第13話

「ねぇ」


人を駄目にするクッション3号にて、一緒に駄目になっていた要から呼び声。

眠ってしまったとばかり思っていた。

井出切は聞き間違いかな、と思って腕の中の要の顔を覗いた。

薄っすら目が開いていた。

ゆっくり重たげに瞬き。

可愛い、と思うのと同時にキスしていた。


「あの日なんで俺のこと見たの?」


要は珍しく酔っていた。

なんでも仕事をすっごく頑張ってきたかららしい。

そして仕事の相棒シックイとウェイウェイほどほどに打ち上げをして、それぞれ早々に恋人の元へ帰還せり。

そうして頑張ったご褒美、甘えたい甘やかしてって要望され、井手切は片時も離さず息をするようにキスと好きを繰り返した。

止めてと言わずもっと、と擦り寄る要の疲れが癒やされますようにと、井手切は全身なでなでを施した。

そうして反応が減って、身を任され、眠ってしまったんだ、と思ったのに。


「あの日って、飲み屋のナンパ?」


「もちかえったのはおれ」


そこにこだわりがあって、こだわる要は可愛い。

側頭部に口付けてから、井出切は思い返す。


「えーと、飲み屋に行く前日に、口にピアスいっぱいつけてる子が出てるバンドのPVを探したけれど見つからなくて、当日、翌日休みだからそのまま寝ないでまた探そうとする自分を制する為に飲み屋に行って、隣に記憶の中の子と似た感じのカナメくんが座ったもんだから、気になってチラ見した、です」


「なが」


「えへ」


もうすぐ寝そうなゆっくりとした口調。

井出切は優しく要の背中をとん、とん、叩く。


「じゃ、その、ピアス、のやつがすきなの?」


「いやぁ、多分記憶違い。俺けっこー色々動画観るだろ」


「うん」


「それで、確か、ダンジョン攻略者のまとめ動画観て、口ピアスの子が事故ったーみたいなの観て、観たくなって動画探したんだ」


「…事故って、本人写ったってやつ?」


「そうそう、二人組の攻略者で、生配信中に片方の子のフィルターが一瞬取れて、口元、口ピアスが写っちゃった、とかだったかな?」


「…それ、覚えてる?」


「うん、覚えてる。だってカナメくんの口元みたいだな、って…いや俺はカナメくんの口元が大好きだけどっ」


「んふふ…ふふ…」


急に笑い出す要に、失敗したかもと井出切は焦った。

でも全部本当の話なので。

どうか呆れないで嫌わないで。


パっと要が起き上がる。

離れて寂しいので追い掛ける。

艶然、笑まれ、井出切は心臓が跳ね上がった。


「きょ、なめたげる」


「え、え」


なめ?

舐め?

まさかそんな。


「や?」


「まさかそんなおふろはいる」


ご褒美がすぎる。

清潔しなければ。


「一緒にはいる」


「一緒にはいります」


井出切は、え、え、甘えたい甘やかしてが逆転してないかと思ったが。

抗えず逆らわず。

要と過ごす時間を今日も今日とて堪能したのだった。

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名前が出てこないバンドを探して諦めた次の日 狐照 @foxteria

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