おんなのここわい
「何見てんじゃこら。ワレらどこの学校じゃ」
小柄だがリーダー格と思しき
修学旅行中に限らず、他校の生徒と問題を起こすのはよろしくない。マシロはなるべく穏当にことを済ませようと、ずり落ちかけていた眼鏡を元の位置に戻した。
これすなわち、タクマを前面に押し出すのが正しい対処法。性格はともかく、コワモテの彼が前に出れば、たいていの相手は怯む。
「タクちん。へるぷ」
「………………」
タクマも心得ているので、腕組みをして仁王立ちしながら、無言で相手を
しかし賭けは完全に失敗である。見下ろされた相手は怯むどころか、タクマの胸倉を掴んで挑みかかってきた。
「ああん?やんのか?ゴリラ」
「ちょっと!なんなん?あんたたち!」
マシロが集合場所で待機しているはずの先生を呼びに行こうかと考えていると、タキが果敢にもリーダーに食って掛かる。
「なんじゃあ?ねえちゃん達が遊んでくれるんか?」
「ふん」
ニヤニヤと下品に嗤うヤンキー集団に、タキ、サヨリ、ハヤセは不敵に笑い返す。マシロ、タクマ、トオルの3人は、いざとなったら彼女たちの手を引いて逃げるつもりでいたので、顔面蒼白になる。
しかし、勝負は一瞬で片が付いた。彼女たちの目が束の間青く光り、ザザザ……と不穏な風が吹く。静かな海面が嵐のような白波を立てる。逆巻く水飛沫が生き物のように宙を舞い、ヤンキー集団を飲み込んでいく。
「ぎゃああああ~~!」
リーダーの悲鳴が
「あら~。足ば滑らせるなんてドジやなあ」
「ほんとやなあ」
「ばいばーい」
女子3人は、和やかに微笑みながら手を振っている。目の前で起きたことが信じられないマシロたちは呆然と彼女達を見つめていた。ポツリ、とトオルが呟く。
「……なに、今の」
「あ、いけん、力使うてしもた」
「旅ん加護ばあげるけん、内緒にして」
「え?あ、は、はい」
「みんな遊んでくれてありがとね」
彼女たちがパチリとウィンクすると、3人の体が少しだけ光って胸の辺りが温かくなる。俯いて胸を押さえた彼らが顔を上げた時には、彼女たちの姿は幻のように消え失せていた。
「なんだったんだ……あれ」
その後、ようやく他の級友と再会できたマシロたちだったが、先ほど起きた不思議な出来事を上手く説明することは出来なかった。それに彼女たちとの約束もある。
フェリーで本土への帰路につきながら、海風に天パを煽られるトオルが思い出したように呟いた。
「そういえばさ。厳島神社の祭神て
北九州玄海灘に浮かぶ沖ノ島等、宗像大社の三女神は、厳島神社にも祀られている。折しも10月と言えば神無月。神々は島根の出雲大社に集う。
「……まさかなあ」
旅の思い出にしては不可思議すぎる。3人は遠ざかる朱の大鳥居を見つめ、乾いた笑いを漏らすのであった。
もみじまんじゅうこわい 鳥尾巻 @toriokan
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