異星間恋愛

桐原まどか

異星間恋愛



それはとある満月の夜の事だった。

日向紗奈ひなたさなは帰り道を自転車で走っていた。

いつもの時間、いつもの道、いつもの曲がり角…だったはずだったのに…。

曲がり角を曲がった彼女は急ブレーキをかけた。キキィ、と自転車が悲鳴をあげる。

そこにはありえない光景が広がっていたのだ…。

いわゆるUFOというものだろうか…底から光がさし、地面へ一本道のようになっている。

そこからゆっくりと、本当にゆっくりと男性(人間の男性に見えた)が降りてくるのだ。

満月に照らされ、光の道を降りてくる男性…しかも。

―めっちゃ、、、イケメン。

紗奈の脳裏にそんな言葉がよぎった。

紗奈は息を飲んで、それを見守っていた。

やがて着地した男性は目を開け、紗奈を見た。

「キミ、はじめまして。地球の人、だよね?」

―うわぁ、声も良い!

内心、ドキドキしつつ、紗奈はままよ、と「はい、そうです」と答えた。やや声が上擦ってしまった。

「ボクの名前は、この星の、この地域風に言うと、はやて。キミは?」

―颯、だって。キャー。

と内心の盛り上がりは増す。今度は上擦ってしまわぬよう、慎重に発声した。

「私は日向紗奈…です」

「ヒナタサナ?ずいぶん長い…あぁ、苗字ってやつか。じゃあ、サナが名前かい?」

イケメンにイケボで名前を呼ばれ、紗奈は若干、ポーっとなった。

「はい、そうです…」

もしもこれが漫画だったら、紗奈の瞳にはハートマークが描き込まれただろう。しかし、現実である。

イケメンはとんでもない事を口にした。

「突然なんだけど、キミと、いわゆる<交際>をしたい。同意してくれるかな?」

―はいー?

心臓はバックバクでめまいを覚えた。

―こんなイケメンに…でも…宇宙人なんだよな?

紗奈の冷静な部分が己にツッコミを入れる。

落ち着け、自分。誘拐されて、人体実験されるぞ。

「そんな事しないよ?」

イケメンが―颯が言った。「!???」

紗奈の反応に「失礼」と謝る。「ボクらのコミュニケーションは脳波の読み合い…いわゆるテレパシーだから、クセで思考を見てしまった」

もうしないよ、と言う。

紗奈は動揺からの揺り返しで落ち着いてきた。

「あの…質問してもいいですか?」

「モチロン」颯が頷く。

「えと、どうして私なんでしょう?」

颯が言うには―彼の母星では、いわゆる<適齢期>が来ると、国が管理する巨大なコンピュータにより、婚姻相手が選別される。

最近は母星以外の惑星の人も候補になる。

「で、ボクの相手に選ばれたのがキミ」

―そんなファンタジーな…。紗奈は思わず、ハンドルから手を離し(無意識にぎゅっと握り締めていたのだ)、自分の両頬をペシペシ叩いた。痛いので現実なようだ。

紗奈は思い切って、言った。「じゃあ、まずは…LINEの交換から…どうでしょう?」

「LINE?…あぁ、キミ達が使っているツールだね?似たようなものがあるから大丈夫だよ?」

という訳で(?)日向紗奈はイケメン(でも宇宙人)颯のLINEIDをゲットしたのである。

その後、色々あり…。

ふたりはめでたく、結婚の運びになった。

※※※※

「サナは月が好きだね、ずっと見てる」

颯に声をかけられ、紗奈は振り向いた。結婚して大分経つが、はにかんでしまう。「だって…アナタと出逢った時を思い出すんですもの」

「ボクの相手がキミで良かったよ」

颯に抱き寄せられ、ウフフ、と笑う紗奈。

ふたりは仲良くやっている…。

※※※※

「これが、我が<星を跨ぎませんか?>が成立させた地球人との婚姻です。最近、地球人は人口が減ってきています。彼らの貴重な遺伝子をのこすチャンス!アナタ達も、まずはマッチングから挑戦してみませんか?」

そんな広告が知的生命体のいる星で流されるようになるのは、もう少し先の話…。

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異星間恋愛 桐原まどか @madoka-k10

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