進むべき1歩
朝。ピロリン、とスマホの通知音が鳴る。スマホを見ると、彼からLEINが来ていた。
『突然でごめん。今日どこかで遊ばない?』
彼から連絡が入ったのは珍しく、どうしたんだろう……と気になったのもあり、2つ返事でOKをした。
そうしてバタバタと慌てながらも支度を終え、彼にメッセージを送る。
『準備出来たよ』
『いつものカフェで待ってる』
『了解〜』
返事をしながら扉を開け、いつものカフェへと向かった。
* * *
『Cafe, アプリコットフィズ』。私と彼で初めて行った場所。あと、私たちの間で何かがあるとここに来ることに決めた場所でもある。
店員に待ち合わせなので……。と断りを入れ、少し歩くと彼が見えたので声を掛ける。
「やっほ〜」
「う、うわああっ、!?」
……私が後ろから話しかけたのが悪かったのかもしれない。
「え〜っと、驚かせちゃった……?」
「あ……全然大丈夫だよ。」
安心した、と言わんばかりの顔と声に私はふふっ、と声を漏らす。
適当に珈琲を頼み、話題を振る。
「それで、いきなり遊びたいとか言った理由はあったりするの?」
「理由もなにも、ただ遊びたかっただけ……かな」
なんとなーく気になって聞いてみたけど、普通には答えてくれなさそう。
でも君の瞳は凄く正直で、目を泳がせているのがバレバレ。きっと寂しかった〜とかそういった理由だと推測する。
「ふーん。そっか、そういう時もあるよね〜。私も意味は無いのにゲーセンに入ることがあるから分かるんだよねw」
「まぁ、な。あるあるだよな。」
上手いこと話を逸らすと、彼はまた安心した顔をした。
彼は表情豊かで見ていて飽きない。というより、結構表情が顔に出ているところを見ると彼自身は気付いていないのかもしれない。でも、わかりやすい方が嬉しいから彼の良い点でもあると思う。
「……?」
首元に何か痕がある気がする。……あ、紐の痕だ。首をぐるっと縛ったかのような痕だからきっと、彼はまた死のうとしたんだ……。
「ねぇ、あのさ」
恐る恐る、聞こうとしてしまった。興味もあるけれど、それ以上に彼がどうして死を望むのか、気になってしまう。
「う、うん」
彼は口に手を当て、首元を隠そうとしている。今は冬だからマフラーをつけてきてもおかしくはないのに、それをしなかったということは気付いてほしいんじゃないかって。そう、思ったんだけど……。
「貴方……その……。いや、やっぱなんでもない、かも」
彼が身構えていたから。恐れる目をしていたから、私から聞くのはやめておいた。
きっと、理由があるのかもしれない。もしそうなら、君の口から聞くまで待っているから。
そう思って彼の方を向き直すと、とても落ち着かない様子が見受けられた。
「……そんなに言いかけてた内容が気になるの?」
「あ、どうしてもちょっと、不安でさ」
「そっか〜」
一瞬、話そうか迷ったけれどまだ確信には至っていないから別の話題を話すことにした。
「そのね、ふと思ったんだけど、貴方のことについてあんまり知らない気がするって思ったの。だって名前ですら苗字が『汐夜』くらいしか知らないのよ?」
「……それは確かにそうかもしれないな」
「でしょう?だからここで自己紹介しない?」
「ありっちゃありだな」
「了解、なら先に私から言うね。
「え、素敵な名前ですね。僕は
「澪さん……名前がかっこいいですね〜」
「……ははっ」
「ふふっ」
異様な雰囲気に耐えきれず、2人で笑い合った。
私達はお互い自分語りが苦手なので、名前に関しても日常に関しても聞くことも聞かれることもなく、ほとんど分かっていないのか現状であった。でも、今、ここで名前を出したことによって、何かが進んだ気がした。
「なんか、凄い今更感がするね」
「だな」
懐かしい思い出話をしようとしたその時、17時を知らせる音楽がお店の外から聞こえた。
「もう17時になったのか」
彼から放たれた、どこか寂しげな声に、嫌な予感がした。
「どうする?まだ話す?それとも帰る?」
何となく、聞いてみた。
「ん〜、今日はもう帰ろうかな。君の方こそ、遅くなっても良くないだろうし」
「りょーかい。じゃあ今日は解散ってことで」
ケーキの最後の一口を頬張り、レジへ向かう。
「お会計は1200円となります」
このカフェは美味しいなりに値が高い。
「僕が払うよ」
「え、いいの?」
「もちろん」
「ありがとうございました」
近くて遠い、僕と君 エス @_escape_
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