第15話 エピローグ

 澄み切った空が広がり、花々が咲き誇るこの佳き日。

 ロアンデル王国の国民は、祝賀モードに盛り上がり浮き立っている。

 貴族たちは美しく着飾り、主役となる二人の登場を今か今かと待ち構えていた。


 今日は、王太子テオドールと、公爵令嬢セリーヌの結婚式が執り行われる日だ。


 王都にどっしりと構える、歴史ある大聖堂の奥で、セリーヌは純白のドレスを身にまとっていた。


 今日のセリーヌはいつも以上に美しい。銀色に輝く髪は丁寧に結い上げ、王族が引き継いできた伝統のティアラが頭上に輝く。華やかなメイクで強調された菫色の瞳は麗しく、瑞々しい唇は彼女の心を映して弧を描く。

 婚礼衣装は、王家御用達のプロデザイナーが、気合いを入れて仕上げた特注ドレスだ。胸元から腰までは見事な刺繍が施され、腰からはふんわりと幾重にもレースが広がっている。レースの先端部分も刺繍、そしてパールが散りばめられていて、光を浴びるとキラキラと輝く。


「ふふっ。さすがは我が娘。わたくしに似て美しいわぁ」

「セリーヌ……いつでもっ、いつでも帰ってきて良いからなっ!」

「父上、ちょっと縁起でもない」


 両親とフィルマンが花嫁の控室にやってきた。セリーヌを美しく着飾ってくれたマリーは、部屋の隅で瞳を濡らしている。

 既に泣いている父を呆れたように一瞥し、フィルマンは「姉上、綺麗だ」と賛辞した。


「ありがとう、フィル」


 セリーヌがニッコリして礼を言うと、フィルマンは照れたように頬を掻く。


「姉上、テオを頼むぞ」

「ふふっ。フィルこそ、テオ様のサポートをこれからもよろしくね」

「わかってる……。幸せになれよ」

「ええ。もちろん!」

 

 セリーヌは花開くように微笑んだ。その笑顔を、心の底から嬉しく、そして少しだけ寂しく感じながら、彼らは幸せそうに笑い合っていた。



 

 

「あぁ! 美しすぎる! 誰にも見せたくない! 閉じ込めておきたい!」


 どこかで聞いたようなセリフが頭上で聞こえる。

 セリーヌはぎゅうぎゅうとテオドールに抱き締められていた。


 両親達との時間を大切に過ごせるよう配慮して、この部屋に来るのを我慢していたテオドール。

 そして家族が退出したタイミングでやって来たのだが、美しい花嫁姿のセリーヌを賛美し褒めちぎった後、抱き締めて離さないのだ。


「こんなに美しい花嫁がいたら、どこかの神々が攫っていくんじゃないだろうか?」

「ふふっ、そんなことあるわけないでしょう?」


 自身もとても美しい顔をしているのに、そんなことは棚に置いてセリーヌのことばかり賛美してくる。

 新郎であるテオドールも、純白のタキシードを着用していて眼福だ。戴冠式の時のマント姿も凛々しくて素敵だったが、タキシードは「王子様」らしい姿で、大変良い。セリーヌは胸をときめかせていた。


「わたくしも……貴方を独り占めしたい……です」

「! ああ、セリーヌ!」


 さらに強い力でぎゅっと抱き締められて、「苦しい」となんとか伝えると、今度はキスが沢山降ってきた。

 そして見つめ合い、微笑み合う。


「テオ、今日を迎えられたこと、本当に嬉しく思います。ありがとう」

「セリーヌ……こちらこそ。私の花嫁になってくれて、ありがとう。私の長年の夢が叶いました」


 翡翠の瞳はセリーヌだけを映し、彼女の手を取ると、指輪をはめる場所にキスを落とした。


「テオ……愛しています」

「私の方が、愛しています」

「ええ?」

「ふふふ」


 花嫁の控室。


 白い装いの二人は今日の主役。

 

 今日は雲ひとつない青空が広がり、風は優しく、緑が光り輝く。


 二人はそっと唇を重ね合わせ、そして幸せそうに微笑み合うのだった。



**END**

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浮気ダメゼッタイ!悪役令嬢ですが一途な愛を求めます! 窓辺ミナミ @madomina

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