走馬灯クイズ(stop the time)
遠藤みりん
第1話 走馬灯クイズ(stop the time)
男は今日、自らの手で命を断とうとしていた。
叶う事無く破れた夢……
去って行った恋人……
そして居場所など無い社会……
理由を挙げればキリがない。何1つとして上手くは行かない。とにかくもう決めた様だ。
男は人混みを抜け、この街の中で1番高いビルを目指した。
100メートルはあるだろうか?ビルの最上階は眺めが良く風がとても強い。そして青い空がどこまでも広がっている。
遺書など残さない。男が人生を辞める理由なんて誰も興味がないだろう。
「さよなら」
誰に言うわけでも無い別れを告げた男は手すりを超え、靴を脱ぎ、大げさに手を広げて身を投げた……筈だった。
落ちない……落ちないのだ。手を広げ、青い空にダイブした筈が、宙に浮いたまま落ちる気配が全く無い。男は腕時計を確認してみても秒針は止まったままである。
何が起きている?人間は危機に晒されると視界がスローモーションになると聞いた事があるがスローモーションどころかしっかりと時間が止まっているではないか……男は宙に浮いたまま焦り、状況を理解しようと思考を巡らせた。
どれくらい宙に浮いていただろう?男は宙に浮いたままやっと落ち着きを取り戻してきた。腕時計は止まったままだ。しばらくすると青空の先に空を飛ぶ何かがこちらに向かってくる。
鳥か?いや、違うな……何か白い羽の様な物が羽ばたいている様に見える。
「天使だ!」
男は驚きの余り宙に浮きながら独り言を呟いた。白い羽、巻きつけた白い布、金色の髪、正に典型的な天使なのである。
天使は男の目の前で止まった。無表情でハタハタと羽を羽ばたかせている。無表情のまま唐突に天使は叫び出した。
「それでは始めましょう!走馬灯クイズ!」
「何だって!?」
男は突然の出来事に目を丸くした。無表情の天使からは考えられない発言だった。
「第一問 幼少期の貴方は右腕を骨折してしまいました。骨折した理由を答えなさい」
「待ってくれ!何がしたいんだ!?」
天使は何も答えない…… 突然のクイズの出題に戸惑った。無表情のまま、会話もままならない不気味な天使を目の前にしクイズに答えるしか無いと悟った。
「好きな女の子を側転しながら追いかけて骨折した!」
“ピンポン!”
「正解!」
どこからともなく“ピンポン!”と効果音が流れてくる。とにかく男は正解したのだ。
正解を告げられると同時に男の体は40メートル程落下した。腕時計を見ると1秒だけ秒針が進んでいる。
そうか……クイズに正解すると落下するってわけだ。状況を理解した男の選択肢はクイズに答える事だけである。
「第二問 学生時代の貴方が好きな女の子から付けられたあだ名を答えなさい」
妙に嫌な思い出ばかり出題してくる。この仕打ちは一体何なんだ?俺が何かしたのか?
男の疑問は尽きないがクイズに答えるしか無い……
「黒いマヨネーズ!」
“ピンポン!”
「正解!」
正解と同時に更に地面に近づく。落下スピードは増し地面からはあと10メートルって所だろう。秒針は更に1秒進んでいた。
「さぁ最後の問題です!貴方は恋人にプロポーズを断られます。断られた理由を答えなさい」
これが最後の問題か……これを答えれば望み通り人生を終わらせられるだろう。プロポーズを断られた理由は1つだけ。男は答える。
「他に好きな男が出来たから!」
“ブー!”
「不正解!答えは“貴方の夢を邪魔したくなかった”です」
「そうだったの!?」
答えを聞いた男は驚いた。同時に不正解の効果音と共に体が宙に浮かび上がりあっという間にビルの屋上へ戻される。腕時計の秒針は2秒前に戻されていた。
“この世には目には見えない何かの力が働いている” 男はそう悟り死ぬ事を諦め揃えていた靴を履いた。
「彼女をまた迎えにいこう」
男は人混みの中に消えていった……
走馬灯クイズ(stop the time) 遠藤みりん @endomirin
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