お揃いの物

 はぁ……、と溜息をついた。

「元気がなさそうだけど大丈夫?」

「え、え?ええっ!?」

駅前の椅子に座っていたらいつの間にか君が横に座っていて、驚いて声を出してしまった。

「いつから隣にいたんだ……?」

「さっきからだよ。それにしてもびっくりした〜」

「いやいや、僕の方こそ驚いたよ」

「え〜、でも気付かない方も悪いと思うけど。」

「そんなに言うか?」

LEINレイン送っても未読無視、手を振っても反応無し、隣に居ても無言のままって。私の事を無視してるかと思ったんだから。」

結構、お怒りのご様子である……。

「それはごめん。」

「こういう時は、あそこに行かない?」

とても純粋な子供の目でこちらを見つめてくる。

「うっ……わかった」



 そう言って連れてこられたのは、ゲームセンターである。

「やっぱりストレス発散には良い場所だよね〜」

君はとてつもなくゲーセン中毒者であり、よくこのゲーセンで散財しているのだ。正直、お金がどこから湧いているのか気になるくらいだ。

「それで、今日のお目当ては?」

「これを取ろうかなって」

そう言って指差した先にはクレーンゲームがあった。景品は抱き枕らしい。

「この抱き枕、好きなシリーズのやつだから凄く欲しいなって思ってるの」

「へぇ……。こんな大きめな景品取れるのか?」

「まぁまぁ、任せてよ」

台の中には2種類の景品が置いてある。どちらにするのか決めてあるのだろうか、と思いつつ君の方を見る。

「ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な・?」

なんと、神頼みをしていた。これで23歳年上とは全く思えない。そういう僕も21歳だから大差ないのかもしれないが。

「決めた、こっちにしようっ」

と言うと同時にどこから出したのか、100円を台に入れてボタン操作を始めた。

好きなことには一直線なのか、楽しそうにしている君を見ていると僕もなんだか楽しくなってくる。

「え、アーム弱い……流石、人気物はおつらいね」

とよく分からないことを言いながらもお金をどんどんつぎ込んでいく。これでもう900円だ。

「うーん……」

「程々にしておきなよ?」

なんだかこのままだとお金を溶かしきりそうな勢いだったので、心配でつい声を掛けてしまった。

「もちろん。でも大丈夫だから。」

そう自信満々に君は言い、見事に景品を取った。

「……凄いな」

思わず口から言葉が漏れ出た。

「ゲーセン歴何年だと思ってるの?」

唐突に質問され、何となく勘で答える。

「えーっと、5年?」

「残念、10年だよ〜」

そう言われて驚いた。僕よりも長いらしい。

「まじか……」

「もしかして嘘だと思ってる?」

「い、いやそんなつもりは……」

少し思いかけてたのがバレていそうで即座に謝る姿勢を取る。

「冗談だってw」

スカートを翻しながら君はそう言った。

「そ、そうか」

そう言うと君はえへっ、と笑った。

内心、物凄くホッとした。

「そういえば、貴方は何か取らないの?」

君は突然そう言った。どうやら僕が何もしていないことに気付いたらしい。

「僕はクレーンゲームとか下手だからさ」

これは嘘ではなく本当のことだ。上手く取れないのと、お金がどんどん溶けていくので結局諦めてしまうのだ。そのため、最初からやらないことにしている。

「なら私が取ってあげるよ」

ニコッと微笑みながら君はそう言う。

「いや、そんなのお金が……」

「いいのいいの、早めの誕プレだと思ってさ」

僕の誕生日は8月なのだが、今は少し肌寒い11月だ。

「僕の誕生日、半年後なんだけど?」

「そっか、ならクリスマスプレゼント的な感じでどう?」

「まぁ……っていやいや、せめてお金は僕が出すよ。取るのは君でいいからさ?」

流石にこんなところで奢らせるわけにはいかないと思い、財布を取り出す。

「いやいやいや、貴方が出す必要ないって」

「そうは言っても、申し訳ないからさ。元はと言えば僕の景品を取るための話だしさ、ね?」

「わかった……。」

何となく悲しそうにしているような気がした。でも君から出されるお金を受け取るよりは良い方向だと思った。

「それで、何が欲しいとかある?」

「えっと、なら……抱き枕にしようかな」

取りたいものが特にあったわけでもないけれど、聞いてくれているのにも関わらず何でもいいよ、なんて言うわけにもいかないので抱き枕をチョイスした。

「ふーん、貴方も抱き枕とか好きなの?」

「まぁ、意外と寝心地が良くなるからね」

「確かに、それはそうかもw」

軽い会話をしながら抱き枕の台へ向かう。

「そういえば100円玉って用意出来てる?」

「あ……全くないかもしれないな……」

「ここに両替機あるし、先に両替しておかない?」

「そうするか」

1000円札を入れると、お金の音がじゃらじゃらと聞こえて100円玉が10枚出てくる。

「1000円あれば取れると思うから、これで大丈夫。」

「ありがと」

「ううん、私の方こそお金出させることになってごめん。」

「いやいや、大丈夫だよ」

「あ、あの台じゃなかったっけ……?」

「うん、あの台だよ、早く行こ!」

「うん」

そうして小走りして台の前につく。

「じゃあ、早速始めるよ〜」

「ああ、了解」

お金を渡すと、君はボタン操作を始めた。


 少し待っていると、景品が取れた音が台から鳴った。

「はい、取れたよ」

そう言って抱き枕を渡そうとしてくる。

「ありがとう」

そう言って抱き枕を手に取った。

「あれ、そういえば今何時だ?」

時間感覚をすっかり忘れていたことを思い出す。

「あ、確かに」

お互いにスマホを取りだして時間を確認する。

「午後7時……か。」

「あの、いきなりゲーセン行くことに付き合わせちゃってごめんなさい……」

「いや、気分転換になったし感謝してるよ」

とても心配そうにしているので、感謝の言葉を伝えておく。

「良かった……」

途端に心底ホッとしたような顔をする君。

「ただ、もうこんな遅い時間だから……どうする?帰る?」

「ん〜、時間も時間だし、今日は解散しよう」

「は〜い」

そう言って共にゲーセンの外へ出た。

「僕はこっちだから、またな」

と言って手を振る。

「うん、またね!」

……手を振り返す君はどことなく寂しそうだった。



 家に着き、即、ベッドにダイブする。

はぁ……、と溜息をついた。

散らかった部屋、椅子、天井からぶら下がる紐。

今日もまた勇気が1つ消えていく。

いつになったら死ねるのだろうか。

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