚して契約を結んで欲しいの、私の召喚獣になってください!」


 う〜ん、どうやら俺はあの魔法陣に飲み込まれて召喚されてしまったようだ。


 強者ムーブを決めて、俺ツエーしているところに幼女から招待を受けたというわけだな。まぁそれは嫌じゃない。


 どこかの悪そうなオッサンよりも何百倍もマシだ。


 それに俺だって、人間の心を持ったヒヨコだ。

 だから、人間と話をするのは嫌なことじゃない。


 ただ、誰かに使役されるというのが、どうにも奴隷のようで嫌だと思ってしまう。


 どうしたものか? どう思う《神の声》さん。


《召喚者と契約を結べば、召喚に応じる必要があります。ですが、召喚者の魔力によっては自らの力を強化することもできます。メリット、デメリットはどっちも存在します》


 なるほどな〜。


 時間の拘束を受ける可能性はあるが、強くはなれるのか……。 


 まぁ、俺としてはこの世界の知識がないから正解がなんなのかわからない。


 チラリと幼女に視線を向ければ、泣きそうな顔になっていた。

 どうやら俺が答えないから、不安な顔をしているようだ。


 幼女を泣かせるのは趣味じゃねぇな。


「ピッ!」


 いいぜ。召喚の契約を結んでやるよ。


「わっ! やったー!!! 父ちゃん! ヒヨコさんが召喚を結んでもいいって!」

「やったな。アシェ! さぁ、契約方法は伝えてあるだろ?」

「うん! 名前を授けるんだよね!」


 不意にアシェの周りに魔力が溢れ始める。


 ほぅ〜魔力量は幼女にしては多いな。


「サモナーアシェが命名しゅる。あなたの名前はピルカ」


 う〜ん、完全に呂律が上手く回っていない。

 ピルカなのか、それともヒルカなのか? ビルカなのか?


 ステータス


 名前:ピリカ


 と表記されているからピルカなんだろうな。


《サモナーと契約を結ばれました。名前を授かり、サモナーが持っている恩恵を授かります》


 恩恵? ステータス表記が追加されている。


 サモナー契約者 アシェ。

 アシェからの恩恵 死ねない心。


 死ねない心?


《はい。幼い子を残して、先に死ねない覚悟を持つ恩恵です。瀕死状態になっても踏ん張ることができます》


 ほう、まぁそれほどのピンチにあったことがないから、いらないような気もするが、あっても損にはならないからいいか。


「ピリカ、嫌だった?」


 俺が何も答えないから、またも幼女が泣きそうな顔をしていた。


「ぴ〜!」


 全然構わないさ。そういう意味を込めて、俺は翼を広げてやる。


「へへへ、喜んでくれたんだね。ピリカ、ありがとう」


 幼女が俺のモフモフボディーに抱きついてくる。


 ふっ、幼女に抱きしめられても、我がモフモフボディーはクッション性抜群だ。


「うわ〜気持ちいい」


 モフモフしながら、顔をグリグリと胸に当てるアシェを守る。

 新しい俺の目標ができた。


「アシェ、いつまでも召喚していれば、お前の魔力が尽きてしまうぞ」

「うん! 父ちゃん。ピリカ、ごめんね。私の魔力が少ないから、ずっと召喚できないんだ。もっと修行して長い時間でも呼べるように頑張るからね。またね」


 モフモフタイムは、どうやら終わりのようだ。


 アシェが俺から離れて魔法陣が光り始める。


 そして、俺は元の場所へと戻された。


 時間にしては、30分程度だと思うが、人と交流できたことは嬉しかったな。


「サモナー契約か、次にアシェに会うまでに俺も強くなっておかないといけないな」


 俺は先ほどの蟻塚を攻略するためにレベル上げをすることにした。


 虫を倒して食いまくった。


「もう少しで、レベルが10になるな。そうなったら、またレベルが上がるのかな? だけど、レベルが上がる時にあの痛みを味わうのは怖い。どうしようかな?」


 安全な場所を確保してから、進化をしたい。


 そんなことを思ってあるといていると、虫ばかりが存在する森の中で珍しい光景を見つける。


「クマと猫?」


 緑色の気持ち悪い色合いをした熊と、銀色の光を放つ猫が戦っている。


 動きは猫の方が速いが、熊の方はダメージを受けていない様子で猫を追い詰めて行っている。


 動物系の魔物たちの争いに参戦するのか思考する。

 

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