キンモクセイ甘い想いを持て余す

杉里文香

萌える秋

幼馴染の伸二から映画に誘われた。

嬉しかったけど躊躇した。

何故なら、伸二は親友の旦那だからだ。

伸二とは、幼稚園、小学校、中学校、高校まで一緒だった。

遠慮がない分、よく喧嘩もした。

私の実家は雑貨屋を営んでおり、伸二は小学校時代に私の実家の店をネタにして替え歌を歌ったりして、怒った私は彼をよく追いかけ回した。

高校時代は、彼に彼女が出来た。

その時は一抹の寂しさを感じた。

大学を卒業して社会人になった頃、彼は実家の工務店を手伝うようになり、町で工事中の彼をよく見かけるようになり、「元気?」

みたいな軽い会話はよくした。

そして時折、酔っ払った彼から電話がかかって来るようになった。

告白めいたような内容であったが、私は酔っ払いの戯言だと思い、素っ気ない返事をした。

ある時、しらふの彼から電話があり、話があるから彼の会社の倉庫まで来て欲しいと言われた。

話の内容は大体予想がついたけれど、複雑な思いに駆られた。

私の親友の沙和子が彼のことをずっと好きだったからだ。

沙和子から伸二への思いをずっと聞かされていたし、裏切るようなことは絶対に出来ないと思った。

結局、待ち合わせの場所には行かなかった。

私はその後、知人の紹介で知り合った人と結婚した。

数年後、伸二と沙和子は結婚した。

お互いに結婚祝いや出産祝いのやり取りとか普通のお付き合いはあった。

そんなこんなで、あれから数十年経っていた。

映画のお誘いは断ろうと思ったけれど、映画は昔懐かしい名画の「追憶」だったので、やはり観たくて行くことにした。

待ち合わせの駅で彼の後姿を見た時、何か哀愁を帯びていて切なくなった。

私達は熟年になっていた。

映画館で隣り合わせに座った私達は、席が狭いせいか肩が触れ合った。

絡みのシーンでは彼の身体がピクッピクッとふるえているように感じた。

映画が終わってから二人は食事をした。

「ケイティがハベルのことを本当に好きだって演技、バーバラ-ストライサンドは流石、上手だったよね。」

「銀幕のスターだったロバート-レッドフォードはカッコイイ!」とか感想を言いながら楽しく会食した。

店を出た後、「じゃあ。」と手を振って別れた。 

帰宅してワインを飲んでいると、伸二からラインが来た。

「俺達は幼稚園からの同級生。他の人達よりは遠慮ないはず。いつもそう思って接しているつもり。だから、伸二、ありがとう、楽しかった、又連れてって、それで大満足。

文香、又明日からお互い頑張ろう。

想い出をありがとう。」

とメッセージがあった。

それを読んで、いつもよりワインを飲み過ぎてしまった。

翌朝、近所を散歩すると、私の住んでいる地域にはどの家にもキンモクセイの木が植えてあり、花は満開でした。

昨日の映画の余韻に浸っている私はキンモクセイの甘い香りに酔ってしまいました。

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キンモクセイ甘い想いを持て余す 杉里文香 @yumetokibou0808

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