過去の声
目が覚めると、そこは白い空間だった。僕は何故か座っている。
気が付くと横に君がいた。
「ねぇ、本気?」
少し怒っている声色だ。
「……ごめん」
何となく、心当たりがある気がしたんだ。
「ごめん、で許されると思ってるの?」
どうやら少しどころではなく結構お怒りのようだ。
「いや……」
どうにか言い訳をしようとするが、言葉が詰まって出てこない。
「なんで?どうして?」
「ごめんな」
謝ることしか出来ない。
「……死なないで、っ」
君の目から一筋の涙が零れ落ちた。
ここで僕はようやく気が付く。あぁ、これは僕の夢なのだ、と。
僕は幸せでも不幸でもない、なんでもない人間だ。友達がいなかったわけでもない。親が毒親だったわけでもない。やりたいことが出来なかったわけでもない。
ただ、生きててもつまらなかったんだ。生きていても人生に存在価値を見出せなかったんだ。そして段々とまだ知らぬ刺激を求めていった。非日常的な出来事。欲求。自傷。快楽。そして、死。
僕は、『死』という見ることの出来ない境地を知りたがった。泡沫のように消えてしまうのか、新しいものとして転生するのか。どうなるのかは誰にもわからない。だからこそ知りたいのだ、そのまだ見ぬ世界を。
でも、『それ』を願えば願う程多くの足枷がついた。1つはネットにいる誰か。1つは友達。1つは家族。1人は、自分自身。その他にもたくさん。僕自身についてしまった足枷はそう簡単に外れそうにない程の深い深い溝に埋まっている。鎖で繋がっていて、なかなか断ち切ることも難しい。でもこれは縁を繋いだ僕が悪いのかもしれない。
とにかく僕は、死にたがりなのだ。
だが、同時に酷く意気地無しだ
* * *
はっ、と目が覚めた。なんだか頬が生暖かいと思い触れてみる。一瞬水かと思ったが、自分の涙だと気がつく。……どうやら僕は泣いていたようだ。
それよりも、今日はとても嫌な夢を見てしまった。
死なないで、だなんて無責任な言葉を例え夢の中の出来事だとしても、君にだけは口にしてほしくなかった。それは僕にとっては呪いのようなものだから。
止まれと言われて止まる人がいないのと同じように、死ぬなと言われて死なないというのは多少無理があるだろう。もちろん、個人の感性にもよるが。でも僕は、足枷があるせいで自由に生きられないんだ。捨てにくい重荷を沢山背負ってしまったから。
……ダメだ、どうしても過去の事を些細なきっかけで思い出すと鬱気味になってしまう。
今日は休日だが君に会いに行こうと思い、簡単なメッセージを飛ばしてから支度をする。首にかけていた紐を外し、朝ご飯を食べ、着替えをして、身支度を整えていく。
きっと君はこの紐の痕を見て怒るかもしれない。それでも、今は君の近くに居ることが生きがいだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます